フィアット600eラプリマ(FWD)
2親等の傍系親族 2024.12.17 試乗記 「フィアット600e」は愛らしいスタイリングで人気を集めるかもしれないが、多くのブランドを抱えるステランティスグループならではのジレンマがそこかしこに感じられる。デザインはまぎれもなくフィアット、ではそれ以外の個性をどこに見いだせばいいのだろうか。似ていても「500e」とはまるで別物
フィアット初のBEVとして2022年に登場した「500e」は、シティーコミューターに徹して航続距離を割り切り、代わりにファンな要素を強くアピールすることで、BEV時代にもフィアットは「らしさ」を絶やさないぞと宣言するかのようなクルマだった。バッテリー容量を競うあまり大きく重いクルマばかりになっている世の多くのBEVに対して、コンパクトカーづくりの名手のプライドを見せつけたインパクトは大きかったし、実際にクルマは愛らしく、とても楽しいものに仕上がっていたと思う。
そんな500eに続いて登場した600eは、より幅広いユーザーに訴求して、本格的なBEVの拡販を目指したモデルである。堅実なパッケージング、十分な航続距離を確保するのが最優先。結果として車体の基本骨格は500eとは別物で、ステランティスグループの「eCMP」プラットフォームが採用されている。
実は最近、それを使った別のモデルを試したばかりだ。そう、「ジープ・アベンジャー」である。他にも「プジョーe-2008」や「シトロエンe-C4」なども、同じ基本骨格を用いている。よって焦点となるのは、そこにいかにフィアットらしいエッセンスが加えられているかということになる。
外形寸法は全長×全幅×全高=4200×1780×1595mmで、特に全長は500eよりも570mmも長い。しかも、キャビンをあまり絞り込まないツーボックスフォルムに、215/55R18という大径のタイヤを組み合わせるせいか、遠目にはともかく間近で見ると、500eあるいは実質的に入れ替わりとなる「500X」と比べると結構大きいというかゴツい印象を受ける。
至るところに「600」
それでも、500eと共通イメージの半目のようなヘッドライトを使い、ボディーのカドもできるだけ丸められてはいる。しかも、その車体には顔面、ライトの脇、リアドアの下、テールランプ脇、リアバンパー……、まだ他にもありそうだが、とにかく至るところに「600」のバッジが付く。多少強引なまでの勢いで、これはフィアットだとアピールしているのだ。
今どきのBEVらしく、キーを持ってクルマに近づくだけでロックが解除される。ドアを開けるとディスプレイメーターの中、センターディスプレイにFIATロゴが出てアニメーションが表示される。ステアリングのセンターパッドにもシートにも、メーターフードにもカーペットにも、本当に至るところに「600」のロゴが刻まれている。エコレザーの白いシート表皮に入れられたブルーのステッチは、よく見れば「FIAT」。このあたりのオシャレっぷりもさすがというしかない。
しかしこのシートは小ぶりで、しかも背もたれが圧迫してくる。ランバーサポートの調整は可能だが、どこに動かしてもなんだかしっくりこない。ペダルレイアウトもいまひとつ。特にアクセルペダルは下手すると踏み外しそうなほど小さい。
後席もスペースはタイト。それこそアヴェンジャーとホイールベースも全高も同じなのに、あちらと違って膝前には余裕がなく、後頭部もルーフに髪の毛が触れることはないもののギリギリという印象。大人4人には余裕十分とは言い難い。ただし、493kmの一充電走行距離を実現する容量54.06kWhものバッテリーを積み込みながら、嫌な張り出しや盛り上がりがないのは、やはり称賛するべきだろう。
軽やかな走りと軽やかすぎるハンドリング
電動とされたテールゲートを開けると荷室フロアは2段となっており、試乗車は下の段に電源ケーブルが置いてあった。フロアがかさ上げされたおかげで、後席背もたれを倒せば、ほぼツライチの空間を生み出すことが可能だ。
あらためてドライバーズシートへ。ロックは自動で解除されるけれど、システムスタートまでは自動ではない。「ENGINE START/STOP」と書かれたままのボタンを押すと、ピーンというサウンドとともにクルマが目を覚ました。これもジープ・アベンジャーなどと同じくセンターコンソールにあるボタンでDレンジを選び、走りだす。
走りはとても軽やかだ。前輪を駆動する電気モーターは最高出力156PS、最大トルク270N・mというスペックで、車重1580kgの600eをスムーズに加速させるには十分。一方、ブレーキは停止寸前にペダルが奥に入るのが気になった。本当ならば、適度に踏力を抜いて前のめりになった車体を滑らかに引き戻したいのに、これだと停車させるたびにカクッとなってしまう。
軽やかを通りすぎて、軽すぎるかなと感じるのがステアリングホイールの操舵力だ。力みなく操作できるのはいいが、操っているという実感に乏しい。乗り心地は普段はまずまず。路面が荒れていると大径タイヤが突き上げてくるのが不満といえば不満だが、その程度の話だ。
ガワ違いビジネスでどこまでいける?
トータルで見て走りは決して悪くはない。普通に、愛らしく使い勝手の良いBEVが欲しいという人には、満足のいく一台となると思う。しかしながら、こうも思ったのは事実である。「ジープ・アベンジャーと味はほとんど一緒だな」と……。
車体の基本構成は一緒。登場タイミングもほぼ同時のこの2台が、スイッチやシフトセレクター以外にも、多くを共有していることは想像に難くない。しかし、デザインだけじゃなく走りや操作感の面でも、やはりもう少しそれぞれのブランドを尊重したクルマであるべきじゃないだろうか。店舗を訪れる客層はかぶらないのかもしれないが、しかし私たちがフィアットに、あるいはジープに期待するのは、そういうことではないはずだ。
そんなことを書いていたら、ステランティスのカルロス・タバレスCEOが予定を切り上げて即時退任したというニュースが飛び込んできた。理由はいろいろあるのだろうが、数多くのブランドを抱えながら、それぞれの個性の希薄なデザイン替えのクルマをそろえるばかりのビジネスが、成功していたならそうはならなかっただろう。ブランドを簡単に統廃合してしまうよりは、随分マシだったともいえるけれども。
ちなみにこの600e、BEV専用車かと思ったら、「600」のハイブリッドやマイルドハイブリッドも2025年春には導入予定だという。ブランド戦略もパワートレイン戦略も、今は過渡期というか、右往左往している真っただ中というべきかもしれない。
(文=島下泰久/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=ステランティス ジャパン)
テスト車のデータ
フィアット600eラプリマ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4200×1780×1595mm
ホイールベース:2560mm
車重:1580kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:156PS(115kW)/4070-7500rpm
最大トルク:270N・m(27.5kgf・m)/500-4060rpm
タイヤ:(前)215/55R18 99V/(後)215/55R18 99V(グッドイヤー・エフィシェントグリップ パフォーマンス2)
一充電走行距離:493km(WLTCモード)
交流電力量消費率:126Wh/km(WLTCモード)
価格:585万円/テスト車=598万6640円
オプション装備:ボディーカラー<スカイブルー>(5万5000円)/フロアマット プレミアム(4万4000円)/ETC2.0車載器(3万5640円)/電源ハーネスキット(2000円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1299km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:275.0km
消費電力:--kWh
参考電力消費率:5.7km/kWh(車載電費計計測値)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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