ホンダ・ヴェゼルe:HEV Z PLaYパッケージ(4WD)
松に近い竹 2024.07.31 試乗記 ホンダの人気SUV「ヴェゼル」がマイナーチェンジ。デザインだけでなく、パワートレインの制御にも手を入れたというのだからホンダの意気込みが伝わってくる。シリーズ最高額モデル「e:HEV Z PLaYパッケージ」の仕上がりを試す。販売をさらに加速するマイナーチェンジ
ヴェゼルは2024年の上半期、日本市場で最も売れたSUVになるという。その分析は玉川ニコさんの項を見ていただければと思うが、対前年比で194%増という数字が意味するのは、本来の供給体制になり受注残が吐き出せたこと。つまりコロナ禍が引き起こした半導体不足の影響は、今時分でさえ残っていたというわけだ。
数字の著しい振れは生産や営業の現場にさまざまな弊害も生むが、日本市場のシェアと収益改善が大きな課題であるホンダにとっては、悪かろうはずがないニュースだと思う。しかも周囲の状況をみるに、上半期だけではなく、通年での1位をマークする可能性も十分考えられるわけだ。そんな下半期を戦う意味ではマイナーチェンジはベストなタイミングだったのかもしれない。
ヴェゼルのマイナーチェンジのポイントは、基本グレードとトリムラインの関係をシンプルにしたことと動的質感の向上、そして一部内外装の変更といったところにまとめられる。価格的な下方に「WR-V」が追加されたことに伴って、純内燃機版はFFモデルが廃されて四駆のみになった。つまり「e:HEV」主体のモデルになったと言っても過言ではないだろう。上を見れば「ZR-V」がいるが、こことは車格や価格面で明確な差異が持たされている。ただし、車格や居住性に関してWR-Vとヴェゼルの差は見いだすのが難しい。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
WR-Vとは一線を画す品質感
ヴェゼルの外観はボディー同色の六角形グリルの形状が長方形に近づいて、見た目がよりプレーンになった。先日、新型「フリード」の試乗会で耳にした話だと、現在のミニマルなホンダのデザインは営業側の反対意見も多く、必ずしも一枚岩ではないという。恐らく売る側は「フィット」や「ステップワゴン」の失速の一因がそこにあるとにらんでいるのだろう。まぁ、デザインのマルバツは個人の好みだからなんともいえないが、個人的には全力で現世代推しではある。なんとか前世返りだけは避けてくれと願うばかりだ。
乗り込んでみると、樹脂素材の質感やソフトパッドの取り回しなど、端々からはやっぱりWR-Vとはひと味違う上等さが伝わってくる。普段のアシという見方であればさほどこだわることでもないのかもしれないが、アップグレード層やダウンサイジング層にとってはクオリティーは大事な要素だろう。
機能的にも一線を画していると思わせるのが後席から荷室まわりの使い勝手だ。WR-Vは背もたれを倒すと段差が残る、いってみればごく一般的な仕様だが、ヴェゼルは座面がフォールダウンしてほぼフラットな荷室が生まれるほか、後席単独でも座面がチップアップして背の高い荷物も積むことが可能だ。これは他社にもマネできない、センタータンクレイアウトを生かしたホンダ車ならではの美点となる。なんなら車中泊もスムーズにこなせそうな居住性はヴェゼルに軍配が上がる一方で、後席の広さに関してはWR-Vのほうが上だろうか。生産国のインドではショーファードリブンとしても使われるということもあって、着座姿勢やアンコの肉厚ぶりなどはきちんと吟味されている。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
モーター走行の領域を拡大
ヴェゼルの販売主力となるパワートレインはe:HEVだが、今回のマイナーチェンジではマネジメントをエンジン側の使用頻度を抑えて電力の持ち出し量を高める、つまりモーター走行領域を広げる方向に更新されている。ハードウエアの変更はないから、要はマージンをより電動側に振り向けたセットアップが施されたということだろう。
その差は主に街なかの走行域で違いとして表れているかなという感触だ。もちろんバッテリーの電力量にもよるが、エンジンの稼働が抑えられ、モーターで粘りながら60km/h向こうにかけて、すうっと無音の加速をみせてくれる。モーター走行頻度の拡大に合わせて、遮音材の厚みを再調整し、配置を最適化していることが効いているのだろう。静粛性についてはWR-VというよりもZR-Vの側に近い。また、高速域でもエンジン直結駆動モードでの走行頻度や、微減速時でも積極的にエンジンを落としてモーター駆動に切り替えるなど、燃費の絞り出しにも配慮している様子がうかがえる。
BセグメントSUVとしては出色の仕上がり
静粛性の向上に引っ張られているのかもしれないが、乗り心地も一層洗練されたように感じられた。表向きにはFFモデルのダンパーの減衰特性を見直したとしか言及されていないが、製造のこなれなども影響しているのか、ピッチやバウンドの収め方にも上質さが加わったようにみえる。昨今のホンダ車は運動性能と快適さのバランスポイントが相当高いレベルにあると個人的には思っているが、ヴェゼルもまたしかりで、Bセグメント級SUVとしては出色、Cセグメント級に近いレベルにあるように思う。
こうしてみるに、ヴェゼルはWR-VとZR-Vの間というよりも、モノのデキとしてはZR-Vの側に近い。「THS」と「e-POWER」のいいとこ取りにもみえるe:HEVにエンジン駆動のメカニカルな4WDを組み合わせるなど、ライバルに対する技術的な独自性もある。せっかくのハイブリッド車なのに高出力ACアウトレットが用意されていないのは相変わらず謎だが、商品力は盤石だ。そういうクルマがきちんと売れているというところに、トヨタのひとり勝ちすぎる日本市場の健全さを垣間見た気がする。
(文=渡辺敏史/写真=山本佳吾/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ホンダ・ヴェゼルe:HEV Z PLaYパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4340×1790×1580mm
ホイールベース:2610mm
車重:1480kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:106PS(78kW)/6000-6400rpm
エンジン最大トルク:127N・m(13.0kgf・m)/4500-5000rpm
モーター最高出力:131PS(96kW)/4000-8000rpm
モーター最大トルク:253N・m(25.8kgf・m)/0-3500rpm
タイヤ:(前)225/50R18 95V/(後)225/50R18 95V(ミシュラン・プライマシー4)
燃費:21.2km/リッター(WLTCモード)
価格:377万6300円/テスト車=415万3600円
オプション装備:ボディーカラー<シーベットブルーパール×シルバー>(2万7500円)/マルチビューカメラシステム+プレミアムオーディオ+パノラマルーフ(23万7600円) ※以下、販売店オプション フロアカーペットマット プレミアム(4万5100円)/ドライブレコーダー3カメラセット(6万7100円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1356km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:340.5km
使用燃料:21.3リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:16.0km/リッター(満タン法)/16.2km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【海外試乗記】 2025.10.29 メルセデス・ベンツが擁するラグジュアリーブランド、メルセデス・マイバッハのラインナップに、オープン2シーターの「SLモノグラムシリーズ」が登場。ラグジュアリーブランドのドライバーズカーならではの走りと特別感を、イタリアよりリポートする。
-
ルノー・ルーテシア エスプリ アルピーヌ フルハイブリッドE-TECH(FF/4AT+2AT)【試乗記】 2025.10.28 マイナーチェンジでフロントフェイスが大きく変わった「ルーテシア」が上陸。ルノーを代表する欧州Bセグメントの本格フルハイブリッド車は、いかなる進化を遂げたのか。新グレードにして唯一のラインナップとなる「エスプリ アルピーヌ」の仕上がりを報告する。
-
メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス(4WD/9AT)【試乗記】 2025.10.27 この妖しいグリーンに包まれた「メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス」をご覧いただきたい。実は最新のSクラスではカラーラインナップが一気に拡大。内装でも外装でも赤や青、黄色などが選べるようになっているのだ。浮世離れした世界の居心地を味わってみた。
-
アウディA6スポーツバックe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.10.25 アウディの新しい電気自動車(BEV)「A6 e-tron」に試乗。新世代のBEV用プラットフォーム「PPE」を用いたサルーンは、いかなる走りを備えているのか? ハッチバックのRWDモデル「A6スポーツバックe-tronパフォーマンス」で確かめた。
-
レクサスLM500h“エグゼクティブ”(4WD/6AT)【試乗記】 2025.10.22 レクサスの高級ミニバン「LM」が2代目への代替わりから2年を待たずしてマイナーチェンジを敢行。メニューの数自体は控えめながら、その乗り味には着実な進化の跡が感じられる。4人乗り仕様“エグゼクティブ”の仕上がりを報告する。
-
NEW
小粒でも元気! 排気量の小さな名車特集
2025.11.1日刊!名車列伝自動車の環境性能を高めるべく、パワーユニットの電動化やダウンサイジングが進められています。では、過去にはどんな小排気量モデルがあったでしょうか? 往年の名車をチェックしてみましょう。 -
NEW
これがおすすめ! マツダ・ビジョンXコンパクト:未来の「マツダ2」に期待が高まる【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!ジャパンモビリティショー2025でwebCG編集部の櫻井が注目したのは「マツダ・ビジョンXコンパクト」である。単なるコンセプトカーとしてみるのではなく、次期「マツダ2」のプレビューかも? と考えると、大いに期待したくなるのだ。 -
NEW
これがおすすめ! ツナグルマ:未来の山車はモーターアシスト付き【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!フリーランサー河村康彦がジャパンモビリティショー2025で注目したのは、6輪車でもはたまたパーソナルモビリティーでもない未来の山車(だし)。なんと、少人数でも引けるモーターアシスト付きの「TSUNAGURUMA(ツナグルマ)」だ。 -
NEW
これがおすすめ! マツダのカーボンネガティブ施策:「走る歓び」はエンジンのよろこび【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!華々しく開幕したジャパンモビリティショー2025の会場で、モータージャーナリストの今尾直樹が注目したのはマツダブース。個性あふれる2台のコンセプトカーとともに公開されたカーボンネガティブの技術に未来を感じたという。 -
NEW
これがおすすめ! ダイハツK-OPEN:FRであることは重要だ【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!ジャパンモビリティショー2025でモータージャーナリストの鈴木ケンイチが注目したのはダイハツの「K-OPEN(コペン)」。米もクルマの値段も上がる令和の日本において、軽自動車のスポーツカーは、きっと今まで以上に注目されるはずだ。 -
NEW
これがおすすめ! トヨタ・ランドクルーザー“FJ”:タフでかわいい街のアイドル【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!ジャパンモビリティショー2025の展示車は、コンセプトカーと市販モデルに大別される。後者、実際に買えるクルマのなかでも、特に多くの注目を集めていたのは、つい最近発表された「トヨタ・ランドクルーザー“FJ”」だった!























































