「日本車の強み」とは何か?

2024.08.20 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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クルマ好きは、よく「ドイツ車らしい」とか「イタリア車らしい」といったセリフを口にします。では、「日本車らしさ」とは? 多くのクルマがグローバルな製品として扱われるなかで、日本車ならではの強み、良さというものはあるのか、車両開発者である多田さんのご意見をお聞かせください。

「〇〇車らしさ」というのは、たしかによく言われることですよね。では、そういう“らしさ”が何からきているのかというと、これは100%間違いなく、その国の道路環境です。

各国の交通事情から、その国のクルマの“らしさ”が生まれる。もちろん、国民性とも強くリンクしています。“そういう国民性”だから“そういう道”が生まれて、“それに適合したクルマ”がつくられるわけです。つまり、道路=国民性と置き換えても問題ないと思います。

そのなかで日本車の強みとは何なのか?

残念ながら日本は、モータリゼーションとしては後発の国です。スタート後は、イギリスやドイツ、アメリカから技術を導入してキャッチアップしていったという歴史があります。

そんな日本の道路環境はどうだったかというと、国土が狭くて道もよくないため、ものすごく渋滞してしまう。大都市は走れたもんじゃない。そんな環境でも快適に乗れて、燃費も悪くないものを……ということでハイブリッド技術が発達したり、インテリアの装備がほかの国のクルマに比べて充実していたりと、「高速での安定性」などよりもそっちのほうが進化してきました。そのせいで「ドイツ車に比べてイマイチだ」なんて言われ続けた時代もありましたが。

ところが、10年ほど前から世界中の大都市はどこでも大いに渋滞するようになりました。東京よりLAのほうがひどかったりします。アジアもしかりです。そうなってくると、日本メーカーが築き上げてきた技術が重宝されるようになります。ハイブリッド人気が世界で定着したのもその一例です。

世界中を俯瞰(ふかん)してみると、交通状況の差は一気になくなってしまいました。ビュンビュン走るのがいいという考えもまた、本家のドイツでも限られてきて、速度無制限のところでも飛ばすのは環境に悪いと思われるようになりました。クルマの走りに対する価値観が変わったわけです。そのため日本車の立場が相対的に上がってきたというのが、近年の推移ですね。

一方で、「日本車は壊れない」といったプロダクトそのものの“つくり”については、世界のどのメーカーもキャッチアップして変わらなくなったといえるでしょう。いまやパーツメーカー・サプライヤーは世界的に共通になっていますから、どのブランドが、どのメーカーがという差は、部品単位でも見られません。

また、生産する国や工場による差というのも、100%ないとは言いませんが急速に縮まってきています(関連記事)。

「品質レベルをどの程度に保つのか」ということに対しては、はっきりとした意思が必要で、かつての日本車というのは、それを無限に追求した結果、過剰ともいえる品質水準になりました。それが今では、日本車の優位性というよりも、過剰コストと重量過多による国際競争力の低下を招いています(関連記事)。日本車は今後、そこを打破しなければなりませんが、いったん上げた品質を下げるのは難しく、適正なポイントを見極めるというのは大変困難です。

「国産車もずいぶん高くなったな」と感じられる方もおられるのではないかと思います。そして実際、かなり割高なものになっている面があります。いち早く適正なレベルへの見直しを図り競争力を高めることが、日本車にとって急務であると思います。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。