第825回:軽自動車向けに開発 トーヨータイヤの「プロクセスLuKII」と「オープンカントリーH/T II」を試す
2025.04.24 エディターから一言 拡大 |
トーヨータイヤが軽自動車向けのタイヤラインナップを充実させている。2025年2月に軽ハイトワゴン専用プレミアムタイヤ「プロクセスLuKII」と、軽自動車用のサイズをラインナップしたオンロード向けの「オープンカントリーH/T II」を相次いで発表。ここでは両モデルの特徴と、トーヨーが軽自動車向けタイヤに注目する理由を報告する。
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目指したのは質感の高い走り
2024年度(2024年4月~2025年3月)のブランド通称名別新車販売台数ランキング(日本自動車販売協会連合会および全国軽自動車協会連合会調べ)において、ホンダの「N-BOX」がナンバーワンに輝いた。その数は21万0768台。2位には「トヨタ・ヤリス」が17万1919台で、3位には「スズキ・スペーシア」が16万8491台で続く。トップ10の顔ぶれをみると、5位に12万2358台の「ダイハツ・タント」、9位に8万9691台の「スズキ・ハスラー」が入っている。10台中4台が軽自動車である。
こうした結果を考えれば、軽自動車を国民車と紹介することにためらいはない。クルマが日常の足として欠かせない地域では、一家に一台どころか一人一台が一般的ともいわれる。広い自宅敷地内に何台もの軽自動車が並ぶことさえ当たり前の風景である。
こうした背景を受け、トーヨーは単純明快に「軽自動車をターゲットにラインナップの充実を図る」という戦略を打ち出した。そこで登場したのが、前述の軽ハイトワゴン専用プレミアムタイヤのプロクセスLuKIIと、軽自動車から大型SUVまでのサイズをカバーするオープンカントリーH/T IIである。前者は2014年3月に発売された「トランパスLuK」の後継モデル。「トランパスからプロクセスへのブランド変更は、プレミアム路線を狙ったもの」(開発関係者)と、そのコンセプトは明確で、同時に「質感の高い走りを目指した」(同)という。
SUV向けタイヤとして海外市場で火がついたオープンカントリーシリーズの最新モデルとなるH/T IIは、タフでラギッド感あるデザインを採用しつつ、街乗りにマッチする快適性を重視したモデル。トーヨーではこれを分かりやすく「ハイウェイテレインタイヤ」という呼び名で紹介している。
高見えしそうなプロクセスLuKII
先にステアリングを握ったのは「ダイハツ・タント」で、従来型トランパスLuKと新型プロクセスLuKIIの新旧比較を、高速周回路とワインディングロードを模したウエット路面で行うというものであった。あらためてプロクセスLuKIIのセリングポイントをチェックすると、「静粛性、しっかり感、上質な快適性、摩耗性能を継承しながら、ウエット制動性能を向上させ、転がり抵抗の低減を実現した軽ハイトワゴン専用プレミアムタイヤ」とうたわれている。
プロクセスLuKIIは、操安性に寄与する3本のストレートグルーブと、斜めに刻まれた「フレキシブルテーパー」がスポーティーな印象をもたらすトレッドデザインが特徴だ。パターン設計にあたっては、トーヨー独自のタイヤ設計基盤技術「T-MODE」を活用し、トレッドパターン内で機能を分担させるという非対称パターンを採用する。「水面の輝きの反射をモチーフとした繊細でコントラストのある立体突起デザイン」と紹介される、質感の高いサイドウォールとのコンビネーションも悪くない。見るからに「ちょっと高そう」な仕上がりは、ミニバン用のトランパスと、トーヨーのフラッグシップタイヤブランドを担ってきたプロクセスの違いそのものといっていい。
ドライ路面における従来型トランパスLuKを装着したタントの走りは、安定感ある快適なものだった。ロードノイズはもちろんのこと、グリップ感やステアリングに伝わる路面からの情報入力についても申し分はない。これが2014年に登場したモデルか、と感心してしまうほどである。古さも不満も感じさせない。続いて試したウエット路面でも良好な印象は継続された。
従来モデルをひと通り試した後で行ったプロクセスLuKIIの試走で感じた違いは2つ。ひとつは高速時のレーンチェンジにおける挙動、もうひとつはウエット路面でのグリップ性能であった。
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ウエット制動性能が12%アップ
80km/hに設定した高速時のレーンチェンジでは、どちらもスムーズな横荷重移動が確認できた。ただ、隣のレーンへの移動が完了し、再びステアリングホイールを直進状態にした際のボディー上屋の動きが異なった。ステアリングを切り、車線を変更するまでのプロセスに違いはほとんどないが、トランパスLuKはプロクセスLuKIIに比べるとほんの少し揺り戻しの動きが顕著。ふらつくほどではないものの、比較すれば動きが大きく、収まりにコンマ何秒かのタイムラグを感じることがある。
いっぽうプロクセスLuKIIは、車線変更のために行うステアリングの切り始めと同じフィーリングで荷重移動が収束する。切り始めと切り終わりの動きが統一されているので、これをコントロールしやすいと感じるのだ。そうした違いは専用のトレッドパターンと進化したコンパウンド、そして表面のリニューアルに合わせて見直された内部構造のアップデートによるものと説明された。ミニバン専用ブランドのトランパスは、もともとふらつきに強いとの評判ではあるが、プロクセスブランドに移行したLuKIIは、さらにその長所を伸ばしてきたと感じることができた。
ウエットグリップ性能も確実に向上している。一定の水深に設定されたワインディングロードを模したコースでは、同じように走っても、プロクセスLuKIIのほうがVSC(ビークルスタビリティーコントロール)とTRC(トラクションコントロール)の作動タイミングが明らかに遅い。つまり、それだけタイヤ本来のグリップ力が高く、ぬれた路面で車両をコントロールできる範囲が広いということだろう。
最終的にこれらの電子デバイスが走行の安全性を確保してくれるとはいえ、自前のグリップ力で走行できたほうがドライバーはより自然にストレスなく運転できる。ちなみにトーヨーではトランパスLuKに対してプロクセスLuKIIのウエット制動性能が12%高いとアナウンスしている。ウエットハンドリングの比較データは公表されていないが、「横方向のウエットグリップも向上しています」と開発担当者は胸を張る。
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2つの表情を持つオープンカントリーH/T II
オープンカントリーH/T IIは、従来製品である「オープンカントリーA/T」と同様にサイドウォールのデザインが左右で異なっており、ホイールに組み込む際、どちらかのデザインを好みで外側に配置できる。16インチ以上のサイズでは従来製品と同じくサイド部に表記するブランド名や商品名を白い文字で立体的に浮き立たせた「ホワイトレター」仕様か、一般的なタイヤと同じブラック単色のサイドウォールとなるが、オープンカントリーH/T IIの軽自動車用サイズでは、ブラック単色仕様の反対側がタイヤのサイド部に沿ってリボン状に白色のラインを立体的に浮き立たせる「ホワイトリボン」仕様になっているのがポイントだ。
一見するとタフでラギッド感あるデザインのトレッドパターンは、軽自動車にも流行が飛び火した、SUVテイストを盛り込んだクロスオーバー系モデルに似合いそうだ。そうなると、見た目はゴツくてかっこいいが、大きめのブロックが発するパターンノイズが気になってくる。
ところが街乗りを想定した30~40km/h程度はもちろんのこと、60km/h、80km/h、100km/hと速度を上げていっても、静かでおだやかな印象は大きく変わることがなかった。「こんなオフロード風味満載のトレッドパターンなのに、ロードノイズが気にならないとはどんな仕掛けだ」と言いたくなる。しかも乗り心地は終始マイルド。ステアリングの操作に対する応答性も良く、オフロード向けタイヤにありがちな硬さやもっさり感とは無縁だ。
こちらもプロクセスLuKIIと同じくトーヨー独自のタイヤ設計基盤技術「T-MODE」を活用し、タイヤのショルダー部をリブ形状とする「ショルダーリブ化」や、ショルダー部とセンター部の間の縦ミゾをストレート形状とする「ショルダーグルーブストレート化」を採用することでパターンノイズを抑えたという。事実、タイヤラベリング制度における「低車外音タイヤ」に適合しており、人は見かけに……ではなく、トレッドパターンでロードノイズの大小を推し量ることは難しいと思わせる。
トーヨーの新たなラインナップは、従来のエコタイヤでは見た目や操安性に満足できない、クオリティーを求める軽自動車ユーザーへの新たな提案となりそうだ。もちろん価格はエコタイヤと同等とはいかないだろうが、ドレスアップアイテムとしても注目できる新たな選択肢である。
(文=櫻井健一/写真=トーヨータイヤ/編集=櫻井健一)
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櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
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