急増したライダーの事故死者数 安全に向けた取り組みは本当にこのままでいいのか?
2024.04.19 デイリーコラム前年比+16.8%の508人という結果に
webCGもちょくちょく取材&勉強のために参加している、日本自動車工業会 二輪車委員会(以下、自工会)のメディアミーティング。過日行われた第9回は、安全への取り組みがテーマだったが、そこでちょっと、残念な統計が明らかとなった。ライダーの事故死者数が、2023年は増加に転じたのだ。
過去10年を振り返ると、二輪乗車中の事故死者数は基本的に減少傾向だった。自工会ではライダーの事故死者数を2030年までに半減させる(対2021年比、526人→263人)目標を立てているが、2022年まではその見立てより速いペースで減っていたのだ。ところが2023年は突如反転。それも前年比+16.8%の508人と、異例の大幅増となった。
ちなみに、同年の歩行中の事故死者数は973人で前年比+1.9%、四輪乗車中は837人で-3.8%、自転車乗車中は346人で前年比+2.1%となっている。二輪の+16.8%というのがちょっとショッキングな数字であるのは、ご理解いただけると思う。なお、2023年の全交通事故死者数は2678人で、前年比+2.6%だった。
それにしても、なぜ2023年はライダーの事故死者数が跳ね上がる結果となったのか。配布資料の統計を見ると、年齢別では20~24歳の死者数が前年比+70.3%で63人、次いで60~64歳が39人で+69.6%、65~69歳が20人で+42.9%と大きく増えている。あまり無責任なことは言えないが、頑張って免許をとった若者や、現役にカムバックしたリターンライダーが事故に遭われるさまを想像してしまった。背景に昨今のバイクブームがあったとすると、メディアの末席を汚す者として、ちょっとやりきれない。
もっとも、自工会も警察庁も、事故死者数の増加についてことさら特定の要因を指摘してはいない。素人の記者が勝手に勘ぐって悲嘆にくれるより、「それじゃあこれから、どうするべきか」について考えるほうが建設的だろう。
これまでどおりの取り組みでいいのか?
事故死者数の削減へ向けた取り組みとして、今回のミーティングでまず紹介されたのが「パッシブセーフティーの重要性の認知向上」、次いで「ライディングセミナー等の教育活動の継続」だった。前者はなんぞや? というと、要するにヘルメットのアゴ紐(ひも)締結の啓発であったり、胸部プロテクターの普及であったりといった取り組みだ。自工会がこれらを重視する理由は過去にも説明しているが(参照)、二輪事故で死亡につながる損傷部位は頭部・胸部が圧倒的に多く、それでいてヘルメットのアゴ紐を結ばないライダーがいまだにおり、また胸部プロテクターの普及も進んでいないからだ。
いっぽうで、四輪車ではすっかり普及した自動緊急ブレーキなどの予防安全装置については、「検討は進めている」としつつも、「転倒の恐れのある二輪車では、大幅な操作介入をともなうシステムの実現・普及は難しいのでは」とのこと。また過去に研究されていたシートベルトやエアバッグといった車載の安全装備も、事故状況を調査すると(現状では)被害軽減効果は薄いとの結論に至っているという。エアバッグといえば、最近ではウエア型の“着るエアバッグ”なんてものもあるが、これも価格や着心地、装着のわずらわしさなどがネックとなっている様子。普及の難易度は、胸部プロテクターより高そうな気配だった。
こうなると確かに、ライダーに対する啓発・教育ぐらいしかできることがなさそうに思える……のだが、それでは過去の取り組みとなにが違うのか? 自工会が説明した上述の施策は、正直なところ以前のメディアミーティングで聞いたものとあまり変わらないものだった。もちろん、今後もこうした施策を続けるべきなのは間違いないが、今よりさらに事故死者数を減らすには、より突っ込んだ策を講じなければダメなのではないか?
拡大 |
拡大 |
拡大 |
普及しない装備にはそれなりの理由がある
例えば安全装備のさらなる普及に関してだが、自工会はくだんの胸部プロテクターについて、2022年夏にその認知と普及に関する調査を行っている。1700人のモニターに向けたウェブアンケートの結果、胸部プロテクターの保有率は18.1%、ライダーの5人に1人しか持っていないガッカリな事実が明るみとなったわけだ。
「だから普及へ向けた啓発を!」というのはわかるが、同時にこの調査では、「全ライダーの94.9%が胸部プロテクターの存在をすでに知っている」「胸部プロテクターの必要性を感じているが、購入はしていないライダーが全体の48.9%を占める」という結果も出ている。これらの数字を踏まえると、果たして今以上の啓発活動に、どれほど効果を期待できるだろう? そこら中で凄惨(せいさん)な事故映像を流して恐怖心をあおれば、多少は保有が増えるかもしれないが、それよりは「必要だとはわかっていても買っていない」ライダーと向き合ったほうがいいのではないか。
そう思いつつこの調査を読み込んだところ、ちゃんと「私が胸部プロテクターを買わない理由」まで調べられているではないか。「装着するのが面倒」(35.5%)、「価格が高い」(31.6%)、「装着すると暑い」(26.3%)というのが回答のビッグ3だった。そこまでわかっているのなら、これらの課題をクリアする商品の実現・普及を後押しする施策をとればいいのに……と考えてしまう。
確かにライダーへの訴求活動は大事だが、ここまで普及率が低いものを、製品の側は変えずに利用者の啓発・教育だけで広めようというのは、ちょっと無理がある。……というか、そこまで効果が実証されているものなら、ウン万円もするお高いウエアに機能を組み込んでおいてくれよ。「バイクに乗るのには○○と○○と○○が必須だよ。あ、○○も忘れてた。装着は面倒だし暑いし動きづらいけど、安全のためには仕方ないよね」では、ライダーは「どんだけ装備をそろえりゃええねん!」と気疲れしてしまうだろう。プロテクターとしての性能はさておき、こうした購入・使用に関わるわずらわしさを放置してきたことに問題があると気づかなければ、次の展望は見えてこないと思う。
余談だけど、胸部プロテクターの保有率は若年層のほうが高く、上述の全体平均に対して“男性16-29歳”で28.1%、“女性16-29歳”で24.5%となっていた。ちなみに女性は30-49歳でも20.2%と平均以上。足を引っ張っているのが誰かは、もうおわかりですね? 普段「近ごろの若いもんは!」とかクサしているオジさま方、反省しましょう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
“人”への施策は確かに大切だが……
さて、ここらで自工会の話に戻ろう。ライダーの啓発・教育も大事だが、彼らはこうした製品の見直し、改善についても、あらためて調整役や旗振り役を担えないのだろうか。
今回のミーティングでは、自工会がかつて行った胸部プロテクターの試験についても説明があった。国内用品メーカーの参加を募り、欧州規格に沿ったインパクタや、ダミー、さらには二輪と四輪の実車も用いて衝撃試験と衝突試験を実施。その結果をJMCA(用品連合会)に公開し、国産胸部プロテクターの性能向上に寄与したというのだ。
今あらためて自工会に求められているのは、こういう役割ではないかと思う。目的は「普及しやすい製品の供給」に代わっているが、そちらの方向性でも、ライダーの声を集めやすく、関係各所の協力も得やすい自工会だからこその施策や、提供できるリソースがあるはずだ。
今回のミーティングでは、自工会は依然として“人”に関する施策に力点をおいて説明していた。もちろんそれは素晴らしいことだが、これまでだって十分以上の取り組みがなされていたはずで、これ以上は乾いたぞうきんだろう。既存の取り組みはそれとして、“モノ”や“環境”あるいは“法”に関する施策も考えるべき時期にきていると思う。ヘルメットのアゴ紐問題については、さすがにもう法規で取り締まるしかないだろうし、(性能は上がっているのだろうけど)10年ひと昔でカタチや売り方の変わらないプロテクター類については、メーカー側の奮起に期待したい。そこで自工会が働きかけられることは、たくさんあるはずだ。
もちろん、やるべきことがたくさんあるのは私たちも一緒。ライダーの皆さんは、ちゃんとウエアを着て、アゴ紐しめて、今日は昨日より安全運転で行きましょう。
(文=webCG堀田剛資<webCG”Happy”Hotta>/写真=日本自動車工業会、向後一宏、webCG/編集=堀田剛資)

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
-
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感NEW 2026.6.3 「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。
-
新生アルピナは成功するか? その将来とBMWとの関係について考える 2026.6.1 具体的なデザインスタディーも公開され、いよいよ市場展開が見えてきた新生アルピナ。将来的な成功の“確度”やいかに? BMWによる新たなアルピナ像について、両ブランドに詳しい西川 淳が詳しく解説する。
-
つまずきを糧に成功をつかみ取れ! 新型「CX-5」に宿るマツダの変革と覚悟 2026.5.29 既存のマツダ車とは一線を画す乗り味で、メディアをおどろかせた新型「マツダCX-5」。マツダの最量販車種は、なぜ3代目で大転換を迫られたのか? 賛否両論を巻き起こした“あのクルマ”との関係は? 新しくなったCX-5に宿る、マツダの覚悟と変革に迫る。
-
「日産テラノ」がPHEVで復活 往年のビッグネームを継承するSUVの特徴を分析する 2026.5.28 日産自動車が「北京モーターショー2026」で、往年のビッグネームを継承する新型SUV「テラノPHEVコンセプト」を世界初公開した。初代「テラノ」で採用された「3スロット」を想起させる車両のデザインに加え、日産が新型テラノで狙うグローバル戦略に迫る。
-
まさしく桁違いの1169PS&2000N・m 新型「メルセデスAMG GT 4ドアクーペ」が搭載する数々の新機軸 2026.5.27 2025年発表のコンセプトカー「メルセデスAMG GT XX」が新型「メルセデスAMG GT 4ドアクーペ」として正式にデビューした。その中身は100%電気自動車であり、上位グレードは最高出力1169PSという途方もないスペックを誇る。技術的ハイライトを解説する。
-
NEW
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
NEW
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。 -
NEW
第115回:メイク・アメリカ・グレート・アゲイン!(後編) ―デザインもサイズも規格外! 魅惑のアメリカ車はなぜ“主役”になれないのか?―
2026.6.3カーデザイン曼荼羅トヨタ&ホンダが発表した、米国生産車の日本導入計画。しかしアメリカには、規格外に面白いクルマがまだたくさんあるのだ! カーデザインの識者とともに魅惑の日本“未”導入車を探すとともに、魅力的なアメリカ車が、それでも主役になれない理由を考えた。 -
どうしてピアノブラックの内装材は多用されるのか?
2026.6.2あの多田哲哉のクルマQ&Aよく目にするピアノブラックの内装材は、「キズや脂汚れが目立つ」などネガティブな評価もしばしば。それでも多用されているのはなぜか? 車両開発者の多田哲哉さんに聞いてみた。 -
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】
2026.6.2試乗記かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。 -
レストモッドがイメージ 特別なオニツカタイガーの魅力に迫る
2026.6.1オニツカタイガーの新作ドライビングシューズを知る<AD>オニツカタイガーが、“レストモッド”と呼ばれるクルマのレストア&カスタム手法に着想を得たドライビングシューズを発表。4タイプ製作された、「MEXICO 66 DRIVING」のスペシャルバージョンの魅力に迫る。













