プジョー207プレミアム(FF/4AT)【試乗記】
小さくて深い 2010.01.12 試乗記 プジョー207プレミアム(FF/4AT)……219万円
「今さら?」とあまり期待しないで乗った「プジョー207プレミアム」に、リポーターは感銘を受けたという。そのわけは?
白いゴハンがおいしい食堂
2009年10月にマイナーチェンジを受けて少し大人っぽい顔つきになった「プジョー207プレミアム」のステアリングホイールを握りながら、クルマって奥が深いとつくづく思う。1.6リッターの直列4気筒エンジンは「BMWと共同開発」という謳い文句こそ派手だけれど、出力はジミに120ps。トランスミッションは4段ATだから、はっきりと古い。しかしですね、「プジョー207プレミアム」はクルマはスペックじゃ評価できないというあたりまえのことを教えてくれた。
何がいいって、まず乗り心地がいい。10〜30km/h程度の低速でこそゴロゴロするけれど、そこから上はいたって快適。サスペンションが一所懸命に伸びたり縮んだりして、路面の凸凹をなかったことにしてくれる。ただソフトなだけでなく“抑え”も効いていて、たとえば段差を乗り越えた後のボディの上下動はビシッと一発で収まる。掛け心地のいいシートのおかげもあって、コンパクトカーでありながら長距離移動は得意科目だ。
最初は乗り心地のよさに心を奪われるけれど、1時間も乗っているとキモチよくドライブできるほかの理由も見えてくる。それは、ステアリングホイールの手応えのよさだ。重すぎず、軽すぎず、路面からの情報を的確に伝えてくれる。こう書くとあたりまえのことに聞こえるかもしれない。けれども白いゴハンがおいしい食堂と同じで、あたりまえのところに作り手の良心や腕が表れるんじゃないか。
うるさいけれど、ココロはときめく
いまやコンパクトカーにもツインクラッチ式トランスミッションの波が押し寄せつつあり、各社のCVTもぐいぐい進化している。だから旧式の4段ATと最新の1.6リッター直4エンジンを組み合わせるパワートレーンにはあまり期待していなかった。でも、フツーに乗るぶんには何の不満も感じなかった。変速が遅くてイライラすることもなければ、変速時のショックにがっかりすることもない。
コーナー手前ですぱっとシフトダウン、という芸当こそできないものの、変速マナーに関してはかなり洗練されているのだ。気になるのはギア比。4速での100km/h巡航でタコメーターの針が2850〜2900rpmのあたりをウロウロしているのだ。最近のクルマにしてはかなりエンジン回転が高いので、車内は決して静かではない。短時間の試乗だったので正確な燃費は計測できなかったものの、高速燃費の伸びもあまり期待できないだろう。
また、110km/hあたりで排気音が車内にこもることも記しておきたい。「ボーボー」という気に障る音なのでどうしてもこの領域を外して走りたくなるけれど、スピードを上げようとするとエンジン回転が上がってノイズも高まる。
一方スピードを下げると遅いトラックの群れにつかまるというジレンマに陥る。何度も5速がほしいと思ったけれど、パワートレーンの不満点はこれぐらい。アクセルペダルの操作に対するレスポンスは敏感だし、シャープに回転を上げる感覚もスポーティ。単に実用面で優れたエンジンというだけでなく、クルマ好きのココロをときめかせるサムシングを備えている。
万人向けではないけれど
ステージを空いたカントリーロードに移しても、「プジョー207プレミアム」は魅力的だ。ステアリング操作に素直にノーズが反応するハンドリングのよさ、路面の悪い箇所を突破してもへこたれないサスペンション、そしてかっちりとしたフィーリングを伝えるブレーキ。どこを探しても最新技術や新素材は見あたらないけれど、いたるところにクルマを操る楽しさを見つけることができる。
ネーミングに「プレミアム」とあるけれど、インテリアは素朴で豪華さのかけらもない。それでもクルマの“芯”みたいな部分がしっかり作られていることは乗れば乗るほど伝わってくる。作り手が、コンパクトカーとコンパクトカーに乗る人をバカにしていない。一日の試乗を終える頃には、慣れ親しんだ毛布のようにすっかり体になじんでしまった。
ついつい新型車や最新技術に目がいってしまうけれど、デビューして約4年の「プジョー207プレミアム」はしっかりと煮詰められていた。なりは小さいけれど、懐が深い。個人的にコンパクトカーに大事だと思っている生き生きとしたムードもある。
高速巡航ではちょいうるさいし、後席の頭上空間ももう少しあれば……、等々、だれにでも薦めるかと言えば少し考える。けれど、運転が好きな人の中にはこのテイストにはまる人も少なからずいるはず。「フォルクスワーゲン・ポロ」の試乗に行く前に、一度「プジョー207」を試してみてはいかがでしょう。
(文=サトータケシ/写真=郡大二郎)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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