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第879回:シエナのスバル販売店がMGの取り扱いを開始 88歳名物店主の挑戦

2024.10.03 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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シエナでMG店が開店! その主は……

英国を発祥とし、現在は上海汽車の1ブランドであるMGの勢いがヨーロッパ市場で加速している。オランダに本社を置く同社の欧州法人は、2023年に23万1684台を販売。2024年は30万台以上を目標としている。

2024年上半期の欧州28カ国・地域の乗用車販売台数を見ると、MGは前年同月比20%増の12万6396台を記録し、20位に浮上した。台数ではすでに21位のスズキや23位のマツダを上回る数字であり、伸び率ではボルボの34%に次ぐ(データ出典:JATO)。

2024年9月現在、イタリアで見かける頻度が多いのはクロスオーバー系である。いっぽう、新たに販売の原動力となっているのは「MG3ハイブリッド+」である。同車は2024年ジュネーブモーターショーで世界初公開されたフルハイブリッド車で、最高出力102HPの1.5リッターエンジンとモーターの組み合わせで、システム出力は194HPに達する。

そうしたなか、筆者が暮らすシエナ地域にも2024年春にMG販売店が誕生した。なにを隠そう、本連載で複数回にわたってリポートしてきたニコロ・マージ氏のスバル販売店「アウトサローネ・モンテカルロ」である。

シエナの自動車販売店「アウトサローネ・モンテカルロ」のニコロ・マージ氏(写真向かって左)と、子息のリッカルド・マージ氏(同右)。四十数年にわたりスバルを扱ってきた彼らの新戦略とは?
シエナの自動車販売店「アウトサローネ・モンテカルロ」のニコロ・マージ氏(写真向かって左)と、子息のリッカルド・マージ氏(同右)。四十数年にわたりスバルを扱ってきた彼らの新戦略とは?拡大
メーカー写真から。「MG EHS」はプラグインハイブリッドのコンパクトクロスオーバーである。EVモードでの航続可能距離は52km。
メーカー写真から。「MG EHS」はプラグインハイブリッドのコンパクトクロスオーバーである。EVモードでの航続可能距離は52km。拡大
これはフェイスリフト前の「MG EHS」。シエナ近郊で2024年8月撮影。
これはフェイスリフト前の「MG EHS」。シエナ近郊で2024年8月撮影。拡大
サブコンパクトクロスオーバーの「MG ZS」。シエナで2024年8月撮影。
サブコンパクトクロスオーバーの「MG ZS」。シエナで2024年8月撮影。拡大

ほかの新興ブランド車にはないもの

2024年8月末、筆者がマージ氏の販売店を訪ねてみると、かつて「80歳現役スバル店主」として筆者が紹介した彼は(参照)88歳になっていた。

外にはMGの「のぼり」が立ち、ショールーム内には多くのスバルとともに、MG車も1台展示されている。プラグインハイブリッドのクロスオーバー「EHS」だ。

サービスフロントで働く1970年生まれの長男リッカルド氏も交えて話を聞く。彼らによると、MGは地域販売店のステータスではなかった。三十数km離れたフィレンツェ県で他社が営む正規ディーラーの販売協力店としての取り扱いだという。参考までにMGは、イタリア各地でいわゆるメガディーラーが次々と販売を始めている。

販売店としての利益率は高価格のスバルと比べると限定的であるものの、スバルと同様に各店の自主性を比較的重んじた販売ペースゆえに、負担はないと彼らは明かす。

ニコロ氏は「MGは往年のオープン2シーターモデルの印象が、いまだ好作用しています」と証言する。たとえ現役世代でそれを知る人は少なくても、年長の家族や親族が純英国車時代のMGについて触れてくれるだけで、関心度は高まるという。筆者が考えるに、これはほかの新興ブランドにはないアドバンテージだ。

2024年9月、アウトサローネ・モンテカルロには、スバル車とともに「MG EHS」が展示されていた。
2024年9月、アウトサローネ・モンテカルロには、スバル車とともに「MG EHS」が展示されていた。拡大
展示車ゆえ、数々の保護カバーはお許しを。「MG EHS」の室内。メーターのディスプレイは12.3インチ、タッチスクリーンは10.1インチ。
展示車ゆえ、数々の保護カバーはお許しを。「MG EHS」の室内。メーターのディスプレイは12.3インチ、タッチスクリーンは10.1インチ。拡大
屋外展示の車両。写真向かって左から「MG3ハイブリッド+」「MG4エレクトリック」「MG ZS」、そして「スバル・アウトバック」(日本名:レガシィアウトバック)。
屋外展示の車両。写真向かって左から「MG3ハイブリッド+」「MG4エレクトリック」「MG ZS」、そして「スバル・アウトバック」(日本名:レガシィアウトバック)。拡大
「MG ZS」に貼られた船積み用の“かんばん”を見る。中国河南省の物流ハブである鄭州で出荷され、コスコ社の輸送船サジタリウスで海上輸送された後、イタリア・リグリア州の港湾都市ヴァード・リグレに到着している。
「MG ZS」に貼られた船積み用の“かんばん”を見る。中国河南省の物流ハブである鄭州で出荷され、コスコ社の輸送船サジタリウスで海上輸送された後、イタリア・リグリア州の港湾都市ヴァード・リグレに到着している。拡大
面白いので、スバル車に貼られていた輸送用かんばんも。こちらは常陸那珂(ひたちなか)の港を2024年2月に出て、同じリグリア州のジェノヴァに到着していることがわかる。
面白いので、スバル車に貼られていた輸送用かんばんも。こちらは常陸那珂(ひたちなか)の港を2024年2月に出て、同じリグリア州のジェノヴァに到着していることがわかる。拡大
「MG3ハイブリッド+」。目下、最も手ごろなMGである。1.5リッターエンジン(102HP)+モーター(136HP)の組み合わせで、0-100km/h加速は8秒。50km/hまではEVモードのみ、以降はエンジン/モーター双方で駆動する。
「MG3ハイブリッド+」。目下、最も手ごろなMGである。1.5リッターエンジン(102HP)+モーター(136HP)の組み合わせで、0-100km/h加速は8秒。50km/hまではEVモードのみ、以降はエンジン/モーター双方で駆動する。拡大
「MG3ハイブリッド+」のインテリア。ADASや360°カメラが標準で装備されている。
「MG3ハイブリッド+」のインテリア。ADASや360°カメラが標準で装備されている。拡大
マージ家の販売店はMGよりも先に、2023年に電動モトクロッサー「スタルク・フューチャー」の販売も始めた。
マージ家の販売店はMGよりも先に、2023年に電動モトクロッサー「スタルク・フューチャー」の販売も始めた。拡大

彼の彗眼、ふたたびか

実をいうと、筆者は当初このリポートを記すことに逡巡(しゅんじゅん)し、取材から1カ月近くたってしまった。なぜならニコロ氏のスバル販売店を記した当連載の過去記事は、アクセスランキング上で極めて好評だったからである。第671回の動画部分のみを転載した筆者の個人YouTubeも、再生回数は好調だ。そうしたことから「なぜMGの併売を」と困惑する日本のスバリスト読者たちの表情が浮かんだのである。

しかし、イタリアの日本車販売店がどのような新戦略をとっているかをリアルタイムで伝えるのは、時系列でこの国を観察してきた筆者の役目である。そう考えて本記事を記した。マージ家の販売店は第807回で記したとおり、2023年に移転して新ショールームを開店した。その投資を正しいものとするため、当然の戦略があろう。

ニコロ氏によれば、MGがスバルの顧客を奪う現象は起きていないと語る。なぜならスバルは、最も手ごろな「クロストレック2.0i」でさえ、3万7900ユーロ(約605万円)から。今や「メルセデス・ベンツAクラス」のプロモーション価格車より高価な値づけだ。いっぽうで、前述のMG3ハイブリッド+は1万9900ユーロ(約317万円)から設定されていて、より敷居は低い。価格帯がまったく異なるのである。これは筆者の予想だが、将来はMGでマージ一家の販売店を知った顧客がスバルに乗り換えてくれることもあるだろう。

ニコロ氏は44歳だった1980年にスバルの取り扱いを開始する前、短期間であるが日産車も手がけたことがある。知名度が低かった日本車に早くから注目していたのである。かわって今日、イタリアではBYD、長城汽車系のユーラシア・モーター、インドのマヒンドラ、奇瑞汽車製モデルのノックダウン版であるDRモーターなど、数々の新興ブランドが市場拡大を狙っている。そうしたなかから選んだMGが成功を収めれば、ニコロ氏の彗眼がふたたび証明されることになる。同時に、マージ一家にとって新たな挑戦だ。

その日ショールームには、ニコロ氏の次男フェデリコ氏の子息ヴァレンティーノ君の姿もあった。14歳の今はダートのモトクロスをたしなんでいるが、いつかは祖父が興した店を背負うことになろう。

帰り際、見送りに出てくれたニコロ氏は背後の新店舗を振り返りながら、こう語った。「店が大きくなったのは、私の力ではありません。私たちを信頼してくださったお客さまがいたからなのです」。なんと謙虚な言葉。イタリアや欧州各地でMGがニコロ氏と同様の店主に恵まれたなら、ブランドの未来は明るい。

(文=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、MGモーター・ヨーロッパ/編集=堀田剛資)

マージ夫妻の「M80スーパーデラックス」(3代目「スバル・レックス」の欧州名)も健在だった。長持ちの秘訣(ひけつ)はただひとつで、「オイル交換を決して怠らないことです」とニコロ氏。
マージ夫妻の「M80スーパーデラックス」(3代目「スバル・レックス」の欧州名)も健在だった。長持ちの秘訣(ひけつ)はただひとつで、「オイル交換を決して怠らないことです」とニコロ氏。拡大
第807回で記したとおり、ニコロ氏は免許を返納したので、現在は夫人であるマルナさんが運転手役を務めている。
第807回で記したとおり、ニコロ氏は免許を返納したので、現在は夫人であるマルナさんが運転手役を務めている。拡大
セントラル硝子製のサイドウィンドウ。富士重工業時代の「フ」マークが懐かしい。
セントラル硝子製のサイドウィンドウ。富士重工業時代の「フ」マークが懐かしい。拡大
ニコロ氏と孫のヴァレンティーノ君。イタリアに2台輸入されたうちの1台という「スバル XT」(日本名 : アルシオーネ)とともに。
ニコロ氏と孫のヴァレンティーノ君。イタリアに2台輸入されたうちの1台という「スバル XT」(日本名 : アルシオーネ)とともに。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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