新車はSUVラッシュ! ならば実際はどんなクルマが売れている?
2024.06.17 デイリーコラムその名はリストに出てこない
各社から続々とSUVタイプのニューモデルが登場し、街なかでもSUVやクロスオーバーモデルばかりが視界に入るような気がしてならない昨今。「最近は“なんとかクロス”みたいなクルマばかりが売れてるなぁ」という印象を抱いている人も多いはずだ。
しかしその印象は事実とはまったく異なる。というか、微妙なレベルで異なっている。
まずはファクトから見てみよう。今回は、軽自動車を含まず、いわゆる登録車のみを対象とさせていただく。以下は日本自動車販売協会連合会(以下、自販連)が発表した2023年度(2023年4月~2024年3月)のブランド通称名別台数トップ10である。
- 1位 トヨタ・ヤリス:18万3738台
- 2位 トヨタ・カローラ:15万0421台
- 3位 トヨタ・シエンタ:12万2706台
- 4位 トヨタ・プリウス:10万7449台
- 5位 日産ノート:9万7000台
- 6位 トヨタ・ノア:8万7520台
- 7位 日産セレナ:8万4785台
- 8位 トヨタ・ヴォクシー:8万0487台
- 9位 トヨタ・ルーミー:7万6733台
- 10位 ホンダ・フリード:7万4681台
見てのとおり、SUV専用モデルの車名は、トップ10圏内にはひとつも入っていない。とはいえ1位の「ヤリス」と2位「カローラ」の数字には、くだんの“なんとかクロス”も多分に含まれている。
トヨタによれば、その数は「ヤリス クロス」が約9万7800台で、「カローラ クロス」が約6万1300台。ちなみに19位とされている「クラウン」4万7736台のうち、同社がオフィシャルサイトでSUVに分類している「クラウン クロスオーバー」は約3万2000台、「クラウン スポーツ」が約1万2300台を占めていた。
日産、ホンダ、スバルといった他ブランドについてもこれらSUV系モデルは分けて考えたうえで、トップ10ではなくトップ30までのランキングとしてみよう。
上位は“使い倒せるクルマ”
【2023年度に売れたクルマ トップ30】
- 1位 トヨタ・シエンタ:12万2706台
- 2位 トヨタ・プリウス:10万7449台
- 3位 トヨタ・ヤリス クロス:約9万7800台★
- 4位 日産ノート(ノートAUTECHクロスオーバー<約2000台>を除く):約9万5000台
- 5位 トヨタ・カローラ(カローラ クロスを除く):約8万9000台
- 6位 トヨタ・ノア:8万7520台
- 7位 トヨタ・ヤリス(ヤリス クロスを除く):約8万5900台
- 8位 日産セレナ:8万4785台
- 9位 トヨタ・ヴォクシー:8万0487台
- 10位 トヨタ・ルーミー:7万6733台
- 11位 トヨタ・ハリアー:7万0554台★
- 12位 ホンダ・ヴェゼル:6万9969台★
- 13位 トヨタ・アクア:6万6865台
- 14位 トヨタ・カローラ クロス:約6万1300台★
- 15位 ホンダ・フリード(フリード クロスター<1万6407台>を除く):5万8274台
- 16位 ホンダ・ステップワゴン:5万4786台
- 17位 トヨタ・ライズ:5万3760台
- 18位 トヨタ・アルファード:5万2462台
- 19位 ホンダ・フィット(フィット クロスター<4796台>を除く):5万1694台
- 20位 スズキ・ソリオ:4万7912台
- 21位 トヨタ・ランドクルーザーW:4万4441台★(※登録名のまま/Wはワゴンの意味)
- 22位 ホンダZR-V:3万3615台★
- 23位 日産エクストレイル:3万2052台★
- 24位 トヨタ・クラウン クロスオーバー:約3万2000台★
- 25位 トヨタRAV4:3万0246台★
- 26位 スズキ・スイフト:2万9586台
- 27位 ジムニーW:2万7302台(※登録名のまま/Wはワゴンの意味)★
- 28位 マツダCX-5:2万3606台 ★
- 29位 スバル・クロストレック:2万3055台★
- 30位 レクサスNX350H:2万3049台(※登録名のまま)★
(※トヨタ・ヤリス クロス/カローラ クロス/クラウン クロスオーバー、日産ノートAUTECHクロスオーバー、ホンダ・フィット クロスター/フリード クロスター、スバル・クロストレックについてはメーカー公表値)
結局のところ、SUV系モデル(★印付き)で2023年度のトップ10圏内に入ったのはヤリス クロスだけ。それ以外の上位陣はコンパクトカーまたはミニバンがほとんどである。つまり、今も昔も「よく売れるクルマ」とは、「主には日々の用事や仕事などをこなすために使われる、なかでも実用的なクルマ」なのだ。
SUVや“なんとかクロス”は「デカい」「価格が高い」「決して燃費が良いわけではない」など、非実用的な要素を多分に含むことがある。主に実益のために買われるクルマに比べれば、相対的にはどうしたって不利になるカテゴリーなのだ。そのため、「最近は“なんとかクロス”みたいなクルマだけが売れている」という状況には決してならないのである。
そんな状況下でも唯一トップ10圏内に入ったヤリス クロスは、「趣味的な要素はあまりないSUVだから」と言ってしまうのはやや酷かもしれないが、少なくとも「実用的なコンパクトカーとおおむね同じ感覚で買えて、使えるSUVだから」というのが売れている理由なのだろう。
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SUVは存在として印象的
ならばなぜ、多くの人は「最近は“なんとかクロス”みたいなクルマばかりが売れてるなぁ」という印象を抱いてしまうのか?
結局のところその理由は、まず「いまコンパクトカーやミニバンに次いで売れているカテゴリーが、それらSUV系である」ということ。そして、それに加えていわゆる「非注意性盲目」との“合わせ技一本”が華麗に決まっているから――ということになる。
前述したとおり、今も昔も“一番売れるクルマ”とは「役に立つクルマ(役に立たせるためのクルマ)」である。だが人間というのはパンのみにて生きるものでもないため、今も昔も「あまり役に立たないかもしれないが、何らかのすてきな情動を感じさせてくれるクルマ」が、売れてるカテゴリーの2番手グループを形成する。
かつてはそれがスポーティーなクーペだったわけだが、昨今はその位置を「SUVまたは“なんとかクロス”」が担っている。その証拠に(?)販売台数トップ10のなかにはヤリス クロスしか入っていないが、11~20位においては10車中3車がSUVであり、21~30位では10車中9車(!)をSUVが占めている。まずは生存本能みたいな部分を満たすために実用的なクルマが確実に売れるわけだが、「その次の欲求段階」を満たすクルマとしては今、圧倒的にSUVが選ばれている。だからこそ総体としてのSUVの保有台数は増加し、その結果として「やたら目につく」ということになるのだ。
そして同時に、人はしばしば非注意性盲目――視野には入っているのに、注意が向けられていないために見落としてしまう現象――や、それに似た現象を引き起こす。
そのため、大量に売れているフツーのコンパクトカーやミニバンなどは「風景の一部」となってしまい記憶に残らず、自動車好きにとっては比較的興味を引く存在であるSUVや“なんとかクロス”が、良くも悪くも記憶に残り「最近は“なんとかクロス”みたいなクルマばかりが売れてるなぁ」という印象が形成されるに至るのだ。たぶん。
(文=玉川ニコ/写真=トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、スバル/編集=関 顕也)
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玉川 ニコ
自動車ライター。外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、自動車出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。愛車は「スバル・レヴォーグSTI Sport R EX Black Interior Selection」。
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