BMW535iグランツーリスモ(FR/8AT)【試乗速報】
ずっと、長く走っていたい 2010.02.09 試乗記 BMW535iグランツーリスモ(FR/8AT)……954.3万円
BMWのブランニューモデル「5シリーズグランツーリスモ」。名のとおり「グランドツーリング」を意識した、このクルマの居住空間、走りはいかに?
セダンとの違いは明らか
正直言ってわかりやすいクルマではない。目を見張るほどスタイリッシュとは言えないし、カテゴライズも難しい。広告などを見ると単に「BMWグランツーリスモ」とだけ紹介されているこのクルマは、しかし実際に付き合ってみると、これがなかなか味のある存在のようだ。
それにしても不思議な格好である。スリーサイズは全長5000mm×全幅1900mm×全高1565mm。ホイールベースは7シリーズの標準ボディと同じ3070mmだが、全長はより短く、背が高く、しかもテールゲートを備えている。最近ヨーロッパではテールゲート付きの4ドアクーペが増えているが、このクルマのパッケージングは、地上高を抑えたSUVととらえるほうが適当なように思える。
サッシュレスのドアを開けて前席へ。乗り込みがしやすいのはセダンより高めのヒップポイントのおかげだ。シートポジションも低めではどうもしっくりこない。色々試していくうちに、落ち着いたのは比較的高めの設定だった。ステアリングホイールの位置が高く、やや上向きの角度がついているからである。
これは偶然ではなく、BMWのそう座らせたいという意思によるものだろう。たしかに視界は全方位に良好だし、周囲のクルマよりわずかに高い目線が嬉しい。SUVほど極端ではなく、また周囲に対して威圧的でもなく、しかしセダンとは明らかに違った開放感、あるいは一種の優越感が味わえるのだ。
エンジンもブランニュー
後席はさらに居心地が良い。足元の余裕は、7シリーズ並みの前後長があるだけに当然。着座位置は前席よりさらに高いから、視界にも閉塞感は皆無だ。特に大面積のガラスルーフを装着した時の室内の明るさは、とても贅沢。BMWでは珍しいことに、特等席はこちらかもしれないとすら思わせる。
しかもラゲッジスペースは広大。通常時には440リッター、最大で実に1700リッターもの荷物を飲み込む。その上、後席はシートバックが3分割式可倒式で前後スライドも可能だから、たとえば4人乗り+長尺物の積載も可能など、使い勝手の幅も広そうなのだ。
使い勝手といえば、テールゲートが全体的に大きく開くことも、トランク部分だけ小さく開くこともできるのは特徴的である。大きな荷物を積み込む時にはSUV的にも使えるし、普段は手軽に荷物を放り込める。大きなテールゲートを開くよりフォーマルな雰囲気は、ホテルの車寄せなどでもスマートな印象を強めるだろう。
535iと550iの2グレードのうち今回試乗したのは前者。その直列6気筒3リッター直噴ターボユニットは、これまで335iなどに使われてきたツインターボではなく、シングルターボ化されるとともにバルブトロニックが組み合わされた新しいもので、出力数値は変わらないがトルクバンドが若干広がっている。
発進直後のほんの一瞬には、2020kgにも達する車重を意識させられるものの、1000rpm台後半あたりから力がみなぎりはじめ、トップエンドまで一直線に吹け上がる。小刻みにシフトアップを繰り返す8段ATとのマッチングは上々で、加速は軽快だ。
残念なのは、5000rpm台後半あたりからBMWのストレート6らしからぬバイブレーションが感じられることである。回転上昇の勢いが衰えるわけではないが、回すのをちょっとためらう。高効率化と引き換えだとしたら拒絶はできないが、寂しい気がしたのは事実である。
クルマで生活が楽しくなる
後輪操舵を盛り込んだインテグレーテッド・アクティブステアリングのおかげでフットワークは車体の大きさを意識させず、それでいて速度を上げていけば際立った安定感を示すようになる。ただし、ステアリングフィールは特に中立付近に甘さがあり、また後輪操舵特有の違和感も無くはないから、走りの一体感という意味での不満は拭えなかった。
印象的だったのは快適性の高さだ。乗り心地は落ち着いていてしなやかだが、かといって重厚過ぎることなく上々。後席はそれなりに硬めではあるが、静粛性が高く、高速走行中でも前席と後席が普通の声量で会話できるため、ずっといい気分でいることができた。
着座位置の高い前席でアップライトな姿勢をとり、周囲の景色に目をやっていると、不思議と飛ばそうという気が薄れてくる。快適だろう助手席や、ゆったり寛げる後席の家族や仲間と語らいながら、ずっと、長く走っていたい気分になる。そう考えれば荷物をたっぷり飲み込むラゲッジスペースも重宝するだろう。
だったらSUVでもいいじゃないかって? いやいや、あの快適さは欲しいけれど、外に対して威圧的なのはどうも……。
そうなのだ。こんな具合にクルマ単体ではなく、クルマのある生活全体を楽しませてくれそうなのが、このBMWグランツーリスモである。たしかに、外見で誰をも強烈に引きつける存在だとは言い難い。けれど実際に見て乗って付き合ってみると、これこそ欲しかったクルマだという人、案外多くいるのではないだろうか?
(文=島下泰久/写真=高橋信宏)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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