第108回:世界にはばたけ! ニッポンのかわいいクルマ進化論
2026.04.08 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
「スズキ・アルト ラパン」に「ダイハツ・ムーヴ キャンバス」と、かわいらしいデザインのクルマが街をかっ歩する日本。こうしたデザインは果たして海外でも通用するものなのか? 日本独自の“かわいいクルマ”の可能性を、カーデザインの識者と考えた。
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「かわいいデザイン」は世界で受け入れられない?
webCGほった(以下、ほった):今回はちょいと、日本の「かわいいデザインのクルマ」のお話をしたいと思います。
清水草一(以下、清水):かわいくないほった君肝いりのお題ね(笑)。
ほった:これについては今までも話に上がっては消えていたので、一度まとめられればなと。きっかけは2025年、「スズキ・クロスビー」の事前取材会でのお話です。開発の方がクロスビーは日本以外では売らないとおっしゃってまして、理由を聞くと「このデザインは海外ではウケないから」と。試しに浜松で働いてるインドの方々に意見を求めたこともあるそうですが、皆さん顔をしかめて、指で×印だったそうです(笑)。結局、海外では日本のかわいいデザインは受け入れられないというのが、スズキの見解でした。
清水:少なくともインドではダメそうだね。
ほった:でも、フィアットの「500」や「600」、ルノーの「トゥインゴ」のようなクルマは、海外にもあるわけですよね。
清水:インドはいま伸び盛りの新興国で、国民全体が背伸びしたい時期だから、なるべく二枚目なクルマが欲しいんじゃない? “かわいいカー”が受け入れられるのは、老大国になってからでしょ。
ほった:では、すでに老境に至った国で売ればいいのでは。昔の話になりますが、2代目「日産キューブ」のデザインは海外でもすごく評価が高かったようですし、同じ日産の「フィガロ」なんて、イギリスにファンクラブまであるじゃないですか。果たしてホントに、日本のかわいいデザインは海外で受け入れられないのか? 単にマーケティングがコケているだけなんじゃないのか? 今回は、そんなことを考えてみたいなと。
スゴいぜ! アンパンマン
ほった:ワタシがまず渕野さんに聞きたいのはですね、日本の“かわいいカー”を受け入れる土壌が海外にあるのか、という点ですね。
渕野健太郎(以下、渕野):まずはクルマの話の前に、キャラクタービジネスの話をしましょう。日経の記事によると、2025年のグローバルでのIP(知的財産)収入ランキングは、1位がポケモン、2位がハローキティだそうです。プーさん、ミッキーマウス、スター・ウォーズなどを抑えてのワンツー! しかも6位にアンパンマン、8位にマリオ、9位に『週刊少年ジャンプ』が入っていますね。
清水:ええーっ! アンパンマンがそんな上位に!?
ほった:なぜアンパンマンにそんなに反応を?
清水:だってアンパンマン、困った人がいたら、自分の頭をむしり取って食べさせちゃうんだよ。あれこそ海外では受け入れられないんじゃ……。
渕野:アンパンマンは、ほぼ国内市場の圧倒的な強さによるものでしょう。
清水:国内でそんなに強いんですか?
渕野:うちには小さい子供がいるのでよくわかります。本当に強いです(笑)。アンパンマンの子供向けグッズやおもちゃの市場は、国内だけでも本当にスゴい。こうした、“かわいいもの”をつくることに長(た)けているのは、日本の国民性のひとつなんだろうなと思います。
清水:アンパンマン、かわいいかなぁ? オレは怖いと思うけどなぁ。
ほった:清水さん、今回はアンパンマン論じゃないです。
分化する「かわいいクルマ」の潮流
渕野:今、国内で売られているかわいいクルマを挙げると、スズキの「アルト ラパン」、ダイハツの「ムーヴ キャンバス」、そのライバルの「スズキ・ワゴンRスマイル」……これは、いまひとつかわいくないという意見もありますが(笑)、それとホンダの「N-ONE」あたりでしょうか。丸目の「N-BOX」も一応入れておきましょう。あとは新興勢力の「三菱デリカミニ」あたりですかね。
これらをマッピングしてみると、方向性の違いが見えてきます。スズキのラパンはどストレートな「キャラクター的かわいさ」が特徴で、ターゲットは完全に若い女性ですよね。それに対してダイハツは、ムーヴ キャンバスの「セオリー」なんかを見ると、大人でも乗れる、少し洗練された方向性を意識している。さらにN-ONE等のホンダ車は、どちらかというと「洗練された、しゃれた」方向のかわいさですね。
ジャパンモビリティショーに出ていたダイハツの「ミゼットX」やホンダの「マイクロEV」を見ても、あざといディテールよりフォルム全体でキャラクターを表現していましたよね。ホンダも、「Honda 0シリーズ」みたいにヘンに構えず、こういう得意な分野を伸ばせばいいのに……。
ほった:ホンダ関連のお話はまた今度にしましょう。それにしても、「ムーヴ ラテ」や「ミラ ココア」の時代は、キャピキャピしてて日本男児は到底乗れないようなのばっかでしたけど、今はずいぶん変わりましたね。
渕野:そうですね。最後にデリカミニですが、「デリ丸。」なんてマスコットができるくらいに強烈なキャラクター感を主張しつつ、タフさという要素も持っています。これらはすべて軽自動車なので、日本国内専用なわけですけど、こうした「かわいい」の幅を普通車にも広げていって、グローバルに販売してほしいなと私も思います。日本独自のデザインの強みは、ここにあると思うので。
そもそも、最近のクルマはどれも顔が怖すぎますよ。ミニバンもあんなに周囲を威圧しなくても、いいんじゃないかと。
ほった:「かわいいデザインのクルマがいい」というのと合わせて、「ほかのクルマが怖すぎる」というのもある気がしますね。
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「かわいい」をもてはやすのは日本だけ?
清水:ただね、渕野さんに聞きたいんですけど、欧米には「赤ちゃんっぽいデザイン」が否定的に見られる文化がありますよね? 大人の女性を「かわいい」なんて言ったら侮辱になるとか。クルマも「美しい」べきであって、かわいいはダメだという価値観はありませんか?
渕野:伝統的にそれはあると思いますし、そもそもプロダクトの見方、ユーザーからの見え方が違うのだと思います。よく言われるのがポルシェですね。日本では女性がかわいいと言って乗っていたりもしますが、ドイツ人から見れば「男の中の男のクルマ」であって、かわいいなんて感覚は全くないと聞いたことがあります。フォルムが丸い、ヘッドランプが丸いからといってかわいいと捉えるのは、非常に日本的な見方なのかもしれません。
ほった:日本では「ちっちゃくてかわいい!」でもてはやされていたスマートも、ドイツ生まれのクルマでしたね。あれも日本と本国とでは、ユーザーの見方は違ったんでしょうね。
渕野:欧米の人はクルマという商品に対して、ポケモンやハローキティのように「かわいい」という価値観を重ねて見てはいないのかもしれません。
清水:「かわいくするには、クルマは高価すぎる商品だ」という感覚もあるかも。あるいはイタリアのように「成熟した女性こそが美しい」とされる美観が強いとか。……その割にフィアット500があるのは不思議だけど。(全員笑)
いずれにしろ、インドなどの途上国は上昇志向が強いから、「かわいい」よりも「カッコいい」「豪華」なほうへ嗜好(しこう)が向かうのは自然でしょう。日本以外の先進国も、キャラクターグッズレベルならともかく、クルマや家みたいな高価で大きい商品を、かわいいデザインにすることへの抵抗は、まだ根強いと思います。
ほった:日本が特殊なんですね。
清水:日本人は昔から、幼いもの、かわいらしいものが大好きなんだよ。欧米では子供は厳しくしつけるのが当たり前だけど、日本は古代から、子供に甘くて、のびのびワガママに育てるのが伝統だし。
ほった:「かわいい」というのが最上のほめ言葉なのも、この国特有ですよね。
清水:若い女性はなんでも「かわいい!」だもんね(笑)。「美しい!」なんて言葉、まず使わない。
足し算のカーデザイン開発から脱却せよ
清水:でも最近の様子を見ていると、海外のかわいいクルマに対する壁も、いつかは崩れる気はするよ。
ほった:今でも少しずつヒビが入っている気はしますしね。欧州で「スズキ・ジムニー」がもてはやされたのは性能だけが理由じゃない気もするし、強さが命のアメリカですら、「日産フィガロ」を見かけたことがあります。後生大事に「ナッシュ・メトロポリタン」をめでている人たちなんかも、実は“かわいい価値観”をひそかに持っている気がします。
これから、日本がその「かわいい」をIPとしてグローバルに売り出し、天下を取るためには(笑)、欧米人をどう洗脳……じゃなくて、彼らの固定観念を壊すかですね。
渕野:クルマの開発現場では、どうしても競合車を並べて「ここが負けている!」と足し算で物事を考えていくので、デザインもどんどん押しが強く、顔が怖くなっていくんです。この思考を変えるのはなかなか難しいですよ。
ほった:でも、「メルセデス・ベンツGクラス」だって、今はちょっとかわいい路線に舵を切ったじゃないですか。
渕野:Gクラス、かわいいかなあ?(笑)
清水:あれは単にレトロで丸目ってだけでしょ! ジムニーもそうだけど。
ほった:ツール的本物感から、アイコン的なわかりやすさに振ってきたのは間違いないと思いますよ。とにかくですね、もういい加減、オラオラ顔で前のクルマを脅かして走るようなデザインには飽きたんですよ(嘆息)。
渕野:次の「トヨタ・ノア」あたりがかわいい顔路線で出てきたら、すごくいいなと期待しちゃいますね。ノアや「ヴォクシー」のフロントマスクは、もういき着くところまでいっちゃってて、顔の8割がグリルみたいな状態ですから(笑)。そこからのブレイクスルーを期待したいです。
清水:大変身に期待ですね! トヨタならやってくれるかも!
ほった:ヴォクシーは安パイとして、怖い路線でそのまま置いときゃいいですしね。
清水:トヨタならなんでもできる(笑)!
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=スズキ、ステランティス、ダイハツ工業、トヨタ自動車、日産自動車、ポルシェ、三菱自動車、メルセデス・ベンツ、ルノー、郡大二郎、newspress、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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