クワッドモーター搭載で過去にないパフォーマンス BMWが示したBEV版「M3」の青写真
2026.01.28 デイリーコラムBEVとして究極のドライビングマシン体験をMモデルで
BMWの新時代商品戦略を総称する「ノイエクラッセ」。新開発の電気自動車(BEV)専用アーキテクチャーを採用するモデルの第2弾として仕込まれているのが「i3」です。昨年来、ニュルブルクリンクでのテスト風景が度々スクープされています。
が、捉えられたその姿、なにか様子がおかしい。顔やフォルムはi3に見えるも、見るからに太いタイヤを収めるフェンダーはドンと張り出しており……と、形状的には「もしやM?」と、そんな妄想を抱かせるものでした。
確かにMの電動化の布石はあるにはある。「i5」や「i7」には実質的なMパフォーマンス枠とおぼしきグレードもあれば、M自身が企画したプラグインハイブリッドの「XM」も存在します。でもBEVベースの純然たるMモデルはこれまで市販されていません。内燃機を積まないMなんてクリープを入れないコーヒーのようなもんじゃあないか……と、昭和のオッさんはいぶかしがるわけですが、その予感はいよいよ現実になりそうというのが今回の話です。
2026年1月中旬、BMWからアナウンスされたのは、BEVとして究極のドライビングマシン体験をMモデルで提供するというもの。空調や表示などの基本性能、そしてインフォテインメントや自動運転といった未来のクルマにまつわるすべての要素を「スーパーブレイン」と呼ばれる4つのコンピューティングで制御しようというわけですが、そのひとつであるドライビングダイナミクス領域のSOC「ハートオブジョイ」で駆動系や電源のマネジメントなどをすべてコントロールするというのがMモデルの注目点になるかと思います。その心は、BEVとなるMモデル、仮に「i3 M」とでもすれば、搭載されるモーターが各輪1つのクワッド=4モーターとなるからです。
バッテリーもスポーツモデルに最適化
「M eDrive」と名づけられたこのシステム、4モーターということは前後軸におのおの2モーターを搭載し、前後左右に物理的な接続がない四駆になります。車体の中央部に並列で2モーターを置き、ヘリカルギアを介することで位置的には左右中立的なアウトプットを形成しています。それを前後に配することで4モーターを実現しているかたちです。各輪独立のモーターということで、当然ながら前後を貫くプロペラシャフトもなければデフの必要もなし。LSDの差動制限力みたいなものもモーターの制御で無段階的にコントロールできるということになります。やるやらないは別ですが、なんなら超信地旋回やカニ走りみたいなこともできなくはないでしょう。逆にいえば、やり方次第でFWDにもRWDにもなれるということです。
この自在性をいかにくだんのハートオブジョイでつかさどることができるか。それがi3 Mのひとつのハードルになるかと思います。従来のメカニカルな四駆とは制御幅が比較にならないぶん、そのパラメータも膨大ならセンシングや処理伝達能力にも激速が求められるわけで、果たして予測や修正といった人間の本能や、目まぐるしく変わる限界特性にまつわる物理の壁をデジタルが超えることができるのか……というある種の究極を体現しようとしているようにもうかがえるわけです。
その原動力となる電池にも、i3 Mでは新しいパフォーマンスが与えられるといいます。基本設計は「iX3」で示されたセルをモジュール化せずに直接パッケージする構造を採用、円筒型にして46mm×95mmというセルのサイズも同じです。でも中身は専用設計で、航続距離を優先して最適化されたiX3のそれに対して、内部抵抗を低減したうえで電力を最大限に引き出す組成に変更されるといいます。絶対出力や瞬発力が求められるスポーツモデルに最適化された仕様というわけです。そのぶん、航続距離がトレードオフになることはBMWも認めています。つまりi3 Mの用途としては、充電環境が担保できるという前提でのサーキット走行なども想定されているわけです。
クルマのダイナミクスの常識を覆せるか
今回は具体的な出力などは発表されていませんが、BMWは過去のプロトタイプを通して最高出力1341PSの可能性も示唆していますから、パワーもトルクも1000の大台超えは十分考えられるところです。一方でその出力や重量から推するに、サーキットのスピードレンジでそれを手なずけるのが難儀なことは間違いないでしょう。
実際、昨春にSNSで見たニュルのインダストリープールでの映像では、アンダーステアと必死に格闘するi3 Mとおぼしき姿が見受けられました。しかし、M側のノイエクラッセ責任者であるフィリップ・ブラン氏は「ボディーコントロールにまつわる目標達成のメドがついた」ことで今回の概要発表に至ったとプレゼンテーションで述べていました。
と、ここで読者の皆さんは「電気は分かったけど今までの『M3』はどうなるのよ」とお思いのことかと察します。それについてBMWから正式なアナウンスはありません。なもんで、あくまで個人的な邪推になりますが、仮にG20系ベースで次期型「3シリーズ」が企画され、i3と併存するという流れが既定化しているならば、M3をとどめる理由はありません。「M4」の処遇は分かりませんが、「GT3エボ」が一線級のパフォーマンスを保ち続けていますし(昨年のニュル24時間の優勝車両です)、内燃機版のモデルは現実を戦うMとして成熟を重ねながら生き続けるのではないでしょうか。そのぶんi3 Mは、クルマのダイナミクスの常識を覆す、驚くような未来を描けるかが課題です。その扉が開くのは今年か来年か、楽しみに待ちましょう。
(文=渡辺敏史/写真=BMW/編集=藤沢 勝)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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