スズキ・スイフトXS(FF/CVT)【試乗記】
いまどきまっとうなコンパクトカー 2010.11.09 試乗記 スズキ・スイフトXS(FF/CVT)……153万8250円
パッと見、従来型と大きく変わらない新型「スイフト」。しかしその中身は、大きく進化していた。
ホントの幸せとは?
とある昼下がり、運転しながらTBSラジオ『小島慶子キラ☆キラ』を聴いていたら、コラムニストの神足裕司さんの言葉が耳に飛び込んできた。運転中だったので一語一句正確というわけではないけれど、ニュアンスとしてはこんなことをおっしゃっていた。
「幸せというのは人もうらやむような大成功を収めることじゃなくて、仕事帰りに仲間と居酒屋で一杯ひっかけて、ワリカンの2000円とか3000円を払えることです」
なるほどな〜、確かにそうかもしれない。ちょっとグッとくる。
で、最近試乗したクルマで、神足さんがおっしゃる幸せと似たものを感じたのが「スズキ・スイフト」だ。
8月にフルモデルチェンジを受けて3代目となった新型「スズキ・スイフト」は、イバリが利くわけでもなければ、バカっ速いわけでもない。ため息が漏れるようなルックスでもないし、インテリアだってゴージャスという言葉からは縁遠い。けれども、高速道路で、いつもの通勤路で、スーパーやコンビニの駐車場で、足を延ばしたワインディングロードで、「いいクルマだなあ」としみじみ感じたのだ。
「スズキ・スイフト」に乗っているとじわじわと幸せを感じる理由は、いくつもあげることができる。走りはじめてすぐにわかるのが、乗り心地のよさだ。従来型から約10cm長くなったとはいえ、3850mmという全長は「ホンダ・フィット」より5cm短い。そんなコンパクトなボディでありながらピョコタンしたところがなく、ゆったり悠然と走るのだ。
路面から伝わるショックは角の取れたまろやかなもの。大きな段差を乗り越えても、「タイヤ→アスリートのひざのように伸び縮みするサスペンション→かっちりしたボディ」と経由することで、衝撃が薄まるのだ。
スーパーから峠まで
乗り心地のよさは新設計された前後サスペンションだけの手柄ではなく、基本骨格から練り直されたボディも大きく貢献しているようだ。荒れた路面を突破してもボディのどこかがワナワナ震えたりしないことが、良好な乗り心地につながっているからだ。
しかも、これだけしっかりしたボディであるにもかかわらず、FFの全グレードで車重は1トンを切る。従来型より大型化しながら、同グレード比で約10kgの軽量化をはたした“勝因”は、高張力鋼板の多用と、補強材を適材適所に投入したことだという。
軽くて強いボディは、ファン・トゥ・ドライブにもつながる。箱根山中で見せた身のこなしは実に軽快で、しかも安定している。試乗日はヘンな天候で、時折滝のような雨に襲われた。そんなコンディションでも、ESP(横滑り自動防止装置)が作動することはほとんどなかった。つまり、足まわりの基本的な能力が高いのだろう。
市街地ではソフトだと感じたサスペンションだけれど、山道で負荷をかけると今度は強靱(きょうじん)な一面を見せて踏ん張る。たおやかだけれど芯は強い、京女のような足まわりだとお見受けした。ステアリングの切りはじめがクイックな可変ギアレシオの設定もナチュラル、手応えもしっとりとした好ましいもの。買い物グルマとしても優秀だし、クルマ好き・運転好きが遊んでも楽しめる。
乗り心地とハンドリングのバランスの高さに目を奪われてしまったけれど、エンジンとトランスミッションもがんばっている。従来型には用意された1.3リッターエンジンがなくなり、エンジンは1.2リッターに一本化。新たに排気側に可変バルブタイミング機構が設置されたが、その効果もあってか低い回転域から力強く加速する、使い勝手のいいエンジンとなった。どんな回転域でアクセルペダルを踏んでも敏感に反応するから、乗りやすいだけでなくファンもある。
上まで回してもパンチ力が増したり快音を発することはないけれど、清々しい好エンジンだ。
拡大
|
拡大
|
拡大
|
もしも従来型のデザインを知らなかったら……
フルモデルチェンジにともなって従来の4段ATは姿を消し、CVTと5段MTのみとなった。ただしCVTは一新され、ジヤトコ製(従来型はアイシン製)の副変速機付きのものとなった。発進時にはローギア、速度が上がるとハイギアに移行する仕組みになっている。タウンスピードでのピックアップのよさは、エンジンだけでなく新しいCVTもひと役買っているはずだ。また、高速巡航時の素晴らしい静粛性も、CVTとエンジンのコンビネーションのたまものだ。
テスト車の「XS」にはパドルシフトが備わるが、これを用いずともスポーティに走らせることができる。
撮影の合間に後席に座ってみる。足は組めないまでも、頭上空間がたっぷりとあって家族4人の足としてはバッチリ。4名乗車だと荷物がそれほど積めないけれど、全長3850mmだからそこは割り切らないと。そのかわり、小回り性能は抜群だ。
正直、従来型とは並べてみないと外観デザインの違いがわからない。まったく新しいデザインのスイフトを見てみたかった気もする。けれど、もし従来型を知らなければ新型を見て「いいデザインじゃん」と思ったであろうことは間違いない。
インテリアはシンプルで、一見どうってこともないもの。でも好感が持てるのは、無理に高価に見せたり奇をてらったりしていないからだ。末永く幸せに付き合えそうだ。
快適で使い勝手がよく、しかも走らせて楽しくて値段もそこそこ。スーパーカーも高級車もいいけれど、こういうベーシックカーと日々の暮らしを共にできるのは、間違いなく幸せだ。
(文=サトータケシ/写真=菊池貴之)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
トヨタRAV4 Z(4WD/CVT)/RAV4アドベンチャー(4WD/CVT)【試乗記】 2026.3.17 「トヨタRAV4」が6代目へと進化。パワートレインやシャシーの進化を図ったほか、新たな開発環境を採用してクルマづくりのあり方から変えようとした意欲作である。ハイブリッドの「Z」と「アドベンチャー」を試す。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ ヴォランテ(FR/8AT)【試乗記】 2026.3.14 英国の名門、アストンマーティンの旗艦車種「ヴァンキッシュ」に、待望の「ヴォランテ」が登場。5.2リッターV12エンジンを搭載した最上級コンバーチブルは、妥協のないパフォーマンスと爽快なオープンエアのドライブ体験を、完璧に両立した一台となっていた。
-
プジョーE-3008 GTアルカンターラパッケージ(FWD)【試乗記】 2026.3.11 「プジョー3008」の電気自動車版、その名も「E-3008」が日本に上陸。新しいプラットフォームに未来感あふれるボディーをかぶせた意欲作だが、その乗り味はこれまでのプジョーとは明らかに違う。ステランティスのような大所帯で個性を発揮するのは大変だ。
-
ジープ・アベンジャー アップランド4xeハイブリッド スタイルパック装着車(4WD/6AT)【試乗記】 2026.3.10 「ジープ・アベンジャー」のラインナップに、待望の「4xeハイブリッド」が登場。既存の電気自動車バージョンから、パワートレインもリアの足まわりも置き換えられたハイブリッド四駆の新顔は、悪路でもジープの名に恥じないタフネスを披露してくれた。
-
三菱デリカD:5 P(4WD/8AT)【試乗記】 2026.3.9 デビュー19年目を迎えた三菱のオフロードミニバン「デリカD:5」がまたもマイナーチェンジを敢行。お化粧直しに加えて機能装備も強化し、次の10年を見据えた(?)基礎体力の底上げを図っている。スノードライブを目的に冬の信州を目指した。
-
NEW
ホンダがまさかの巨額赤字に転落 米国生産車の日本導入への影響は?
2026.3.19デイリーコラム本田技研工業の「Honda 0サルーン」を含む、電気自動車3車種の開発・販売中止に関連する巨額赤字転落という衝撃的なトピックに埋もれてしまった感のある米国生産車2モデルの日本導入計画。その導入予定車両の特徴と、同計画の今後を分析する。 -
NEW
ジープ・ラングラー アンリミテッド ルビコン(4WD/8AT)
2026.3.19JAIA輸入車試乗会2026今も昔もジープブランドの支柱となっている「ラングラー」。悪路にフォーカスし、舗装路では手ごわい挙動を示す一台だが、偏屈なリポーターは「これこそ自動車の本質である!」と強弁するのだった。JAIA輸入車試乗会より、孤高の一台の走りを報告する。 -
NEW
第953回:「黄金のGT-R」と宅配便ドライバーになりかけた話
2026.3.19マッキナ あらモーダ!イタリア在住のコラムニスト、大矢アキオが1年ぶりに日本を訪問。久々の東京に感じた世相の変化とは? 廃止されたKK線に、街を駆けるクルマの様相、百貨店のイベント。さまざまな景色を通じて、「中からは気づけないこの国の変化」をつづる。 -
NEW
ホンダN-ONE e:L(後編)
2026.3.19あの多田哲哉の自動車放談ホンダらしい軽EVと、ちまたで評判の「N-ONE e:」。初めてステアリングを握った元トヨタの多田哲哉さんが、その良かった点と気になった点について、エンジニアの視点で熱く語る。 -
ホンダの「スーパーONE」はどんなカスタマーに向けたBEVなのか?
2026.3.18デイリーコラムホンダが2026年に発売を予定している「スーパーONE」は「N-ONE e:」をベースとした小型電気自動車だ。ブリスターフェンダーなどの専用装備でいかにも走りがよさそうな雰囲気が演出されているが、果たしてどんなカスタマーに向けた商品なのだろうか。 -
モト・グッツィV7スポルト(6MT)【レビュー】
2026.3.18試乗記イタリアの名門、モト・グッツィのマシンのなかでも、特に歴史を感じさせるのがロードスポーツの「V7」だ。ファンに支持される味わい深さはそのままに、よりスポーティーにも楽しめるようになった最新型の実力を、上級グレード「V7スポルト」に試乗して確かめた。































