ボルボV70ノルディック(FF/6AT)【試乗記】
“安全性”の意味 2010.01.14 試乗記 ボルボV70ノルディック(FF/6AT)……474.0万円
「ボルボV70」に450万円を切る新しいエントリーグレード「ノルディック」が追加された。リポーターは、ある出来事によって、装備だけじゃないボルボの安全性を体感することができたという。
安全性そのままにプライスダウン
先日試乗記をお届けした「プジョー207」とは少し内容が違うけれど、ボルボを代表するワゴン「V70」も、昨今の経済状況を前にプライスダウンを実施した。
2010年モデルへの切り替えに際し、これまでのエントリーグレード「2.5T LE」(499万円)と同じ2.5リッター直列5気筒ターボエンジンを積みながら、50万円も安い449万円のグレードを「ノルディック」の名前で追加したのである。
逆に3.2リッター直列6気筒自然吸気エンジンを積む中間グレード「3.2SE(FF/4WD)」は消滅し、ノルディックとLE以外は3リッター6気筒ツインターボ4WDのトップグレード「T-6TE AWD」(699万円)だけになった。3ドアMT車をカタログから落とした207に負けず劣らず、割り切ったラインナップである。
「ノルディック」はベーシックモデルといっても、ボルボのアイデンティティである安全性は他のグレードと同じだし、キセノンヘッドランプや運転席パワーシートが標準でつき、HDDカーナビも取り付け工賃のみユーザー負担という形で無償提供されるなど、装備は充実している。
全長×全幅×全高=4825×1890×1545mmというボディサイズは、ドイツのプレミアムブランドでは「メルセデス・ベンツEクラス」や「BMW5シリーズ」「アウディA6」に匹敵する。それが200万円以上安い価格で手に入るのだからお買い得だ。
ただし個人的に、V70の2.5リッターターボは体験ずみ。だから多大な期待を抱かずに試乗に臨もうとしていたのだが、直前に起こったある出来事によって、「V70ノルディック」は一生思い出に残るクルマになってしまった。
極上の運転席
取材の2日前に、ぎっくり腰になってしまったのだ。直後は身動きすらとれず、キャンセルを申し出ようかとも考えたけれど、翌日には歩いたり座ったりできるようになったので、意を決してV70の運転席に乗り込んだ。
着座位置は一般的なセダンやワゴンの高さなので、ミニバンに比べれば乗り降りはつらい。でも一度姿勢が決まってしまえば、ふっかりした座面と張りのある背もたれからなる前席は、やさしい着座感をもたらしつつ上体をきちっと支えてくれて、極上の場所に思えた。
それよりもなによりも、やさしい乗り心地がありがたい。205/60R16という、車格を考えればおとなしいタイヤというのもあって、路面からの入力をやわらげ、丸めて送り届けてくる。
ショックを完全に吸収するわけではないので、フラットという表現は当てはまらないのだが、小さな段差から大きなうねりまで、すべてを鷹揚な揺れに変換してしまうので、リラックスして距離を刻むことができた。
ファジーというわけではない。高速道路ではびしっと直進を続け、ステアリングの切れ味に遊びはなく、1750kgのボディは素直に向きを変えていく。なのにクルージングでは徹底しておだやかなのだから、ダンパーやブッシュのチューニングがすばらしい証拠だろう。
そんな走りのリズムに、熟成が進んだ2.5リッター5気筒ターボの加速は、とても似合っていた。
            
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どんな走りでもおだやか
このエンジン、2010年モデルで改良の手が入っており、最高出力は200ps/4800rpmから231ps/4800rpm、最大トルクは30.6kgm/1500-4500rpmから34.7kgm/1700-4800rpmにアップしながら、10・15モード燃費はリッター8.6kmから9.5kmへと向上している。でも効率を突き詰めた結果、せわしない性格になっていないところがボルボらしい。
            
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以前よりもターボの立ち上がりに少しだけメリハリがつき、トルコンのつながりがややタイトになった雰囲気はする。それでもエンジンやATのレスポンスはドイツ車よりおだやかで、特徴的な5気筒サウンドは抑え込まれているから、加速の角が丸く感じる。
しかもターボはじんわり踏めば2000rpm以下から効く。感覚的には全域過給だ。トルクは自然吸気3.5リッター級だから、キックダウンを使うシーンは少ないし、仮に仕掛けても無粋なショックは発生せず、ふわっと加速に移っていく。どんな走りをしても、おだやかな空気を乱すことはない。
            
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おかげで1ヵ月を経た現在、ぎっくり腰はほぼ完治したけれど、V70ノルディックの評価は高いままだ。いまは健康でも、いつ病に冒されるかわからない。自分だけじゃなく、助手席や後席に座る家族も同じだ。クルマはときに、そんな人々を運ばなければならない。大きめの車体を許容できれば、という条件つきではあるが、有事のことを考えるほど、理想の1台に感じられる。
ボルボが提唱する「安全性」には、そんな意味も込められているのだろう。449万円という価格が、日を追うごとに価値ある数字に思える昨今である。
(文=森口将之/写真=高橋信宏)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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