過去3年間のデータに見る「日本におけるクルマ泥棒」
2024.03.25 デイリーコラムまさに氷山の一角
突然ですが、クルマを盗まれたことはありますか?
おそらく多くの人はそんな経験はないだろうし、実のところ、クルマ所有歴30年に達した筆者だって、いまだかつてクルマを盗まれたことはない(車上荒らしはあるけれど)。
でも、よくよく考えればそれは運がいいだけなのかも。筆者の直接の知り合いでクルマを盗まれたことがある人は3人いるし、SNSでクルマ系のコミュニティーを見ていると「愛車を盗まれたので拡散希望」といった投稿をしばしば見かけるのもまた事実。テレビで、防犯カメラがとらえた“盗まれる様子の映像”が流れるのも珍しくはない。
というわけで、今回は一般社団法人日本損害保険協会がまとめた「自動車盗難事故実態調査結果」をもとに“クルマが盗まれる”ということについてお伝えしよう。
なお調査結果は、2021年1月1日から2023年12月31日の間に発生した事故から統計をとったもの。その期間の事故のうち、保険金が支払われた事案が対象だ。
そもそも、一年でどのくらい車両盗難事故が起きているのか?
今回の調査によると、件数は2021年に2425件、2022年に2656件、そして2023年は2597件。つまり、同じくらいのペースで車両盗難が発生しているってこと。国内の自動車保有台数はだいたい8000万台弱なので、年間2500件ほどといえばけっこう少ない……と思いきや、これはあくまで「保険金が支払われた事案」。全体像ではないのだ。
盗難で保険金が支払われるにはまず車両保険に加入している必要があり、この加入率がだいたい50%弱。しかも、車両保険でも「エコノミー型」とも呼ばれる「車両対車両のみ」のプランだと愛車が盗難されても車両保険は支払われないので、ここにカウントされていない。対象は「フルカバー型」とか「一般型」といわれる車両保険を掛けていた人の情報に限られるということだ。
盗難時に保険にお世話になりたいならそれに対応する車両保険をつけておく必要がある。……なんていうのは読者諸兄ならすでにご存じとは思うけれど、高額車や人気車(!?)などを所有しているならしっかりと保険に入っておくことをお勧めしたい。
![]() |
“盗難多発県”はある
盗難が発生した場所を都道府県別にまとめたデータを見ると、トップは3年連続で愛知県。2023年は盗難全体の15.8%を占めた。今回の調査では愛知で被害が多い理由まではわからないが「(窃盗団に人気の)トヨタ車が多いから」という説もある。
そして2位と3位は千葉県(2023年は全体の11.6%)と大阪府(同11.5%)が毎年交代になっている。そして4位は毎年変わらず埼玉県(同10.7%)が定位置。それにしても、この“トップ4”で対象となる盗難発生数の5割前後を占めてしまうのは驚きだ。都道府県による偏りは「けっこうある」といえる。
ちなみに東京都は、2021年こそ全体の3.7%で8位にランクインしているものの、2022年も2023年も11位以下で“ランク圏外”。東京の自動車保有台数は愛知よりは少ない(埼玉よりも少しだけ少ない)とはいえ、大阪や千葉よりは多い。にもかかわらず発生件数が少ないのは一体どういうことなのだろう。これもまた不思議だ。
公表されたデータにはそれに関する記述はないが、よく語られている「東京はマンション暮らしが多くてゲートのある駐車場や機械式立体駐車場の比率が高い」という説は、確かにそうかも。「東京の港の近くは盗んだクルマを隠す場所が少ないから」という説もあるが、言われてみれば確かにそれも当てはまりそうだ。
ちなみに車両盗難が発生した時間は、深夜~朝(夜22時~9時)が50%以上。これはなんとなくイメージできるけれど、人気(ひとけ)が少なくて犯罪には都合がいいからだろう。
トヨタ車率が高すぎる!
さて、気になるのは「どんな車両が盗難被害に遭うのか」ってこと。そのデータもしっかりあって、ナンバーワンはやっぱり「トヨタ・ランドクルーザー(ランクル プラド含む)」だ。人気者はつらいね。
2位以下4位までは「アルファード」「プリウス」「レクサスLX」が定位置で、その3車種で年ごとに順位を入れ替えている。あとは「ハイエース」「クラウン」「レクサスRX」あたりが定番。
なんだトヨタ車ばかりじゃないか! ……と思ったら、どの年も9位まではすべてトヨタ車(レクサス含む)だった。というか、2021年から2023年までの統計で10位までに入ったトヨタ車以外のクルマは2023年に10位につけた「メルセデス・ベンツ」という表記のみ。「それは車種名じゃなくてブランド名じゃないか?」と突っ込みたい気持ちはさておき、見方を変えれば同ブランドの車種を全部合計しても、全体から見れば10位にしか入れないということになる。なんというか……いくらなんでも、トヨタ車って人気集めすぎじゃないか?
ただ、トヨタ車の名誉のために言えばそれは決して「トヨタのクルマが盗みやすい」ということではないだろう。ランクルなんて「ランクルの歴史は車両盗難との戦い」というくらいの勢いで盗難対策を設計に盛り込んでいる。筆者の想像にすぎないが、あくまで「人気があって、海外で売りやすい」ということでトヨタ車が選ばれているのだろう。
というわけで、駆け足ではあるけれど近年の車両盗難の傾向を感じていただけただろうか。はっきり言って、クルマを盗む人とその対策はいたちごっこだ。新型ランドクルーザーには盗難対策として指紋認証なども付いているけれど、それが破られる日がくるのも間違いないだろう。
そんななかで愛車を盗まれたくないユーザーができることといえば、セキュリティーの高い駐車場を選んだり(機械式立体が頼もしい)、ハンドルロックやタイヤロックなど物理的な盗難防止策を施したりすることだ。スマートキーは、必要なとき以外は電波が出ないようにしておくのも大切だ。(盗む人にとって)人気のクルマを選ぶならば、それなりの対策はやるべきだろう。
そしてやっぱり万が一に備えて車両保険はしっかり掛けておくことだろうか。なんか保険会社の回し者みたいな結論で申し訳ないけど、最後はそこにたどり着いちゃうよね。やっぱり。
(文=工藤貴宏/写真=トヨタ自動車、メルセデス・ベンツ日本/編集=関 顕也)

工藤 貴宏
物心ついた頃からクルマ好きとなり、小学生の頃には自動車雑誌を読み始め、大学在学中に自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。その後、バイト先の編集部に就職したのち編集プロダクションを経て、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。別の言い方をすればプロのクルマ好きってとこでしょうか。現在の所有車両は「スズキ・ソリオ」「マツダCX-60」、そして「ホンダS660」。実用車からスポーツカーまで幅広く大好きです。
-
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代NEW 2025.9.17 トランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。
-
スズキが未来の技術戦略を発表! “身近なクルマ”にこだわるメーカーが示した問題提起 2025.9.15 スズキが、劇的な車両の軽量化をかなえる「Sライト」や、次世代パワートレインなどの開発状況を発表。未来の自動車はどうあるべきか? どうすれば、生活に寄りそうクルマを提供し続けられるのか? 彼らの示した問題提起と、“身近なクルマ”の未来を考える。
-
新型スーパーカー「フェノメノ」に見る“ランボルギーニの今とこれから” 2025.9.12 新型スーパーカー「フェノメノ」の発表会で、旧知の仲でもあるランボルギーニのトップ4とモータージャーナリスト西川 淳が会談。特別な場だからこそ聞けた、“つくり手の思い”や同ブランドの今後の商品戦略を報告する。
-
オヤジ世代は感涙!? 新型「ホンダ・プレリュード」にまつわるアレやコレ 2025.9.11 何かと話題の新型「ホンダ・プレリュード」。24年の時を経た登場までには、ホンダの社内でもアレやコレやがあったもよう。ここではクルマの本筋からは少し離れて、開発時のこぼれ話や正式リリースにあたって耳にしたエピソードをいくつか。
-
「日産GT-R」が生産終了 18年のモデルライフを支えた“人の力” 2025.9.10 2025年8月26日に「日産GT-R」の最後の一台が栃木工場を後にした。圧倒的な速さや独自のメカニズム、デビュー当初の異例の低価格など、18年ものモデルライフでありながら、話題には事欠かなかった。GT-Rを支えた人々の物語をお届けする。
-
NEW
内燃機関を持たないEVに必要な「冷やす技術」とは何か?
2025.9.16あの多田哲哉のクルマQ&Aエンジンが搭載されていない電気自動車でも、冷却のメカニズムが必要なのはなぜか? どんなところをどのような仕組みで冷やすのか、元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】
2025.9.16試乗記人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。 -
スズキが未来の技術戦略を発表! “身近なクルマ”にこだわるメーカーが示した問題提起
2025.9.15デイリーコラムスズキが、劇的な車両の軽量化をかなえる「Sライト」や、次世代パワートレインなどの開発状況を発表。未来の自動車はどうあるべきか? どうすれば、生活に寄りそうクルマを提供し続けられるのか? 彼らの示した問題提起と、“身近なクルマ”の未来を考える。 -
BMW M235 xDriveグランクーペ(4WD/7AT)【試乗記】
2025.9.15試乗記フルモデルチェンジによってF74の開発コードを得た新型「BMW 2シリーズ グランクーペ」。ラインナップのなかでハイパフォーマンスモデルに位置づけられる「M235 xDrive」を郊外に連れ出し、アップデートされた第2世代の仕上がりと、その走りを確かめた。 -
フォルクスワーゲン・ゴルフRアドバンス(後編)
2025.9.14ミスター・スバル 辰己英治の目利き万能ハッチバック「フォルクスワーゲン・ゴルフ」をベースに、4WDと高出力ターボエンジンで走りを徹底的に磨いた「ゴルフR」。そんな夢のようなクルマに欠けているものとは何か? ミスター・スバルこと辰己英治が感じた「期待とのズレ」とは? -
スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】
2025.9.13試乗記「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。