ポルシェ911 GT3(RR/7AT)/911 GT3(RR/6MT)/911 GT3ツーリングパッケージ(RR/7AT)/911 GT3ツーリングパッケージ(RR/6MT)
向かい風を切り裂いて 2025.03.06 試乗記 最新、すなわち992.2世代の「911 GT3」にも4リッター自然吸気のフラットシックスユニットが搭載されている。ただし、これを継続採用するのはポルシェにとっても大変な作業だったようだ。ポルシェの苦心と工夫、結果として得られたドライビングフィールをリポートする。初代のデビューから25年
あの衝撃は今でも忘れられない。1999年、初代ポルシェ911 GT3がデビューした時のことだ。当時の911はといえば、エンジンが水冷化され車体は完全に刷新。そして何より“涙目”のヘッドライトで物議を醸したタイプ996の時代である。
進化は認めながらも、ハードコアなファンの多くがどこかで納得しきれないでいた、そんなタイプ996をベースに、伝説的な空冷時代の「カレラRS」をベンチマークとして、ドライビングのパフォーマンスとプレジャーを徹底追求して生み出された911 GT3は、瞬く間に走りを愛するポルシェ偏愛者にとっての、アイコニックな存在として認められることになる。
そのデビューから、はや四半世紀。この911 GT3にも、あらがいようのない時代の変化の波が押し寄せてきている。とりわけ厳しさを増すクルマを取り巻く環境規制、そして騒音規制は、911 GT3の一番の特徴・個性である高回転・高出力型の自然吸気フラットシックスにとっては向かい風以外の何者でもない。実際、すでに「カレラ」シリーズは過給ユニット化され、最新の「911カレラGTS」ではハイブリッドも採り入れられている。いつかGT3にも“その時”がきてしまうのでは……。純粋主義者にとって、これが切迫したテーマであることは間違いない。
幸いにも昨2024年、911 GT3登場25年という節目の年に登場した“タイプ992.2”こと最新の911 GT3のリアエンドには、従来モデルに続いて排気量4リッターの水平対向6気筒自然吸気エンジンが搭載されていた。しかし、それは決して簡単なことではなかった。それでも可能にしたのはたゆまぬ情熱、あるいは執念とでもいうべきものだ。
スペック数値には、その苦心のほどが端的に表れている。最高出力510PSは従来と変わらず、最高許容回転数も9000rpmを守ったが、一方で最大トルクは従来の470N・mに対して20N・mダウンの450N・mに下がっている。
レーストラックでの速さを追求
最大のハードルとして立ちはだかったのが最新の排ガス規制だ。例えばEU6の最新版であるEU6 EB規制では、従来比でNOxの30%低減が求められる。さらに、北米のULEV70では44%減、今回初導入だという中国市場のc6B w.RDEでは50%減がマストとされる。新型911 GT3は、排気系に実に4基の触媒コンバーターを装着するなどしているが、無論それはパフォーマンスとの引き換えとなる。
そこで今回、エンジンは吸排気ともにカム作動角を拡大し、独立スロットルはエアフローを最適化。冷却系も一新するなど、細部にまで手が入れられた。そのおかげで従来と変わらない最高出力、最高許容回転数を何とかひねり出せたのだ。
それでも目減りしてしまったトルクは、7段PDKも6段MTも共通で最終減速比を約8%下げることで補われた。結果として0-100km/h加速は7段PDKで3.4秒と、従来と同値をキープ。さすがに最高速は318km/hから311km/hに下がっている。
ちなみに3.6リッターユニットに電動排気ターボ+電気モーターの「tハイブリッド」を組み合わせた911カレラGTSの0-100km/h加速は3.0秒、最高速は312km/hである。そう、前代未聞の逆転現象が起きているのだ。
とはいえ、トラックユースにおける速さ、そしてドライビングプレジャーこそが911 GT3の目指すところ。今回はエアロダイナミクスやシャシーにも広範囲に手が入れられて、トータルでのパフォーマンス向上が図られている。
まず外観を見ると、ライト機能をLEDマトリックスヘッドライトに集約することでバンパー開口部を拡大。さらに、スポイラーリップやディフューザー、リアスポイラー等々の意匠が改められている。これらは、いずれも空力性能改善のため。アンダーフロアも同様に刷新された。
シャシーの改善箇所は、多くが「911 GT3 RS」譲りとなる。フロントのダブルウイッシュボーン式サスペンションは、ロアトレーリングアーム前側のボールジョイントの位置が下げられてアンチダイブジオメトリーを実現する。その他、雨滴形状とされたトレーリングアーム、サスペンションの有効ストロークを拡大する短縮されたバンプストッパー等々を採用し、標準タイヤは主にウエットグリップが高められている。
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最新型のハイライトはコーナリングにあり
スペインはバレンシアで開催された国際試乗会。午前の部はいきなりのサーキット走行から始まった。ロータリースイッチのまま残されたスタートボタンをひねると、室内には荒々しいエンジンサウンドが響き渡る。これでこそ911 GT3。一気にテンションを高めながらコースに入る。
早速アクセルを全開に踏み込むと、思わず「速い!」と声が出てしまった。4リッターフラットシックスは単に9000rpmまで回るのではなく、回転数が高まるほどに直線的にパワーをほとばしらせ、豪快でありながらも繊細なフィーリングで一気にトップエンドまで到達する。
前述のとおり、加速性能は従来と変わらないはずなのだが、最終減速比を低めたせいで吹け上がりはむしろ鋭さを増して感じられるよう。PDKの多少のショックもいとわない瞬間変速ぶりも刺激に輪をかける。
しかしながら最新型のハイライトはコーナリングだというのが私の見解である。ステアリングを切り込んでいった際のフロントのシャープな切れ込み感は、従来よりやや穏やかになった印象。代わりに操作に余裕が生まれ、コントロール性も高まっている。
前述のアンチダイブジオメトリーの採用は、従来は減速時に沈み込んだフロントにダウンフォースが偏り、オーバーステア傾向となっていたのを抑えるためだという。実際、その手当ては見事な効果を発揮している。
縁石をまたぐようにブレーキングするコーナーが多いこのコースでは、サスペンションストロークの向上も走りやすさに絶大に効いていた。大胆に踏み越えても姿勢が乱れることがなく、接地性は乱れないしダウンフォースは抜けないから、思い切りブレーキペダルを蹴飛ばせるのだ。
サーキットでは911 GT3に初めて設定された「ヴァイザッハパッケージ」装着車も試すことができた。主な変更は、外装各部だけでなく車体後方床下のシアパネル、リアスタビライザーまでCFRP製としたこと。試乗車はさらにオプションのCFRP製ロールケージ、マグネシウムホイールまで装着していた。
こちらは走りだした瞬間から明らかに軽快なことに驚かされた。くだんの4基の触媒などによって車重が20kg近く増えたぶんを帳消しにしているうえに、バネ下の軽さなどが加わって、そんな印象になっているのだろう。
その代償で、ハンドリングはややピーキーに感じられたのも事実。容易にオーバーステアに見舞われてしまい、操縦には一層の繊細さが求められる。絶対的な速さも増しているから、ドライバーにもより多くを要求してくるというわけだ。
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どこまでもピュア
午後の一般道での試乗のために用意されていたのは、同時に設定された「911 GT3ツーリングパッケージ」である。しかもMT、PDKの2台の試乗車は、いずれも満載のCFRP製パーツで軽量化を図った「ライトウェイトパッケージ」付きだった。
大型リアウイングを省き、インテリアをレザー張りとしたこのツーリングパッケージは現在、911 GT3のオーダーの非常に多くを占めているという。実際、サーキットに行くことはめったにないということなら、この(比較すれば)目立ちにくいたたずまいは魅力だろう。それでも、シャシーのセッティングなどはまったく変更されていないのだそうだ。
特に印象が鮮烈だったのは、6段MT仕様である。今どき、自然吸気の高性能エンジンをマニュアルで操ることの何とぜいたくなことか。フットワークも切れ味抜群。しかも、有効ストロークの増えたサスペンションは快適すぎるくらいで、これなら変更の必要など感じられない。私自身は、前期型の操舵応答のシャープさも嫌いじゃなかったが、トータルでみて乗りやすく、速いのはこちらだろう。
一方、PDK仕様にはこちらも911 GT3では初設定となる無償オプションのリアシートが装備されていた。いざという時に人を乗せられるだけでなく、バックレストを倒した時に平らになって荷物が載せやすいのもその美点だが、個人的には911 GT3の“らしさ”が削(そ)がれる感もあり思いは複雑。しかも、シート自体が遮音材になるようで、室内が静かになってしまうのだ。もちろん、それがうれしいという人も少なくはないのだろうが、せっかくの911 GT3なので……。
最初に記したように、911 GT3にとって今は厳しい時代である。次のモデルは過給エンジンを積むか、あるいはハイブリッド化されることだって十分あり得る。いや、そもそも存続してくれるかどうかすらも未知数といってもいい。しかも、動力性能では911カレラGTSについに先行されてしまったのだ。
しかしながら、一日さまざまな舞台で走らせて、911 GT3には911 GT3にしかない価値、唯一無二のドライビングプレジャーが備わっているとあらためて実感させられた。四半世紀も続く伝統にのっとった、911 GT3のピュアな走りの魅力はいまだ健在。それは、もはや奇跡的なことだといってもいいのではないだろうか。
(文=島下泰久/写真=ポルシェ/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
ポルシェ911 GT3
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4570×1852×1279mm
ホイールベース:2457mm
車重:1479kg
駆動方式:RR
エンジン:4リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:510PS(375kW)/8500rpm
最大トルク:450N・m(45.9kgf・m)/6250rpm
タイヤ:(前)255/35ZR20 97Y XL/(後)315/30ZR21 105Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2)
燃費:13.8リッター/100km(WLTPモード。約7.2km/リッター)
価格:2814万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ポルシェ911 GT3
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4570×1852×1279mm
ホイールベース:2457mm
車重:1479kg
駆動方式:RR
エンジン:4リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:510PS(375kW)/8500rpm
最大トルク:450N・m(45.9kgf・m)/6250rpm
タイヤ:(前)255/35ZR20 97Y XL/(後)315/30ZR21 105Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2)
燃費:13.8リッター/100km(WLTPモード。約7.2km/リッター)
価格:2814万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ポルシェ911 GT3ツーリングパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4570×1852×1279mm
ホイールベース:2457mm
車重:1477kg
駆動方式:RR
エンジン:4リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:510PS(375kW)/8500rpm
最大トルク:450N・m(45.9kgf・m)/6250rpm
タイヤ:(前)255/35ZR20 97Y XL/(後)315/30ZR21 105Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2)
燃費:13.8リッター/100km(WLTPモード。約7.2km/リッター)
価格:2814万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ポルシェ911 GT3ツーリングパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4570×1852×1279mm
ホイールベース:2457mm
車重:1477kg
駆動方式:RR
エンジン:4リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:510PS(375kW)/8500rpm
最大トルク:450N・m(45.9kgf・m)/6250rpm
タイヤ:(前)255/35ZR20 97Y XL/(後)315/30ZR21 105Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2)
燃費:13.8リッター/100km(WLTPモード。約7.2km/リッター)
価格:2814万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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