ハスクバーナ・スヴァルトピレン401(6MT)
洗練と独創 2024.09.02 試乗記 独創のスウェディッシュデザインで若いライダーにも人気の「ハスクバーナ・スヴァルトピレン401」。初のフルモデルチェンジで登場した新型は、よりユーザーフレンドリーになりながらも尖(とが)った個性を隠しきれない、ハスクバーナらしいマシンに仕上がっていた。北欧デザインのストリートトラッカー
1903年にスウェーデンでモーターサイクルの製造を始めたハスクバーナは、継続して生産を続けるメーカー/ブランドとしては、最も古い部類のひとつに数えられる。戦後はモトクロスやラリーなどのモータースポーツで活躍し、どちらかというとオフロード系のイメージが強かった。それが、2013年にオーストリアのKTM(ピエラ・インダストリーAG)傘下となり、翌年のEICMA(ミラノモーターサイクルショー)でストリート系ネイキッドバイクのコンセプト「ヴィットピレン」を発表。シンプルでモダン、かつ斬新なデザインで大いに話題を集めた。
このままハスクバーナはストリート系のブランドに発展するのか? と思いきや、後にヴィットピレンのプラットフォームを使い、ブロックパターンのタイヤを履かせてストリートトラッカーのイメージをまとった「スヴァルトピレン」も発表。両モデルとも市販化され、排気量違いのバリエーションを広げつつ今日に至っているのはご存じのとおりだ。
いかにも北欧デザインらしい、シンプルな直線と曲線を組み合わせたユニークなスタイルのヴィットピレン/スヴァルトピレン。初のフルモデルチェンジを受けて登場した2024年モデルは、外観もフレームもエンジンも刷新され、装備も全体的にユーザーフレンドリーなものにアップグレードされた印象だ。今回のスヴァルトピレン401の試乗でも、そうした進化点は確かに感じられた。
親しみやすさと刺激が同居する
走りだす前に、バイクの姿を観察する。前モデルはスイングアームマウントのリアフェンダーによって、リアシートが短く見える特徴的なフォルムだったが、モデルチェンジ後は一般的なシートレールマウントとなった。燃料タンクも新しいデザインとなったが、こちらは9.5リッターから13リッターに容量が増えたにもかかわらず、横に楕円(だえん)形の突起が突き出た特徴的なフォルムや、タンク上のキャリアラックマウントなど、ヴィットピレンらしさは失われていない。
シート高は15mm低くなって820mmとなり、大幅に足つき性がよくなった。これにはシートやタンク形状の見直しだけでなく、サスペンションのレイアウトやライディングポジションの変更も影響している。身長160cmの筆者でも、バイクを起こす際に足を踏みかえる必要はなく、サイドスタンドも労せず出し入れができた。
走りだすと、「KTM 390デューク」と共通のエンジンは実に軽快に、するすると高回転までストレスなく吹け上がる。どちらかというとオフロード系というよりはオンロード系の味つけで、373ccから398.6ccへと排気量が増し、最高出力もトルクもアップしたエンジンが本領を発揮するのは、しっかりとアクセルを開けてからだ。
5インチのTFTフルカラー液晶ディスプレイは、レッドゾーンが始まる1万1000rpmの手前、8500rpmあたりで黄色く点滅してライダーに忠告を与えるのだが、それがかえってスポーツライディングのマインドに火をつける。見た目はブロックタイヤを履いたオフロード系のトラッカーなのだが、ストリートファイター系のバイクに乗っている気分にさせてくれるのだ。
いっぽうで、ユーザーフレンドリーな印象は走りだしても同様で、試乗日はあいにくの雨だったが、エンジン出力をリニアにコントロールするスロットル・バイ・ワイヤとインジェクションのプログラム、アシスト&スリッパークラッチやトラクションコントロールといった機能・装備が、多いにライディングを助けてくれた。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
このハンドリングはタイヤの特性によるものか
試乗中、いろいろとライディングモードを試していたところ、ABSのセッティングで「スーパーモト」モードなるものを見つけた。制御そのものは後輪のABSをカットして前輪のみABSを利かせるというものだけど、なるほどスヴァルトピレンは、オフロード系はオフロード系でも、オン・オフ両用のモタード系の走りを標榜(ひょうぼう)しているというわけだ。
そんなスヴァルトピレンで最も特色を感じたのがハンドリングだ。コーナリングのキッカケでは、フロントまわりがやや粘る。キャスター角は24°で特段寝ているわけではなく、フロントのアクスルシャフトはフロントフォークと同軸なので、トレールが長いわけでもない。この感覚はどこから生み出されているのだろう? と探り探り走っていると、今度はリーンの途中でハンドルが先回りしようとする感覚があった。おそらく、純正タイヤに選ばれた「ピレリ・スコーピオンラリーSTR」特有の個性なのではないだろうか。そしてこの特性は、そのパターンに見合うオフロード路面でこそ本領を発揮するのではないかと、雨の東京を走りながら想像した。
ライディングの質を高める装備と、ユーザー思いのポジションにより、前モデルよりフレンドリーなマシンに進化した新型スヴァルトピレン401。しかし同時に、そのハンドリングにはある種のオリジナリティーが感じられた。このスタイルとスヴァルトピレン(Svartpilen=黒い矢)という車名を思えば、これぐらいクセがあるほうが、より“らしい”というものだ。
(文=小林ゆき/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1368mm
シート高:820mm
重量:159kg(燃料を除く)
エンジン:398.6cc 水冷4ストローク単気筒DOHC 4バルブ
最高出力:45PS(33kW)/8500rpm
最大トルク:39N・m(4.0kgf・m)/7000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:3.4リッター/100km(約29.4km/リッター)
価格:84万7000円
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇

小林 ゆき
専門誌への寄稿をはじめ、安全運転セミナーでの講習やYouTubeへの出演など、多方面で活躍するモーターサイクルジャーナリスト。ロングツーリングからロードレースまで守備範囲は広く、特にマン島TTレースの取材は1996年から続けるライフワークとなっている。
-
2025ワークスチューニンググループ合同試乗会(前編:STI/NISMO編)【試乗記】 2025.11.1 メーカー系チューナーのNISMO、STI、TRD、無限が、合同で試乗会を開催! まずはSTIの用意した「スバルWRX S4」「S210」、次いでNISMOの「ノート オーラNISMO」と2013年型「日産GT-R」に試乗。ベクトルの大きく異なる、両ブランドの最新の取り組みに触れた。
-
シトロエンC3ハイブリッド マックス(FF/6AT)【試乗記】 2025.10.31 フルモデルチェンジで第4世代に進化したシトロエンのエントリーモデル「C3」が上陸。最新のシトロエンデザインにSUV風味が加わったエクステリアデザインと、マイルドハイブリッドパワートレインの採用がトピックである。その仕上がりやいかに。
-
メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【海外試乗記】 2025.10.29 メルセデス・ベンツが擁するラグジュアリーブランド、メルセデス・マイバッハのラインナップに、オープン2シーターの「SLモノグラムシリーズ」が登場。ラグジュアリーブランドのドライバーズカーならではの走りと特別感を、イタリアよりリポートする。
-
ルノー・ルーテシア エスプリ アルピーヌ フルハイブリッドE-TECH(FF/4AT+2AT)【試乗記】 2025.10.28 マイナーチェンジでフロントフェイスが大きく変わった「ルーテシア」が上陸。ルノーを代表する欧州Bセグメントの本格フルハイブリッド車は、いかなる進化を遂げたのか。新グレードにして唯一のラインナップとなる「エスプリ アルピーヌ」の仕上がりを報告する。
-
メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス(4WD/9AT)【試乗記】 2025.10.27 この妖しいグリーンに包まれた「メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス」をご覧いただきたい。実は最新のSクラスではカラーラインナップが一気に拡大。内装でも外装でも赤や青、黄色などが選べるようになっているのだ。浮世離れした世界の居心地を味わってみた。
-
NEW
第322回:機関車みたいで最高!
2025.11.3カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。2年に一度開催される自動車の祭典が「ジャパンモビリティショー」。BYDの軽BEVからレクサスの6輪車、そしてホンダのロケットまで、2025年開催の会場で、見て感じたことをカーマニア目線で報告する。 -
NEW
現行型でも中古車価格は半額以下! いま本気で狙いたい特選ユーズドカーはこれだ!
2025.11.3デイリーコラム「クルマが高い。ましてや輸入車なんて……」と諦めるのはまだ早い。中古車に目を向ければ、“現行型”でも半値以下のモデルは存在する。今回は、なかでも狙い目といえる、お買い得な車種をピックアップしてみよう。 -
NEW
スズキ・アルト ラパン ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】
2025.11.3試乗記スズキの「アルト ラパン」がマイナーチェンジ。新しいフロントマスクでかわいらしさに磨きがかかっただけでなく、なんとパワーユニットも刷新しているというから見逃せない。上位グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。 -
NEW
ジャパンモビリティショー2025(横浜ゴム)
2025.11.2画像・写真全日本スーパーフォーミュラ選手権に供給しているレーシングタイヤや実際のマシン、ウルトラハイパフォーマンスタイヤ「アドバンスポーツV107」の次世代コンセプトモデルなどが初披露された横浜ゴムのディスプレイを写真で紹介する。 -
NEW
ジャパンモビリティショー2025(ヒョンデ モビリティー ジャパン)
2025.11.2画像・写真燃料電池車の新型「NEXO(ネッソ)」やフラッグシップ電気自動車「アイオニック5」、そしてデザインコンセプトカー「インスタロイド」が並んだヒョンデブース。これら展示車両や、燃料電池に関するディスプレイを写真で紹介する。 -
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(前編)
2025.11.2ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛え、STIではモータースポーツにも携わってきた辰己英治氏。今回、彼が試乗するのは「ホンダ・シビック タイプR」だ。330PSものパワーを前輪駆動で御すハイパフォーマンスマシンの走りを、氏はどう評するのか?













