アウディA5スポーツバック 2.0TFSIクワトロ(4WD/7AT)【試乗速報】
カルトな魅力 2010.01.13 試乗記 アウディA5スポーツバック 2.0TFSIクワトロ(4WD/7AT)……691.0万円
「アウディA5」シリーズに新たなボディバリエーションが追加。クーペ、カブリオレに続くは、5ドアクーペだ。さっそくその走りを試した。
2010年、期待の星
アウディジャパンの昨2009年の登録台数実績が発表された。日本国内で昨年登録されたアウディ(の正規輸入モデル)は1万6171台。100年に1度の経済危機と騒がれる世の中にあって、台数にしてわずか124台(率にして1%)ではあるものの、なんと前年比プラス(!)で、しかも歴代2位の好成績だったという。実質的に国産車限定のエコカー減税と無縁だった輸入車が軒並み数字を大きく落とすなかで、とにもかくにも「プラス」とはたいしたものだ。
もっとも、欧米でのアウディはすでに、市場規模でもBMWやメルセデスと完全に肩をならべる存在だ。そう考えると、BMWが約4万台(ミニを含む)、メルセデスが約3万台(スマートを含む)売り上げる日本でのアウディは、世界的に見ればまだまだ物足りない。少しは景気回復も期待できる今年は、アウディも当然ながらさらなる右肩上がりを期しているはず。そんなアウディの、2010年において大きな役割を果たしそうなのが、この「A5スポーツバック」である(まあ、コンパクトな「A1」が年内上陸するとさらに大きな戦力になりそうだが)。
昨年秋に欧州販売がスタートしているA5スポーツバックだから、そのスタイルや基本内容はすでにご存じの方も多いだろう。その名のとおりベースとなったのは「A5クーペ」で、もっといえば基本設計は「A4」ファミリーの一員といっていい。フロントセクションは低く構えたA5ゆずりのスタイルで、サイドフェンダーにまでアルミパネルを採用するのもA5クーペと同様だ。全幅やトレッドもA5に準じるワイドタイプで、全高もクーペより15mm高いだけなので、初対面した第一印象は、なるほどA4よりA5に近い。4枚あるドアもサッシュレスだ。対して、A5クーペより60mm長くなったホイールベースはA4と共通で、4710mmという全長もほぼA4と同じである。
つまり、A5スポーツバックはA4ファミリーのなかでは低くワイドであるうえに、全長も長い。さらにリアのハッチゲート構造もあってA5スポーツバックの重量はどうしても重くなり、同じ2.0TFSIエンジン搭載モデルで比較すると、その車両重量はA5クーペより70kg重く、A4セダン比でも30kg重い。
インチダウンを望みたい
今回の試乗時間は撮影込みで90分。試乗に供されたA5スポーツバックは、アウディダイナミックステアリング(可変レシオステアリング)やアダプティブショックアブソーバーコントロール(リアルタイム可変ダンパー)を備える「アウディドライブセレクト」とエアロパーツをはじめとしたスポーティ装備をセットした「S-lineパッケージ」、そして「電動チルトパノラマサンルーフ」といった大物オプションをフル装備していた。ちなみにA5スポーツバックではクーペと同じく、A4クワトロより1インチ大きい40扁平の18インチホイールが標準装備となる。
A5クーペやA4セダン/アバントをすでに体験した身にとっては、このオプションてんこ盛りのA5スポーツバックは、良くも悪くも予想どおりの味わいである。低くタイトにまとめられたドラポジと標準装備の本革スポーツシートによって、そのドライビング環境は確かに高級スポーツクーペと呼ぶにふさわしい雰囲気を醸している。もちろん2.0TFSIはそのスペックから想像する以上に低速からパンチ力に富んでいるし、ツインクラッチの変速はじつに小気味よく、1時間も乗れば右足の加減ひとつで希望のギアを選べるようになるDレンジの制御も秀逸。そして、センターデフを持つ真正フルタイム4WDの安心感は絶大である。
ただし、いかに可変ダンパーをもってしても40扁平の18インチタイヤを完全に履きこなしているとは言いがたいのも、既存のA5クーペやA4シリーズと大きく変わりない。目地段差などの突き上げはうまく吸収しているが、サスやステアリング、ATまで統合制御するアウディドライブセレクトでどのモードを選んでも、総じてダンピングに対してタイヤが先走ってしまう違和感は、この低重心+ロングホイールベースのA5スポーツバックでも完全には払拭できていない。
まあ、アウディのクワトロは長く乗るほど印象が好転するタイプだから短時間の試乗で断じるのも気が引けるが、見た目より乗り味重視のユーザー向けに、やはり17インチタイヤを用意してほしい……という私の気持ちは変わらなかった。
初代「アバント」の再来?
このA5スポーツバックにかぎらず、「BMW5シリーズGT」や「フォルクスワーゲン・パサートCC」など「変わり種4ドア/5ドア」が増殖しつつあるのは、間違いなく「メルセデス・ベンツCLS」の世界的成功がキッカケである。伝統的な4ドアセダンになんとなく物足りなさや古臭さを感じつつも、かといって背高のSUVにはいかず「他になんかないの?」という潜在意識を抱く「ポストセダン層」が確実に存在することが、CLSによって証明されたわけだ。
A5クーペ、A4セダン/アバント……と来て、ここでA5スポーツバックという新種を投入するアウディはつくづく商売上手だ。A5クーペの圧倒的なカッコよさに感銘を受けつつも、2ドアであることで二の足を踏んでいる向きは、アウディジャパンによれば日本にも少なくないという。それに続いたA4も、そして広義には同じくA4ファミリーといえる「Q5」も、そのデキは期待どおりといっていい。しかし、A5のスタイルに惚れてしまった(が実際には購入に踏み切れていない)方々のすべてをA4やQ5で取りこむことは不可能だろう。そこでA5スポーツバックである。まさにとどめの一発……というべきタイミング。
A5スポーツバックは実用性も高い。リアシートの居住性は確かにA4よりタイトで閉塞感はあるが、レッグルームはA4と同等であり、身長178cmで胴長体型の私でも、わずかに腰を前に出したリラックス姿勢ならヘッドクリアランスもなんとか確保される。荷室容量も4名乗車通常状態でA4アバントにわずか10リッター欠けるだけだそうだし、いざとなればリアシートを倒して一件落着。ほうら、もはやアウディを買わない理由はひとつもない。
A5スポーツバックを見て、ふと思ったのは「初代アウディアバントってこんなクルマじゃなかったか?」ということだ。1977年にデビューした初代100アバントのリアゲートも、まるでファストバッククーペのように強烈に傾斜していた。当時のアバントは決してステーションワゴンではなかったのだ。しかし、世代を重ねるごとにアバントはどんどんワゴン化し、同時に他社のワゴンはどんどんアバント風のスポーティワゴン路線を強めてきた。現在のアバントは、良くも悪くもステーションワゴンの王道モデルのひとつである。
好事家の心をくすぐるカルトな魅力……かつてのアウディはそういうクルマだった。A5スポーツバックと初代100アバントを重ね合わせて、思わずニヤリとしてしまうのは私だけだろうか。その意味ではA5スポーツバックはいかにもアウディである。まあ、今のアウディはカルトとは正反対の超メジャープレーヤーだけど。
(文=佐野弘宗/写真=本池邦雄)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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