メルセデスAMG SL63 S Eパフォーマンス(4WD/9AT)
気は優しくて力持ち 2025.04.02 試乗記 「メルセデスAMG SL」にプラグインハイブリッド車(PHEV)の「SL63 S Eパフォーマンス」が登場。ただのPHEVではなく、システムトータルで最高出力816PSを生み出すモンスターマシンだ。少しステージ違いかもしれないが、日本の公道で仕上がりを試した。速さのためのプラグインハイブリッド
2024年末に国内デビューを飾ったメルセデスAMG SL63 S Eパフォーマンスは、世界に冠たるメルセデス・ベンツが世に問うた「令和の怪物」である。基本的な成り立ちはこれまでのSLの旗艦である「SL63 4MATIC+」のリアに、強力なモーターと電池を搭載したPHEVだ。3982ccのV8の最高出力と最大トルクはそれぞれ612PS/5750-6500rpmと850N・m/2500-4500rpm。電気モーターが204PSと320N・m。システム最高出力は816PS、システム最大トルクは1420N・mに達する。1420! 「電話は4126(よいふろ)」みたいではないか。伊東に行くならハトヤ。覚えやすいかも……。
シュトゥットガルト生まれのこの怪物は、SL史上最強のスーパーパワーとウルトラ大トルクでもって、車重2170kgのオープンボディーを「super-leicht(超軽量)」であるがごとくに加速させる。ちなみにSL63 4MATIC+の車重はカーボンセラミックブレーキ付きで1910kg。SL63 S Eパフォーマンスはそれより160kgも重い。増加分はリアに集中しているはずで、車検証によれば前後重量配分は1070kg:1100kg、すなわち49:51となっている。
欧州仕様の0-100km/hは2.9秒と、3秒を切る。これぞ、「F1テクノロジーを採用した駆動システム」の威力。従来型のPHEVが、モーター駆動によるゼロエミッションを主張するためだとすると、こちらはモーターを内燃機関のブースターとしてピュアに使う、より速く走るためのシステムである。
F1のパワーユニット(PU)、あるいは「フェラーリ296」や「マクラーレン・アルトゥーラ」にも通じる技術を、ラグジュアリーな2+2のオープンで実現したところにこの怪物の新しさがある。
フェラーリ、マクラーレンよりも過激、あるいは、より純度が高いともいえるのは、EV走行換算距離が約半分の15km(WLTCモード)、欧州仕様だと13km(WLTPモード)にとどまっていることである。これでは簡易型EVとしての役割は果たせない。電気モーターと電池を、とにかく速く走ることに使っている。実際、めちゃんこ速い。筆者の技量では全開にすることあたわず。クルマから、スピードに対するメルセデス・ベンツの執念のようなものが伝わってくる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ただならぬものに乗っている
もっとも、webCG編集部の地下駐車場で、このSLの怪物に乗り込んだとき、不勉強家の筆者は予習ゼロ、PHEVだということしか知らなかった。PHEVならデフォルトはEVモードで、電気エネルギーが十分にあれば、エンジンは始動しない。実際、スタートボタンを押すと、グオンッとV8がひと声ほえると、しばし音なしの構えになった。
コラム式のギアレバーをDに入れておずおずと走り始め、地下駐車場につきものの坂道を駆け上がる。すると、すぐにエンジンが始動した。坂道だったからか? そのあとV8はなりをひそめ、駒沢通りに出て左折し、信号を右折。ちょっとした上り坂で再びエンジンが始動し、旧山手通りから首都高速の渋谷入路へと向かう。ゆるい下りでエンジンが止まる。それでも、ただならぬものに乗っている雰囲気が漂う。耳を澄ますと、キィィイイインというEV特有の高周波音が聞こえてくる。
なんとなく電池がなくなるのがいやなので(PHEVに乗っていると、不思議なことにそういう心持ちになるのは、筆者が貧乏性ゆえだ。燃費は悪くなるのに……と思いつつ)ドライブモードを「スポーツ+」に切り替え、アクセルを踏み込むとデロデロデロデロッとV8サウンドがとどろく。
なんせ前にクルマがいるから、ガバチョと踏み込むことはできない。公道で味わえるのは816PS、1420N・mのほんのちょこっとだけだ。それでも、そういう怒涛(どとう)のパワー&トルクを持っている。という気配がドライバーには伝わってくる。
その一方で、乗り心地はふわっとしている。「コンフォート」モードだとなおさら。エアサスペンションを思わせる快適さなのだ。タイヤサイズは前が275/35、後ろは305/30という極太超偏平で、ともに21インチ、ZR規格の「ピレリPゼロ」を装着しているというのに!
乗り心地はスポーツ+モードでも、ガチガチに硬くはならない。ダンピングが引き締まって、路面の状況を伝えてくる感じはある。どう猛なんだけど、どう猛すぎない。そのさじ加減が、さすが名店である。ボディー剛性は高い。と感じる一方で、開口部が広めの4座オープンだから、それなりともいえる。
低速域で感じる怪物感
慣れるまで気になるのはボディーのデカさだ。全長×全幅×全高=4705×1915×1365mm、ホイールベース=2700mmと、2+2のスポーツカーとしては大柄の部類だから当然である。筆者的には、もうちょっと小さいころのSLがヨカッタ……。いやいや、このデカさが他車に威圧感を与えているだろうし、あと20年もすれば、古典の一台として認知されているにちがいない、とも思う。
翌日の早朝、暗闇のなか、撮影に出発する。無音のまま、砂利の駐車場を出る。ステアリングをめいっぱい切ってアクセルペダルを軽く踏むと、ガトンガトンガトンとLSDのショックが伝わってくる。
交差点をゆっくり曲がる際には後輪操舵のおかげでクイッと、リアを持ち上げられたみたいに方向を変える。赤信号で停止すると、エンジンも停止する。ブレーキから足を離すと、即座にエンジンが再始動。この時点でようやく、このクルマはPHEVなのに、EVモードではなくて、コンフォートがデフォルトであることに気づく。
路面が荒れていると、極太偏平タイヤゆえ、ちょっとワンダリングする。ステアリングホイールを手のひらで遊ばせつつ、いやあ、いいなぁ。いかにも怪物で。と思う。
乗り心地は快適である。ご近所の路面だと、うにゅうにゅ、ワニワニワニ、という感じ。ダンパーがエアサス並みの仕事をしている。
首都高速の本線に合流するころには電池が半分になっている。少なくともコンフォートモードだと、電気エネルギーをどんどん消費する。高速に上がると、スポーツ+モードに切り替える。乗り心地はグッと引き締まる。前日に確認したように、目地段差で跳ねるほど硬くはならない。
アクセルをガバッと踏み込むと、ばひょばひょっ、というV8ターボサウンドをとどろかせながら加速する。あまりの大トルクに、路面の凹凸によってはリアがジャンプしている感がある。カエル跳び、もしくは平べったい石で水面をジャンプさせたときの石に乗っているみたいな感じがする。AMGの象徴の、ブロロロロロロッという頼もしくて魅力的なV8サウンドを聴きながら。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
打てば響くパートナー
「MBUX」の音声認識AIに「足柄サービスエリアまで案内して」とお願いすると、聞き返すことなくナビゲーションで案内してくれる。夜明け前にひとりぼっちでドライブしているのに、話が通じる相手がいる。アイム・ノット・アローン。で、私は『ネバーエンディング・ストーリー』の白い竜、ファルコンに乗っているような、信頼できる、頼もしいパートナーに巡り会えた心持ちになる。
そういえば、幌(ほろ)屋根なのに室内が静かなことも驚きだ。静粛性は鉄屋根と変わらない。標準装備のセラミックブレーキは威力バツグン。前に接近しすぎたら、ピーピーと警告音を発して教えてもくれる。
ステアリングをはじめ操作系は全般に重めで、重厚感がある。重すぎてイヤというわけではない。V8サウンドは病みつきになる。
取材地周辺で幌を開ける。開閉速度はものすごく速い。しかも、動きがスムーズ。オープンにすると、心地よい寒気に包まれる。高速走行中でも空気の乱入はまったくない。ただ、出ていく量は多いようで、太もものあたりが寒い。ひざ掛けはあったほうがよい。
快晴の下、寒気を楽しみながら、富士山の周辺をドライブする。飛ばす。なんてことはさっぱり諦め、のんびり、ゆったり流す。「ハーイ、メルセデス。元気ですかー」とMBUXにたずねたら、彼女はこう答えた。
「上々です」
F1という本物の竜のウロコを持つ令和の怪物は、優しいパートナーにもなれるひと、じゃなかった、クルマなのだった。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=メルセデス・ベンツ日本)
テスト車のデータ
メルセデスAMG SL63 S Eパフォーマンス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4705×1915×1365mm
ホイールベース:2700mm
車重:2170kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT<エンジン>+2段AT<モーター>
エンジン最高出力:612PS(450kW)/5500-6500rpm
エンジン最大トルク:850N・m(86.7kgf・m)/2500-4500rpm
モーター最高出力:204PS(150kW)/4500-8500rpm
モーター最大トルク:320N・m(32.6kgf・m)/500-4500rpm
システム最高出力:816PS(600kW)
システム最大トルク:1420N・m(145.8kgf・m)
タイヤ:(前)275/35ZR21 103Y XL/(後)305/30 ZR21 104Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:8.8km/リッター(WLTCモード)
充電電力使用時走行距離:14km(WLTCモード)
EV走行換算距離:15km(WLTCモード)
交流電力量消費率:345Wh/km(WLTCモード)
価格:3350万円/テスト車=3500万1000円
オプション装備:AMGパフォーマンスパッケージ(17万5000円)/AMGカーボンパッケージ(132万6000円)
テスト車の年式:2024年型
テスト車の走行距離:1731km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:374.2km
使用燃料:52.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.2km/リッター(満タン法)/7.6km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】 2026.10.16 欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。
-
フィアット500トリノ ハイブリッド(FF/6MT)【試乗記】 2026.10.13 電気自動車からエンジン搭載車へと華麗に変身! 日本では珍しい、4代目「フィアット500」のマイルドハイブリッドモデルに試乗。1リッターの自然吸気エンジンを6段MTで駆るイタリアンコンパクトは、今のクルマが忘れてしまった楽しさに満ちていた。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.10.12 ボルボの電気自動車(BEV)「ES90」のトップモデル「ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」を駆り、東京から初秋の新潟へ。往復700kmを超えるロングドライブで分かった新型5ドアハッチバックモデルの実力と、BEVで気になる充電環境のリアルな今を報告する。
-
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.10.8 フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。
-
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】 2026.10.7 新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。
-
NEW
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。 -
スズキの未来を徹底検証! 技術戦略説明会から“10年先のスズキの姿”を夢想する
2026.10.16デイリーコラム年間生産500万台で、Dセグメントまでカバーする巨大メーカーに!? スズキが発表した「10年先を見据えた技術戦略2026」を徹底検証。技術開発に製品開発、インドを核としたグローバル戦略などの中身を通して、「10年先のスズキの姿」を予想した。 -
賢い選択 ――キャデラック「LYRIQ」フラットプランのすゝめ――
2026.10.15投資家も太鼓判! 「キャデラック・リリック」×フラットプランという最適解<AD>クルマが変わり、時代も変われば“持ち方”だって変化する? お金のプロである投資家が、「キャデラック・リリック」の残価保証型リースを勧める理由とは? 夢の「2台持ち」をかなえる、最新電気自動車の賢い選び方を考えた。 -
間もなく正式発表 ミツオカの新型2シータースポーツカー「LA1」を予測する
2026.10.15デイリーコラム光岡自動車が2026年11月26日に正式発表を予定しているアメリカンスタイルの新型2シータースポーツカー「LA1」。現在公開されているLA1の画像とティーザーサイトに掲載された情報から、その特徴を分析する。


















































