ハーレーダビッドソン・ファットボーイ(6MT)
アメリカンクルーザーの王道 2025.05.05 試乗記 今も昔も“ザ・ハーレー”と呼びたくなるいで立ちで人気を博す「ハーレーダビッドソン・ファットボーイ」。1923cc(!)の大排気量エンジンを得た最新モデルは、従来型からいかなる進化を遂げたのか? アメリカンクルーザーの王道を行くマシンの走りに触れた。受け継がれるアイデンティティー
1991年に登場したファットボーイは、クルーザーを中心にラインナップされるハーレーの「ソフテイル」ファミリーのなかでも、高い人気を誇る定番モデルだ。同年公開された映画『ターミネーター2』の劇中で、アーノルド・シュワルツェネッガー演じるサイボーグが乗り回すバイクとして、一躍有名になった。
初代のデビューから34年目となる最新版の2025年モデルだが、まさにハーレーらしいロー&ロングスタイルの大柄なボディーに、縦2本出しの通称ショットガンマフラー、象徴的なディッシュホイールに超ワイドタイヤなど、初代からのアイデンティティーは今も大事に継承されている。
従来モデルとの大きな違いはエンジンだろう。伝統の空冷Vツインエンジンは「ミルウォーキーエイト114」(1868cc)から「同117」(1923cc)へと排気量を拡大。最高出力は94HPから103HPへとアップし、最大トルクも155N・mから168N・mへとピーク値を高めつつ、従来より低い3000rpmでそこに達する特性とすることで、ずぶとい加速にさらに拍車をかけた。
パワーユニットに関するトピックとしてもうひとつ。2025年モデルに採用されたミルウォーキーエイト117には、車種ごとに味つけが異なるエンジンが設定されることも見逃せないポイントだ。種類は「クラシック」「カスタム」「ハイアウトプット」の3タイプで、ファットボーイには「ブレイクアウト」ともども、パンチの効いた「カスタム」仕様が搭載されている。
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これぞハーレーの世界観
さて、ファットボーイ最大のチャームポイントはそのスタイルにあるだろう。まさに「ザ・ハーレー」と呼ぶにふさわしい、伸びやかでノスタルジックなデザイン。キラキラ輝くメッキパーツをふんだんにあしらったぜいたくなつくりは、正統派ハーレーならではだ。そして、車名を象徴する太いタイヤ。ハーレーでも最大級のフロント160mm、リア240mmの極太タイヤを履いた、アルミ総削り出しの大径18インチディッシュホイールに目を奪われる。1950年代のアメ車を思わせるヘッドライトまわりの流線形デザインなど、シンプルななかにも本物の迫力が宿った美しい造形は唯一無二といっていい。
排気量が2リッターに迫るところまで成長したビッグツインは、315kgの巨体をブルブルと震わせながら、軽々と加速させていく。瞬間的な出足の速さはリッタースポーツ以上だ。そして6速トップスロー、アイドリング+αの2000rpmで悠々と街を流していると、ドロッ、ドロッ、ドロッという低くこもったサウンドに魂が震える。
前後18インチの大径ホイールとワイドタイヤ、寝かせたキャスター角と長いホイールベース、そして低重心という、「安定志向」の塊のような車体ディメンションが生み出すハンドリングは、おおらかでフレンドリー。今回は街乗り中心の試乗だったが、交差点の曲がり角やタイトなコーナーでもちゃんと曲がってくれるし、自分がイメージしたラインを忠実にトレースしてくれる素直さが印象的だった。
シート下に隠されたリアサスペンションの設定も見直され、重量に負けない適度なコシと快適な乗り心地がうまくバランスしている。座布団のようなフカフカシートにどっかり腰かけ、手前に引かれたハンドルに腕をもたれ、フォワードステップに足を投げ出してみれば、“大船に乗った”かのような安心感に包まれる。どこまでも力強く、そしてスイート。これぞハーレーの世界観だ!
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本物ならではの存在感と走りの楽しさ
セーフティーも万全だ。前後ディスクブレーキにコーナリング対応のABS、そしてトラクションコントロールが標準で装備され、滑りやすい路面の走行時や、車体が傾いた状態でのブレーキングおよび加速での安心感が増した。急なシフトダウンでのスリップを防ぐ、「ドラッグトルクスリップコントロールシステム(DSCS)」も搭載される。
さらに2025年モデルの新型エンジン搭載車には、3種類のライドモードも新たに採用。乗り方やシチュエーションに応じて、出力特性を穏やかにしたりアグレッシブにしたりと、自由に変えられるようになった。モードは「ロード」「レイン」「スポーツ」の3種類。いろいろ試してみたが、個人的にはスポーツは強烈すぎて気をつかう。好天の下でも、平和にゆったり乗れるレインが一番心地よく感じられた。
ファットボーイはこの2025年モデルで、デザインとパフォーマンス、快適性、安全性のすべてにおいてバランスよく進化したと思う。圧倒的な存在感と走りの楽しさを併せ持つ、本物のアメリカンクルーザーである。
(文=佐川健太郎/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2365×965×--mm
ホイールベース:1650mm
シート高:675mm
重量:315kg
エンジン:1923cc 空冷4ストロークV型2気筒OHV 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:103HP(77kW)/5020rpm
最大トルク:168N・m(17.1kgf・m)/3000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:5.5リッター/100km(約18.2km/リッター、EU 134/2014)
価格:327万5800円
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佐川 健太郎(ケニー佐川)
モーターサイクルジャーナリスト。広告出版会社、雑誌編集者を経て現在は二輪専門誌やウェブメディアで活躍。そのかたわら、ライディングスクールの講師を務めるなど安全運転普及にも注力する。国内外でのニューモデル試乗のほか、メーカーやディーラーのアドバイザーとしても活動中。(株)モト・マニアックス代表。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。
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