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“オール日産”で世界に挑戦! 新型「日産リーフ」の成否を握るファクターとは?

2025.07.04 デイリーコラム 佐野 弘宗
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「SUVになった!」と言うけれど……

日産が2025年6月17日にグローバル発表した新型「リーフ」は、なんだかんだいって、けっこう話題である。日本国内の電気自動車(BEV)熱は、中国や欧州よりは明らかに低いが、2009年8月に登場(国内発売は2010年末)した初代リーフが世界初の量産BEVだったことは、われわれ日本人の多くは誇らしく思っている。また偶然か必然か、新型リーフは日産の経営危機の真っただ中での登場となり、なおさら注目が集まることになった。

新型リーフで最初に注目を集めたのは、もちろんエクステリアデザインだ。一部で「新型リーフはSUVになった」といわれるが、まあちょっと待ってほしい。なるほど、ホイールアーチや車体下部をブラックアウトさせて地上高とタイヤを大きく見せる手法はSUVそのものだが、先陣を切って発売される北米仕様で1557mmという全高は、先代(日本仕様で1560mm)から高くなっていない……どころか、新型リーフの日本仕様の全高は1550mmになる予定だそうなので、わずかながらも低くなっているくらいである。なのに、写真で見る新型リーフがこれまでより背高に見えるのは、先述のデザイン手法に加えて、全長がぐっと短くなっているからだ。つまり、縦横比による一種の錯覚である。

新型リーフの全長についても多くのメディアで4405mmと報じられているが、これも北米仕様の値。日産の資料によると、日本仕様はもっと短い4360mmになるという。先代と比較すると、じつに120mmもの縮小である。

3代目となる新型「日産リーフ」(北米仕様)。初代、2代目がコンベンショナルなハッチバック車だったのに対し、3代目はファストバックスタイルのクロスオーバーとなった。
3代目となる新型「日産リーフ」(北米仕様)。初代、2代目がコンベンショナルなハッチバック車だったのに対し、3代目はファストバックスタイルのクロスオーバーとなった。拡大
2009年8月に発表された初代「リーフ」。世界初の量産BEVだったが、航続距離はJC08モードで200kmと短く、受電能力や電池の劣化耐性などを見ても、まだまだ発展途上のクルマだった。
2009年8月に発表された初代「リーフ」。世界初の量産BEVだったが、航続距離はJC08モードで200kmと短く、受電能力や電池の劣化耐性などを見ても、まだまだ発展途上のクルマだった。拡大
ボディーサイズは2代目が全長×全幅×全高=4470×1790×1560mm、ホイールベース=2700mmだったのに対し、3代目は全長×全幅×全高=4405×1810×1557mm(北米仕様)、ホイールベース=2690mmとなっている。最大の変化はフロントオーバーハングで、じつに200mmも切り詰められた。
ボディーサイズは2代目が全長×全幅×全高=4470×1790×1560mm、ホイールベース=2700mmだったのに対し、3代目は全長×全幅×全高=4405×1810×1557mm(北米仕様)、ホイールベース=2690mmとなっている。最大の変化はフロントオーバーハングで、じつに200mmも切り詰められた。拡大
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ありそうでなかった絶妙なサイズ感

まったく未開拓の市場に投入された初代リーフが、Cセグメントハッチバックとなったのは、日米欧を中心とした当時のグローバル市場では、それが最大公約数だったからだ。つまり「よくわからないから、とりあえず、どこででも過不足ないサイズにしてみた」ということである。

ただ、米テスラが2016年にリーフよりちょっと大きな「モデル3」を登場させると、BEVのトレンドはそっちに傾いて、さらに2020年の「モデルY」で、コンパクトSUVが主流となるのが決定的になった。ただ、そこに正面から挑むのは日産では「アリア」だ。新型リーフが小さくなったのは、そんなアリアと明確に差別化するためでもあろう。

ちなみに、新旧リーフの全長を日本でおなじみのクルマでたとえると、先代の全長が「スバル・インプレッサ」「マツダ3ファストバック」級だとすれば、新型は「トヨタ・カローラ スポーツ」や「フォルクスワーゲン・ゴルフ」に近い。あるいはBEV市場のなかでいうと、先代のサイズが「BYD ATTO 3」や「MINIカントリーマン」と同等だったのが、新型は同じBYDでも「ドルフィン」あるいは「フォルクスワーゲンID.3」(日本未導入)に近づいている。

いずれにしても、広義では新旧ともCセグメントであることは同じだが、実際の乗車感覚はけっこう変わっていると予想される。新型リーフの厳密な全長は、ついにBEVの販売台数世界一となったBYDでいうと、ATTO 3とドルフィンの中間にあたる。その意外に“ありそうでない”サイズ感が市場でどう受け入れられるかは興味深い。

テスラの人気コンパクトSUV「モデルY」。2023年には「トヨタ・カローラ」を抜き、年間の世界販売で1位に輝いた。
テスラの人気コンパクトSUV「モデルY」。2023年には「トヨタ・カローラ」を抜き、年間の世界販売で1位に輝いた。拡大
2020年発表の「日産アリア」だが、世界のEVマーケットにおける存在感はいまひとつ。発売当初の長い納車待ちを解消できないうちに、強力なライバルが台頭してきてしまったのだ。
2020年発表の「日産アリア」だが、世界のEVマーケットにおける存在感はいまひとつ。発売当初の長い納車待ちを解消できないうちに、強力なライバルが台頭してきてしまったのだ。拡大
新型「日産リーフ」のサイズは、BYDでいえば「ドルフィン」(全長4290mm)と「ATTO 3」(同4455mm)の間に位置する。
新型「日産リーフ」のサイズは、BYDでいえば「ドルフィン」(全長4290mm)と「ATTO 3」(同4455mm)の間に位置する。拡大

車体も電池もモーターも“日産系”

すでに報じられているとおり、新型リーフのプラットフォームはアリアに続く「CMF-EV」で、リアの独立サスペンションなどは、リーフのクラスでは少しぜいたくともいえる。そこに搭載されるモーターとインバーター、ギアボックスを“3-in-1”で一体化したパワーパック(いわゆるeアクスル)は、日産子会社のジヤトコが供給する。

日産の変速機工場からサプライヤーとして独立したジヤトコは、変速機需要の先細りをにらんで、かねてeアクスル事業への進出を公言していた。アリアではその前段階として減速ギアのみを手がけたが、今回の新型リーフでは、ついにモーターやインバーターも含めたeアクスルをつくるわけだ。

駆動用のリチウムイオン電池はリン酸鉄ではなく三元系で、そのサプライヤーが、アリアではCATLだったのがAESCに変わったことも注目に値する。どちらも今は中国資本の電池メーカーだが、後者は日産とNECが設立したオートモーティブエナジーサプライが前身で、現在も日産が20%出資する。しかも、AESCのグローバル本社は横浜、最新の茨城工場は日本最大級のリチウムイオン電池工場でもある。

またCMF-EVは仏ルノーも使っているが、開発の主導は日産だったという。今という時代に、プラットフォーム、eアクスル、電池……と新型リーフの主要コンポーネンツが“オール日産(系)”といえる布陣でそろえられているのは、なかなか頼もしい。

プラットフォームには、「日産アリア」や「ルノー・メガーヌE-Techエレクトリック」と同じく「CMF-EV」を採用。これに伴い、リアサスペンションはトーションビーム式からマルチリンク式に変更された。
プラットフォームには、「日産アリア」や「ルノー・メガーヌE-Techエレクトリック」と同じく「CMF-EV」を採用。これに伴い、リアサスペンションはトーションビーム式からマルチリンク式に変更された。拡大
モーターとインバーター、リダクションギアをひとまとめにしたeアクスルはジヤトコ製。最高出力は「B5」仕様で130kW、「B7」仕様で160kWとされる。
モーターとインバーター、リダクションギアをひとまとめにしたeアクスルはジヤトコ製。最高出力は「B5」仕様で130kW、「B7」仕様で160kWとされる。拡大
新型「リーフ」の電池はAESCの茨城工場で生産される。AESCは中国エンビジョン傘下の電池会社だが、もとは日産とNECが立ち上げたもので、今も日産が20%の株式を保有している。
新型「リーフ」の電池はAESCの茨城工場で生産される。AESCは中国エンビジョン傘下の電池会社だが、もとは日産とNECが立ち上げたもので、今も日産が20%の株式を保有している。拡大

ライバルの性能・機能を堅実にキャッチアップ

そんな新型リーフは、よくも悪くもパイオニアだった初代~2代目とは対照的に、冒頭の車体サイズも含めて、各部は世界にひしめくライバルを強く意識した仕立てとなっている。日産としては最量販のBEVということもあってか、あっと驚く新機軸はないが、世界の最前線と比較しても見劣りはしない。

たとえば、52kWh(B5)と75kWh(B7)という電池の総電力量は、BYDでいえば「ドルフィン級の車体にATTO 3よりちょっと多めに電池を積んだ感じ」と表現することも可能で、スペック的にも最新BEVの名に恥じない。B7の一充電航続距離は600km以上とされているが、これは単純計算で8km/kWh以上の電費となり、最新BEVとして悪くない数値だ。

従来型リーフ最大の欠点といえた電池冷却が“水冷化”されたのは当然としても、電池温度を最適にキープするだけでなく、必要なときには電池の熱を逆に暖房に活用するなど、クルマ全体の緻密なサーマルマネジメントにまで踏み込んでいるのは、いかにも最新BEVである。最大150kWで、残量10%から80%まで最短35分という充電性能も、最前線レベルである。

高い受電能力も新型「リーフ」の特徴で、「B7」仕様の場合、出力150kWの急速充電器を使えば、15分で250km走行分以上の電気を回復可能。また北米仕様にはNACS規格の急速充電ポートも用意され(写真)、テスラが展開する「スーパーチャージャー」が利用可能となった点もトピックだ。
高い受電能力も新型「リーフ」の特徴で、「B7」仕様の場合、出力150kWの急速充電器を使えば、15分で250km走行分以上の電気を回復可能。また北米仕様にはNACS規格の急速充電ポートも用意され(写真)、テスラが展開する「スーパーチャージャー」が利用可能となった点もトピックだ。拡大

成否のカギはやっぱり……

さらに注目は「ナビリンクバッテリーコンディショニング」が搭載されたことだ。これは一般に“プレコンディショニング”と呼ばれる機能で、車載ナビで充電スポットを目的地設定すると、そこまでの距離や時間、負荷を計算しながら、充電開始までに電池温度を最適化してくれる。もとはテスラが先べんをつけて、中国や欧州の上級BEVでは常識化しつつある技術である。ここも国産BEVが出遅れていた部分のひとつだが、ついに新型リーフに搭載されるのだ。もっとも、トヨタ(とスバル)が今秋発売予定の「bZ4X/ソルテラ」および「レクサスRZ」の大幅改良モデルにも、同種の機能が搭載されており、国内発売はタッチの差でトヨタとスバルに先を越されるかも……だけれど。

いずれにしても、新型リーフは絶妙な(存在となるかもしれない)サイジングに加えて、BEVユーザーが現時点で希望する機能や性能を、しっかりと最前線レベルでキャッチアップしている。ただ、BEVの進化速度はすさまじいので、新型リーフにいつまで“トップクラス”という形容詞が使えるかはわからない。もしかしたら半年かもしれない。

結局のところ、カギとなるのは価格だろう。性能や機能が大幅進化したことで、価格も大幅上昇と予想する向きも多い。しかし、CMF-EVプラットフォームはこのクラスではぜいたくであっても、開発の主導は日産だ。しかも、生産拠点も追浜から栃木に移ってアリアと一緒につくられる(余談だが、これも追浜工場閉鎖がウワサされる根拠のひとつ)。加えて、eアクスルも電池も日産系……となれば、ここはひとつ、グループあげてのコストダウンで、衝撃のお手ごろ価格を期待したいところだ。

(文=佐野弘宗/写真=日産自動車、テスラ、BYDジャパン、AESCジャパン、トヨタ自動車/編集=堀田剛資)

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充電前にあらかじめバッテリーを温めておくことで、受電能力を高めるプレコンディショニング機能は、米テスラが初めて実用化したもの。日系のBEVも、ようやく採用することとなった。
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米国で発表された2026年モデルの「トヨタbZ」(日本名「bZ4X」)。バッテリー容量を増やすことで航続距離を延ばしたり、4WDモデルのシステム最高出力を高めたりといった改良がなされている。
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し烈な開発競争により、BEVの性能は急速に進化している。経営再建で足もとがグラついている日産だが、新型「リーフ」では、「アリア」のときのように出足でつまずき、そのままズルズル……といったことにならないよう祈るばかりだ。
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佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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