ポルシェ 911 GT3(RR/6MT)【試乗記】
スポーツカーはこうでなくっちゃ! 2010.11.19 試乗記 ポルシェ 911 GT3(RR/6MT)……2061万7000円
排気量アップによってさらに動力性能を上積みした「911」のスパルタンモデル「GT3」の走りを試す。
効果は見た目以上
2009年3月のジュネーブショーで一般公開された現行型「911 GT3」、その最大の見どころはフラットシックスの排気量が3.6リッターから3.8リッターに拡大されたことだ。これにより、現行型は20psプラスの435psと、2.5kgmプラスの43.8kgmを達成。0-100km/h加速が4.1秒、最高速度は312km/hという動力性能を得ている。
外観にもポルシェ乗りならそれとわかる改善が施されており、従来型より前方に突き出したフロントスポイラー付きバンパーや、デザインが一新されたリアウイングが採用されている。これらの効果は見た目以上に大きく、従来型と比べて2倍以上ものダウンフォースを生み出すという。
ちなみに、車高はノーマル「911カレラ」より約30mm低められているが、必要に応じてフロントアクスルを約30mm上昇させる「ライドハイト・リフトシステム」が新たに装着されたので、実用面での犠牲は相殺されている。
また、今回から走行安定性と安全性を確保するPSM(ポルシェ・スタビリティ・マネージメントシステム)が付いたことも注目に値する。もっとも、サーキット直系の「911 GT3」に装着されるPSMは、よりダイレクトなドライビングが楽しめるように作動の基準が高めに設定されているのがポイント。PSMの解除についても、まずSC(スタビリティコントロール)のみ、次にSC+TC(トラクションコントロール)の両方と、段階を追ってできるようになっている。
200ccアップの恩恵
ノーマルに比べて明確な高回転&高出力型にしつけられている「911 GT3」のフラットシックスは、さらにその特性が強められ、レブリミットが100rpm高い8500rpmになっている。しかし、排気量が200ccアップした恩恵は、むしろ中回転から高回転にかけてのトルクの厚みとなって表れた印象が強い。
2000〜3000rpmのトルクが相対的に穏やか(といっても通常の尺度からすれば相当あるが……)なために余計にそう感じられるのかもしれないが、タコメーターの針が4000rpmを超えたあたりで、まずは第1ロケットに点火したかのようなトルクの山があり、さらに6000rpmでもうひと山くる。
ひと昔前、トルクの山などというものは、そこら辺のスポーツカーでいくらでも味わえた。しかし最近はターボユニットを含めて洗練が進んでしまい、もはやなかなか味わえなくなってしまった。それだけに、こうしてあらためて出会うと、何やら禁断の味わいがある。しかもこの快音。やっぱりスポーツカーはこうでなくっちゃの見本である。「911GT3」というクルマは!
「GT3」だけの世界
乗り心地はかなり硬め。PASM(ポルシェ・アクティブサスペンション・マネージメントシステム)と呼ばれる電子制御ダンパーが標準で装着されており、「スポーツモード」を選ぶとさらにハードになる。この状態だと、首都高の継ぎ目を通過するたびにガツンとかなり強烈な突き上げに見舞われる。
おそらくそのたびに助手席のパートナーは歯を食いしばっているだろうが、ドライバーは「異例に高いボディ剛性のおかげで、乗り心地は悪くないじゃないか」なんて思っていることだろう。スポーツカーの乗り心地なんて、そんなものだ。座る位置が変われば、心情的な評価がいくらでも変わってしまう。
山道では痛快の一語である。まず、足元が軽い。テスト車にはオプションのPCCB(ポルシェ・セラミックコンポジット・ブレーキ)が付いていたから、なおさらそう感じられたのかもしれない。そしてタイトコーナーではロック率非対称(加速時28%、減速時40%)のLSDの働きが如実に感じられ、姿勢を決めたらリアタイヤに強大なトラクションをかけてコーナーから一気に脱出。その痛快感は「911」、とりわけ「GT3」でしか味わえない独特な世界だ。
(文=竹下元太郎、写真=郡 大二郎)

竹下 元太郎
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