水平対向エンジンのフルハイブリッドが登場! スバルの電動化戦略が見えてきた
2024.05.23 デイリーコラム水平対向エンジンのフルハイブリッドを開発
2023年8月に発表されたスバルの「新経営体制における方針」が2024年5月13日にアップデートされた。
それによれば、2026年末までにラインナップする4車種の電気自動車(BEV)はトヨタと共同開発することが決定。スバルの矢島工場で生産するBEVはトヨタにも供給され、反対にトヨタの米国工場で生産されるBEVはスバルに供給される。そしてこのアライアンスの知見を生かした「自社開発のBEV」は、2028年末までの投入を見込んでいる。
また、トヨタのハイブリッドシステム「THS」をベースとした水平対向エンジンのストロングハイブリッド「次世代e-BOXER」を搭載する新型「フォレスター」が、2024年度中にも発売される。このストロングハイブリッドは「クロストレック」にも積まれる。そしてその他の内燃機関(ICE)系商品ラインナップの強化については「今後適宜発信する」としている。
以上が、5月13日に発表された「新経営体制における方針」のアップデート版における大まかな内容だ。これと前年8月の「新経営体制における方針」をベースに、ここで今後のスバルの電動化戦略を分析というか、予想する。
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状況次第では純エンジン車も継続か
今回の発表に対する総論的な印象は「先行きを見通すことが難しいタイミングゆえ、スバルは取りあえず手持ちのカードをそろえることで、今後の世の中がどう転んでも柔軟に対応できるようにしてきたな」というものである。
まずは現在と近い将来においては確実に主力となるストロングハイブリッド車(HEV)というカードを手に入れる。そのうえで直近のタイミングで登場させるBEVにおいては、開発と供給においてトヨタと協業することでリスクを低減し、ビジネスに柔軟性を持たせる。そして自社開発のBEVに注力すると同時にICEにも含みを持たせ、前述したとおり「今後の世の中がどう転んでも柔軟に対応できる(はず)」という体制を組んできたのだ。
今回のアップデート版ではなく、2023年8月に発表された「新経営体制における方針」に掲載された棒グラフを素直な心で眺めると、スバルの2030年における電動車の販売比率目標は「BEVが50%で残る50%がHEV」と読むことができる。つまり2030年にはスバルの純ICE車は廃止され、BEVとHEVだけのメーカーになるということだが、筆者はこのグラフをそうは読まない。なぜならば、この棒グラフの右端部分は「2030年全世界販売台数120万台+α」という文字が入った円形の表示にて、巧妙に隠されているからだ。
まぁ「巧妙に隠されている」というと人聞きは悪いが、要するに含みを持たせているというか、「2030年も状況次第では普通にICEの新車をつくっている可能性はあります」ということを、このグラフの制作者は心の中で言っているのだ。それが証拠に、2023年8月の発表と今回のアップデートのなかで「スバルのICE車は20XX年に製造を終える予定です」的な文言は確認できない。すでに述べたとおり「今後の世の中がどう転んでも柔軟に対応できるようにする」というのが、今回および昨年の発表の本質なのだ。
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レアなエンジン車の中古価格が上がる?
今後登場するスバルのBEVとHEVに、われわれユーザーはどう向き合うべきなのか? 何ともいえない話ではあるが、一応筆者なりの考えを述べておこう。
まず2024年度中にも登場する見込みのストロングハイブリッド搭載のフォレスターおよびクロストレックだが、これには個人的にかなり期待している。いまさらいうまでもなくスバル車は全般的に“乗り味”において何ら不満はないものの、“実燃費”には大いに不満がある。
新型フォレスターやクロストレックと直接比較できるものでもないが、筆者の愛車である2.4リッター水平対向ターボエンジンを搭載する現行型「レヴォーグ」の平均燃費は7km/リッター台だ。主に都内で乗っているからという理由もあるだろうが、さすがに「昭和のクルマかよ……」と思ってしまう数値である。令和なのに。だがTHSベースのストロングハイブリッドによりこの問題がおおむね解決されるのであれば、もはやスバル車に不満はない。乗り味など、どうせいいに決まっているのだから。
次に「2026年末までにラインナップされるトヨタと共同開発のBEV SUV」についても、まぁ期待できるのではないかと思っている。そして2028年末までの投入が見込まれている「自社開発のBEV」ついては本当に何もわからないため、筆者から現時点で申し上げることはない。
その代わりというかなんというか、「STI」のコンプリートモデルや「WRX STIファイナルエディション」など希少なICE車の中古車価格は今後徐々に上がっていき、最終的には、現在の空冷「ポルシェ911」にように「ちょっと買えない値段」になるのではないかと予想する。
昨年8月に発表された「新経営体制における方針」のなかで、スバルは電動化戦略だけでなく「開発日数半減」「部品点数半減」「生産工程半減」という方針も示している。もちろん、例えば部品点数が半分になるからといって自動的に「味が落ちる」ということは決してなく、さまざまな合理化や最先端化により、むしろそれまで以上の仕上がりになる可能性のほうが高い。このあたりの流れは、過去と現在のメルセデス・ベンツやポルシェがすでに証明している。
とはいえ、例えば最新の911では空冷時代の「あの感じ」が出せていないことも確かで、だからこそ空冷ポルシェ911の中古車には2000万円以上、あるいは3000万円以上の値がついている。
スバルの電動化戦略が順調に進めば進むほど、これと似たようなことが、STIコンプリートカーなどの希少ICE車においても起こるだろう──というのが筆者の見立てだ。
(文=玉川ニコ/写真=スバル/編集=櫻井健一)
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玉川 ニコ
自動車ライター。外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、自動車出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。愛車は「スバル・レヴォーグSTI Sport R EX Black Interior Selection」。
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