トヨタ・クラウン エステートRS(4WD/CVT)
豊かな暮らしのパートナー 2025.06.18 試乗記 「トヨタ・クラウン エステート」は、シリーズで一番大きなラゲッジスペースを持ち、長距離移動時の快適性を追求したというグランドツアラーだ。キャンプに旅行にという人にとっては待ちに待った存在といえるだろう。プラグインハイブリッド車(PHEV)「RS」の仕上がりをリポートする。新型はステーションワゴンにあらず
16代目にして大革新を遂げた新型クラウンについては、初っぱなの「クロスオーバー」の登場の際に、今回のクラウンは“群”で勝負するとして、合計4車型がそろうことが予告されていた。当初の予定よりはだいぶ遅くなったが、クラウン エステートのデビューによって、ようやくラインナップが完成と相成った。
エステートの名こそついているが、そのボディータイプはかつてのセダンをベースとしたステーションワゴンではない。広大な荷室をセリングポイントとするのは一緒だが、新生クラウン エステートは分類するならラージサイズのクロスオーバーSUVということになる。
しかしながら、それは単に時流に乗ったとか、消去法でそうなったという話ではなさそう。実際に乗ってみると、しかも長い時間をともに過ごしてみると、これがライフスタイルにコダワリのある人には、とてもいい按配(あんばい)の仕上がりだと感じられるのだ。
全長×全幅×全高=4930×1880×1625mmというボディーサイズは、クロスオーバーと全長が一緒で全幅が30mm、全高が85mm高い。ホイールベースは両車2850mmで共通だ。クロスオーバーをリフトアップセダンと呼ぶならば、こちらはさながらリフトアップワゴンといったところだろうか。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
いろいろ使えるラゲッジスペース
さらに興味深いことに、サイドビューを重ねてみると、エステートのほうがフロントオーバーハングが短く、リアのそれが長くなっている。そう、単なるボディー違いではなく、荷室容量を稼ぐべくパッケージングにも手が入れられているのである。
実際に荷室スペースは広大で、後席使用時でも容量は570リッター、前後長は1070mmにも達する。しかも、40:60分割のシートバックを倒せば奥行き2mものフルフラットな空間を生み出すことができる。
それを可能にしたのが前席シートバックとの間の隙間を埋める格納式のラゲッジボード。展開するだけで固定できる2軸のヒンジは、実は開発陣が探しに探して見つけた、これまでトヨタとは付き合いのなかった家具メーカーのものだという。クラウンだからこそユーザーの荷物も大事にしたいというのが開発陣の思いなのだ。
さらにこの荷室には、いわゆるテールゲートピクニックを可能にするデッキチェアや、その時に肘をつけるようなデッキテーブルといったアイテムも備わる。スイッチひとつで椅子とテーブルが現れる「ロールス・ロイス・カリナン」のビューイングスイートのように、シャンパーニュでも開けようかという気にまではさせないが、せっかくの大容量、その空間を粋に使ってほしいということなのだろう。確かに荷室長が2mあろうが、クラウンに車中泊はちょっと似合わない。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
絶妙な落としどころの乗り味
試乗車はPHEVのRS。その走りも、やはり余裕という言葉を実感させる仕上がりである。トヨタのPHEVは大容量バッテリーをEV走行距離の長さにだけでなく通常走行にも活用して、電気モーターの受け持つ領域がハイブリッド車よりも明らかに大きい。発進は力強いだけでなく滑らかで、その後の加速も爽快。エンジンが始動するころには速度が高まっているので騒音なども気にならず、心地よいクルージングを楽しめる。
ライドコンフォートも上々だ。サスペンションには適度なコシがあって、どんな入力に対してもフラットな姿勢を保ち続ける。時折、タイヤの大きさを意識させられることはあるが、不満といえばその程度である。ステアリングの反応も穏やかで、しかしダルではなく適度な反力感がクルマとの対話をうながしてくれる。
背を高くすれば見晴らしはよくなるが、走りの面では不利になる。それをこのクラウン エステートは、高いけど高すぎない絶妙な車高、そして「NAVI・AI-AVS」(減衰力可変サス)や後輪操舵といった電子制御アイテムの巧みな活用によって、いい落としどころに収めている。挙動を穏やかに抑え、後席の快適性を高める「リアコンフォート」モードも、そのいい活用例。クロスオーバーの登場から2年以上を経て、このプラットフォームでいかにクラウンらしい走りをつくり上げるかという点で、相当理解が進んだとみえる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
「800万円でしょ?」なポイントも少々
そんなクラウン エステート、あらためて見ると車両本体価格は810万円とある。それなりの補助金が出るとはいえ、なかなかのお値段だ。正直、見方は多少厳しくせざるを得ない。
例えばインテリア。そもそもクラウンは、くつろいで過ごしたい自宅の内装は華美にしないでしょ? とばかりに、仕立ては比較的プレーンだ。その考え方もアリだと思うが、500万円ではなく800万円のクルマとなれば、やはりもう少し色艶がほしい。別にギラギラさせなくてもいい。ドアトリムの素材を変えてステッチを入れるくらいでも、ずいぶん印象は違ってくるのでは? 静粛性や細部のつくり込みもそう。この価格になれば、ユーザーの視界には違ったライバルの姿が入ってくることになる。
とはいえ、トータルでの完成度が非常に高いことは間違いないし、長距離ドライブの心地よさ、優れた空間設計などが、まさにコダワリあるライフスタイルの伴侶にふさわしい仕上がりだというのは紛れもない事実である。あるいは、いろいろな意味で最も豊かに見えるクラウンが、このエステートかもしれない。
(文=島下泰久/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=トヨタ自動車)
テスト車のデータ
トヨタ・クラウン エステートRS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4930×1880×1625mm
ホイールベース:2850mm
車重:2080kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:177PS(130kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:219N・m(22.3kgf・m)/3600rpm
フロントモーター最高出力:182PS(134kW)
フロントモーター最大トルク:270N・m(27.5kgf・m)
リアモーター最高出力:54PS(40kW)
リアモーター最大トルク:121N・m(12.3kgf・m)
システム最高出力:306PS(225kW)
タイヤ:(前)235/45R21 97W/(後)235/45R21 97W(ミシュランeプライマシー)
ハイブリッド燃料消費率:20.0km/リッター(WLTCモード)
EV走行換算距離:89km(WLTCモード)
充電電力使用時走行距離:89km(WLTCモード)
交流電力量消費率:167Wh/km(WLTCモード)
価格:810万円/テスト車=825万5100円
オプション装備:ボディーカラー<プレシャスホワイトパール>(5万5000円)/デジタルキー(3万3000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<エクセレントタイプ>(6万7100円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:2699km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:297.0km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:17.0km/リッター(車載燃費計計測値)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.12.30 ホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。といってもただのリバイバルではなく、ハイブリッドシステムや可変ダンパー、疑似変速機構などの最新メカニズムを搭載し、24年分(以上!?)の進化を果たしての見事な復活だ。果たしてその仕上がりは?
-
ルノー・キャプチャー エスプリ アルピーヌ フルハイブリッドE-TECHリミテッド【試乗記】 2025.12.27 マイナーチェンジした「ルノー・キャプチャー」に、台数200台の限定モデル「リミテッド」が登場。悪路での走破性を高めた走行モードの追加と、オールシーズンタイヤの採用を特徴とするフレンチコンパクトSUVの走りを、ロングドライブで確かめた。
-
レクサスRZ350e(FWD)/RZ550e(4WD)/RZ600e(4WD)【試乗記】 2025.12.24 「レクサスRZ」のマイナーチェンジモデルが登場。その改良幅は生半可なレベルではなく、電池やモーターをはじめとした電気自動車としての主要コンポーネンツをごっそりと入れ替えての出直しだ。サーキットと一般道での印象をリポートする。
-
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(FF)【試乗記】 2025.12.23 ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」に新グレードの「RS」が登場。スポーティーなモデルにのみ与えられてきたホンダ伝統のネーミングだが、果たしてその仕上がりはどうか。FWDモデルの仕上がりをリポートする。
-
メルセデス・ベンツGLA200d 4MATICアーバンスターズ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.12.22 メルセデス・ベンツのコンパクトSUV「GLA」に、充実装備の「アーバンスターズ」が登場。現行GLAとしは、恐らくこれが最終型。まさに集大成となるのだろうが、その仕上がりはどれほどのものか? ディーゼル四駆の「GLA200d 4MATIC」で確かめた。
-
NEW
にっこり笑顔の名車特集
2026.1.1日刊!名車列伝2026年最初の名車列伝は、フロントまわりのデザインがまるで笑顔のように見える、縁起の良さそうなクルマをピックアップ。国内・海外の名車を日替わりで紹介します。 -
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】
2025.12.30試乗記ホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。といってもただのリバイバルではなく、ハイブリッドシステムや可変ダンパー、疑似変速機構などの最新メカニズムを搭載し、24年分(以上!?)の進化を果たしての見事な復活だ。果たしてその仕上がりは? -
BMW M235 xDriveグランクーペ(前編)
2025.12.28ミスター・スバル 辰己英治の目利きスバルで、STIで、クルマの走りを鍛えてきた辰己英治が、BMWのコンパクトスポーツセダン「M235 xDriveグランクーペ」に試乗。長らくFRを是としてきた彼らの手になる “FFベース”の4WDスポーツは、ミスタースバルの目にどう映るのだろうか? -
ルノー・キャプチャー エスプリ アルピーヌ フルハイブリッドE-TECHリミテッド【試乗記】
2025.12.27試乗記マイナーチェンジした「ルノー・キャプチャー」に、台数200台の限定モデル「リミテッド」が登場。悪路での走破性を高めた走行モードの追加と、オールシーズンタイヤの採用を特徴とするフレンチコンパクトSUVの走りを、ロングドライブで確かめた。 -
『webCG』スタッフの「2025年○と×」
2025.12.26From Our Staff『webCG』の制作に携わるスタッフにとって、2025年はどんな年だったのでしょうか? 年末恒例の「○と×」で、各人の良かったこと、良くなかったこと(?)を報告します。 -
激動だった2025年の自動車業界を大総括! 今年があのメーカーの転換点になる……かも?
2025.12.26デイリーコラムトランプ関税に、EUによるエンジン車禁止の撤回など、さまざまなニュースが飛び交った自動車業界。なかでも特筆すべきトピックとはなにか? 長年にわたり業界を観察してきたモータージャーナリストが、地味だけれど見過ごしてはいけない2025年のニュースを語る。

















































