アウディSQ8スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】
秘伝のEVレシピ 2024.08.13 試乗記 マイナーチェンジで「e-tron Sスポーツバック」から「SQ8スポーツバックe-tron」へと車名が改められたアウディの高性能電動クーペSUVに試乗。3基のモーターによる合計500PSを超える最高出力と、電動4WD「クワトロ」が織りなす走りを報告する。マイナーチェンジで名前もチェンジ
アウディ初の量産電気自動車(EV)として2018年に登場したのが「アウディe-tron」と「アウディe-tronスポーツバック」。それ以降e-tronという名前はEVを示すキーワードになり、アウディは「e-tron GT」や「Q4 e-tron」といったモデルを追加していった。
一方、そのものズバリの名前がつけられていたオリジナルのアウディe-tronは、マイナーチェンジを機に「Q8 e-tron」と「Q8スポーツバックe-tron」に変更され、“Qファミリー”と呼ばれるSUVモデルのフラッグシップというポジションを明確にしている。
そんなQ8 e-tronシリーズから今回取り上げるのは、最もスポーティーなSQ8スポーツバックe-tron。アウディではより高性能なパワーユニットとクワトロを搭載するハイパフォーマンス仕様を「Sモデル」と呼ぶが、このSQ8スポーツバックe-tronがまさにそれにあたり、マイナーチェンジ以前はアウディe-tron Sスポーツバックという名前だった。
ちなみに、通常モデルでは「Q8スポーツバック55 e-tronクワトロSライン」(長い!)というように、4WD仕様には“クワトロ”の文字が入るが、やはり4WDであるSQ8スポーツバックe-tronにはクワトロが入らない。それは、Sモデルはクワトロ搭載が必須条件であり、あえてクワトロと名乗る必要がないからだ。そういう意味では、将来、アウディ全車がe-tronになったときには、モデル名からe-tronの文字が消えてしまうのかどうか、興味津々である。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
最も進化したのは?
アウディe-tron SスポーツバックからSQ8スポーツバックe-tronへ、まるで別モノみたいに改名しているが、しょせんはマイナーチェンジだけに、化粧直ししたフロントマスクは精悍(せいかん)さがアップした一方、横からの眺めはこれまでどおり、SUVクーペのスタイリッシュさを誇っている。
今回のマイナーチェンジを機に、日本ではSUVクーペのスポーツバックのみの販売になった。SUVスタイルに比べてルーフ後半がゆるやかに下がるぶん、後席のスペースが狭いのではと不安になるが、その心配はなかった。足元は大人でも足が組めるスペースが確保されており、身長167cmの私なら頭上には拳2個分の余裕がある。また、ラゲッジスペースは後席を使用したままの状態でも奥行きが1080mm、幅が最も狭いところでも1053mmあり、十分な広さといえるだろう。
インテリアもマイナーチェンジ以前と変わらぬ印象で、ダッシュボード中央に上下ふたつのタッチパネルが並ぶ「MMI(マルチメディアインターフェイス)タッチレスポンス」も継続される。
マイナーチェンジで進化したのがバッテリーだ。容量がマイナーチェンジ前の95kWhから114kWhに増量されたことで、航続距離が415kmから482kmに延びたのは朗報である。とはいえ、4.0km/kWh(249Wh/km)という電費は大食いであることに変わりはない。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
Sモデルにふさわしいダッシュ力
Q8 e-tronとSQ8 e-tronの一番の違いが、搭載されるモーターの数である。Q8 e-tronが前後1基ずつのモーターで“電動クワトロ”を構成しているのに対し、SQ8 e-tronは前1基、後ろ2基の3モーター。システム最高出力は503PSに達し、どんなパフォーマンスを見せてくれるのか、期待が高まる。
Q8 e-tron/SQ8 e-tron専用デザインのシフターでDレンジを選び、さっそく試乗をスタート。SQ8 e-tronではいわゆる“クリープ”がないので、ブレーキペダルから足を離し、アクセルペダルを踏み込むとようやくクルマが動き出す。浅くアクセルペダルを踏むだけでもSQ8 e-tronの動きだしは軽やかで、2720kgの重量級ボディーであることが信じられないほど。高性能モデルであっても荒々しさはみじんもない。
一方、アクセルペダルに載せた右足に力をこめると、SQ8 e-tronは一変。背中を押されるような加速に襲われるのだ。さらにシフターを操作してDレンジからSレンジに切り替えると、パワーメーターの表示に「BOOST」の文字が現れ、この状態でアクセルペダルを奥まで踏みつけると輪をかけて加速が鋭くなる。
そんな状況でも加速中の挙動は安定しきっていて、安心してアクセルペダルを踏めるのがこのクルマのすごいところ。これはクワトロにより4輪で圧倒的なトルクを受け止めるSモデル共通の感覚で、誰にでも高性能を使い切れるのがSモデルの魅力なのだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
150kWの専用器なら30分で57.1kWh充電できる
しかもこのSQ8 e-tronは、速さだけが見どころではない。SUVであることを感じさせない、スポーティーな走りも実に魅力的なのだ。
床下に重量物のバッテリーを搭載するSQ8 e-tronはそのぶん重心が低く、標準装着の「アダプティブエアサスペンション スポーツ」の効果もあって、コーナリング時のロールは抑えられ、高速走行時にはフラットな乗り心地が確保される。路面によっては、標準から2インチアップされたオプションの22インチホイールと285/35R22タイヤがバタついたり、目地段差通過時のショックを伝えてきたりすることもあるが、それでもおおむね快適な乗り心地が確保されている。
一方、2基のリアモーターを独立して制御することで旋回性能を向上させる電動トルクベクタリング機構により、ハンドリングは痛快そのもの。アウディでは、一部のエンジン車にトルクベクタリング機構の「リアスポーツディファレンシャル」を標準またはオプション装着としているが、これと似た“オンザレール”の運転感覚と非常に高い接地感がSQ8 e-tronで味わうことができる。エンジン車でのクワトロの経験がSQ8 e-tronの電動トルクベクタリング機構にもしっかりと受け継がれており、これこそがアウディの強みといえるのだ。
さて、ひととおり試乗が終わったところで帰路につくが、その途中、アウディ正規ディーラーで急速充電も試してみた。「アウディ ウルトラチャージャー」と呼ばれる150kW急速充電器につないだ時点で31%だったバッテリー残量は、ショールームで冷たい飲み物をいただいている30分間に57.1kWh追加されて85%まで回復。電費は、アダプティブクルーズコントロールを使い、新東名沼津インターから首都高に至る約110km走行したときが4.9km/kWh、トータル418kmでは4.4km/kWhでカタログ値を上回る結果に。電費の絶対値はもう少し上がるといいのだが、充電スピードの速さがそれをカバーしてくれている。
アウディのEVのうち、独自のプラットフォームを使うSQ8 e-tronは、とくにクワトロがもたらす走りにアウディらしさが色濃く表れており、それを楽しみたいファンにとっては見逃すわけにはいかないe-tronなのである。
(文=生方 聡/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
アウディSQ8スポーツバックe-tron
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4915×1975×1615mm
ホイールベース:2930mm
車重:2720kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:非同期式モーター
リアモーター:非同期式モーター
フロントモーター最高出力:213PS(157kW)
フロントモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
リアモーター最高出力:375PS(276kW)
リアモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
システム最高出力:503PS(370kW)
システム最大トルク:973N・m(99.3kgf・m)
タイヤ:(前)285/35R22 106H XL/(後)285/35R22 106H XL(ハンコック・ヴェンタスS1 evo3 ev)
一充電最大走行可能距離:482km(WLTCモード)
交流電力量消費率:249Wh/km(WLTCモード)
価格:1492万円/テスト車=1567万円
オプション装備:/ボディーカラー<デイトナグレーパールエフェクト>(0円)/ダークアウディrings &ブラックスタイリングパッケージ<ダークアウディrings、ブラックスタイリング、エクステリアミラーハウジング>(19万円)/アウディスポーツ5アームインターフィアレンスデザインチタングレー22インチアルミホイール+285/35R22タイヤ(41万円)/インテリアパッケージ<ヒーター&シフトパドル付き3スポークレザーマルチファンクションステアリングホイール、リアシートUSBチャージング>(7万円)/プライバシーガラス(8万円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:3460km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:417.6km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:4.4km/kWh(車載電費計計測値)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
無限N-ONE e:/シビック タイプR Gr.B/シビック タイプR Gr.A/プレリュード【試乗記】 2026.2.7 モータースポーツのフィールドで培った技術やノウハウを、カスタマイズパーツに注ぎ込むM-TEC。無限ブランドで知られる同社が手がけた最新のコンプリートカーやカスタマイズカーのステアリングを握り、磨き込まれた刺激的でスポーティーな走りを味わった。
-
インディアン・チーフ ヴィンテージ(6MT)【海外試乗記】 2026.2.6 アメリカの老舗、インディアンの基幹モデル「チーフ」シリーズに、新機種「チーフ ヴィンテージ」が登場。このマシンが、同社のラインナップのなかでも特別な存在とされている理由とは? ミッドセンチュリーの空気を全身で体現した一台に、米ロサンゼルスで触れた。
-
スズキeビターラZ(4WD)/eビターラZ(FWD)【試乗記】 2026.2.5 スズキから初の量販電気自動車(BEV)「eビターラ」がいよいよ登場! 全長4.3mで、航続距離433~520km(WLTCモード)、そして何よりこのお値段! 「By Your Side」を標榜(ひょうぼう)するスズキ入魂のBEVは、日本のユーザーにも喜ばれそうな一台に仕上がっていた。
-
日産エクストレイル ロッククリークe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2026.2.4 「日産エクストレイル」に新たなカスタマイズモデル「ロッククリーク」が登場。専用のボディーカラーや外装パーツが与えられ、いかにもタフに使い倒せそうな雰囲気をまとっているのが特徴だ。高速道路とワインディングロードを中心に400km余りをドライブした。
-
フェラーリ849テスタロッサ(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.2.3 フェラーリの新型スーパースポーツ「849テスタロッサ」は、スペシャルモデル「F80」に通じるデザインをまとい、歴史的な車名が与えられている。期待高まる、その走りは? スペインで試乗した西川 淳の第一報。
-
NEW
ガス代は下落しハイブリッド好調 では“燃費の相場”はどうなっている?
2026.2.9デイリーコラム暫定税率は廃止となり、高止まりしていた燃料代は下落。一方でBEV化の速度は下がり、ハイブリッド車需要が高まっている。では、2026年現在の燃費はいかほどか? 自動車購入時の目安になるであろう“燃費の相場”について考える。 -
NEW
日産キャラバン グランドプレミアムGX MYROOM(FR/7AT)【試乗記】
2026.2.9試乗記「日産キャラバン」がマイナーチェンジでアダプティブクルーズコントロールを搭載。こうした先進運転支援システムとは無縁だった商用ワンボックスへの採用だけに、これは事件だ。キャンパー仕様の「MYROOM」でその性能をチェックした。 -
トヨタ・カローラ クロス“GRスポーツ”(前編)
2026.2.8思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「トヨタ・カローラ クロス“GRスポーツ”」に試乗。人気の都市型SUVに、GRのデザイン要素と走りの味つけを加味した特別なモデルだ。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
無限N-ONE e:/シビック タイプR Gr.B/シビック タイプR Gr.A/プレリュード【試乗記】
2026.2.7試乗記モータースポーツのフィールドで培った技術やノウハウを、カスタマイズパーツに注ぎ込むM-TEC。無限ブランドで知られる同社が手がけた最新のコンプリートカーやカスタマイズカーのステアリングを握り、磨き込まれた刺激的でスポーティーな走りを味わった。 -
インディアン・チーフ ヴィンテージ(6MT)【海外試乗記】
2026.2.6試乗記アメリカの老舗、インディアンの基幹モデル「チーフ」シリーズに、新機種「チーフ ヴィンテージ」が登場。このマシンが、同社のラインナップのなかでも特別な存在とされている理由とは? ミッドセンチュリーの空気を全身で体現した一台に、米ロサンゼルスで触れた。 -
ホンダの「Hマーク」がいよいよ刷新! ブランドロゴ刷新の経緯とホンダのねらい
2026.2.6デイリーコラム長く親しまれたホンダ四輪車のロゴ、通称「Hマーク」がついに刷新!? 当初は「新しい電気自動車用」とされていた新Hマークは、どのようにして“四輪事業全体の象徴”となるに至ったのか? 新ロゴの適用拡大に至る経緯と、そこに宿るホンダの覚悟を解説する。















































