スバル・インプレッサR205(4WD/6MT)【試乗速報】
未完の大器 2010.01.18 試乗記 スバル・インプレッサR205(4WD/6MT)……494万5500円
スバルのモータースポーツ部門STIが仕立て直した特別なインプレッサ、「R205」。400台限りのコンプリートカーの走りを、クローズドコースで試した。
400人の“わかるひと”に
素人に対して玄人と言う言葉がある。プロフェッショナルという言葉に近いが、専門職とは少し違う。いわゆるマニアとかオタクとはまったく違う。「R205」とはそんな玄人をターゲットにしたクルマだ。
例えばハンドルを左右にちょっと切ってみる。クルマは微妙に向きを変える。これで普通に動くと思えば素人で、中間に不感帯やガタがあることがわかれば玄人。専門職の人はそれをわかったうえで、操作に手心を加えればいい。
メーカー担当者は、それが剛性に起因するものなのか、精度に関係しているものなのかを分析して対策する。製造誤差範囲内と判断すれば普通のクルマはラインをパスする。この辺の基準をおおらかにするとコストは安くなる。さらに、大雑把に造られたものの、公差範囲を詰めたものが欲しいユーザーのために、スバルテクニカインターナショナル(STI)のような会社が存在する。そのなかでも、「インプレッサR205」は400台の限定という、特別なチューンを受け、磨かれたモデルだ。
富士重工の伝統を造りあげた人物の一人に小関典幸という人がいた(亡くなられたそうでご冥福をお祈りします)。その「親分」の意思をついだのが辰己英治で、いまやSTIの顔でもあるが、この人、親分より現象を見極める分析力がある。標準車より100万円も高いとは言っても、出来ることには限りがある。それを有効に使うべく辰己氏はいくつか手を打った。「エクシーガ tuned by STI」でやった、リアサスのメンバーに追加したピロボール支持に加えて、今度のR205では、フロントに「フレキシブルドロースティフナー」なるものを加えた。
これは何かというと、冒頭に記したいわゆるヒステリシスを詰めるための手法だ。ヒステリシスとは力の方向が変わる時に生じる中間の不感帯のようなもので、剛性とはそのヒステリシスを除いた部分の力に対する変形度合いを言う。
近年の衝突安全に対する基準は、ボディ剛性アップに大きく貢献した。だから、一昔前とは違って、剛性はベースモデルでも一応確保されている。それでもはっきり言って、欧州車と日本車の違いのうちで、一番大きいのがこのヒステリシスの部分なのだ。乗り心地にしても操縦安定性にしても、日本車はこのブカブカした余計な動きが大きく、ヨー、ロール、ピッチに関係するXYZ3軸全ての方向について言える。フレキシブルドロースティフナーはこのうちのヨー方向、即ち水平方向の動きに関して効果がある。フロントのメンバーをスプリングで引っ張り、この部分の不感帯をあらかじめ詰めて、剛性の立ち上がりをよくしておくというわけだ。
スッキリとした身のこなし
さて前置きが長くなってしまったが、伊豆サイクルスポーツセンターのクローズドコースで短時間ながら行われた、試乗の感想に入ろう。
今回のコンプリートカーは、従来使われていた「S」のイニシャルと区別されて、「R」が用いられている。Rは「ロード」のことでレースを意味するものではないが、一般道で気持ち良く走らせるためには快適性との妥協も必要だ。逆に、全方位的に装備が充実していた「S」と異なり、遮音材より軽量化を選んだ部分もある。が、排気音などに関しては外で聞くより車内の方がやかましく感じない程度の音質に整えられている。例えば低回転からの立ち上がりなど、負荷が大きいところではそれなりに大きい音に聞こえるが、7000-8000rpmとトップエンドを維持するような場合には、決して嫌な音ではないし、無理強いされるような感覚はない。専用のエキゾーストパイプとスポーツマフラーがおごられているとはいえ、もちろん法基準は遵守されている。
動きだして最初に感じるのは、前述のヒステリシスが少ないことで、スッキリした身のこなしが鮮やかだ。標準車もこの程度になればいいと思う。加速減速、そしてロール感、フラット感など、全体の姿勢変化が少なく、動きにイナーシャが残らない点が気持ちいい。もちろんSTIが用意したブレンボ製のブレーキシステムや、スプリング/ダンパーなど、基本的な特性はチューンナップされている。
こうした手応えは「R205」という特別のクルマでなくとも、フツウのロードユースでも歓迎される。少しでもクルマの何たるかに興味を持ち始めた人は、標準車では飽き足らずチューニングの領域に足を踏み入れる。だが、個人のレベルで満足を得ることはなかなか難しいし、資金もそれなりに必要になる。それよりは、こうした「R205」のようなクルマを最初から求めた方が、むしろ安上がりではある。
素材としても面白い
しかし、あえて言わせてもらえば、これで“アガリ”なわけではない。ここまで攻めれば、さらにその上を望みたくのも人情。この日は、赤、白、青と3台のクルマに試乗をし、みなそれぞれに個体差のようなものもあったが、共通して言えることは、インプレッサは標準の段階でやっておくべきことはまだまだ多いということある。
たとえば? もうATがシェアの大半を占める状況なのだから、MTのギア比は最初からもっとクロースしたものにしても問題はないはずで、とくに1速から4速までは接近したものが欲しい。「R205」のようなクルマは、サーキットのスポーツ走行だけでなく一般道で100km/h以下の速度でも楽しめる。それには、1速に落とすには速度が出過ぎるし、もっと2速でパンチが欲しいような状況ではギア比に頼るほかない。
またパワートレイン系のマウント部分は柔らか過ぎるので、シフトの度に動かないようにするとか、クラッチミートももっと短く繋げるとか、シフト操作のフィーリングも、もっとクイックで節度が欲しいとか、ステアリングもさらにレシオを詰めたいとか……。
これで不満がないわけでもない。だからこそ、買ったらそのまま乗るのではなく、もっともっと自分の好みに合った方向にチューニングしていきたい衝動に駆られる。お仕着せのブランドもので我慢するのではなく、自分のドライビングの好みを進化させていく――そういう意味でも、この「インプレッサR205」というクルマは、オモシロイ素材になりうると言える。
(文=笹目二朗/写真=高橋信宏)

笹目 二朗
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