トヨタ・マークX プレミアム“Lパッケージ”(FR/6AT)【試乗記】
セダン上等 2009.12.18 試乗記 トヨタ・マークX プレミアム“Lパッケージ”(FR/6AT)……431万4500円
燃費のいいハイブリッド車でも、いろいろ便利なミニバンでもない、そんな“セダン”の魅力とは?
不良中年のたたずまい
いろんなところで言われているように、現代のセダンにはカッコよさと楽しさが必要だ。冷静に考えれば、人や荷物がたくさん積める便利なミニバンや燃費のいいハイブリッド車など、選択肢はほかにたくさんあるわけです。だからセダンには、「うわーっ、カッコいい!!」とか「すっごい楽しい!!」とか、人をコーフンさせる“性能”が必要だ。では、10月にフルモデルチェンジを受けて2代目となった「トヨタ・マークX」に、人を昂揚させる力があるのか。3.5リッターのV型6気筒エンジンを積む最もラクシュリーなグレード「プレミアム“Lパッケージ”」で確かめてみました。
まずは正面から眺めて、素直にカッコいいと思う。従来型よりトレッドを20mm広げた効果は走行性能だけでなくスタイリングにも現れていて、ロー&ワイドな雰囲気はいかにも走りそう。シャープな造形のヘッドランプ等、フロントマスクにはちょっと“ワル”入っていて、不良中年っぽいたたずまい。
じゃあ全面的にカッコいいかというとちょっと違って、リアビューは割と平凡だ。というか、アコードに似てると思うのは自分だけでしょうか。そういえば先代マークXの後ろ姿は、フランク・ロイド・ライトの落水荘にインスパイアされたという「BMW7シリーズ」のリアビューを思わせた。個人的に、マークXのリアビューにはいつもひっかかる。いつもといっても、まだ2代目ですが。
インテリアは落ち着いていて、安心できるもの。クオリティも高く、“上等”という単語が頭に浮かぶ。けれども、このインテリアを眺める思いは複雑だ。というのも、無駄なものを削ぎ落として“勝負”をかけた先代のモードなインテリアがユーザーからはイマイチ不評で、トラッド方向に戻したという経緯があるからだ。インテリアデザイナーの方には葛藤があったのではないかと推測する。というわけで、顔・お尻・内装のデザインについては1勝1敗1引き分けというところ。
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FRのセダンっていいなぁ
3.5リッターV6エンジンは、先代の3リッターから“格上げ”されたもの。318psのパワーが十分であるだけでなく、楽しさも味わわせてくれる好エンジンだ。たくさん“具”が詰まっているかのようなみっちりした回転フィールは、スポーティでありながらリッチな感触も伝えるし、3500rpm以上では音量は控え目ながら「クォーン」という澄んだ音が耳を楽しませてくれる。
6ATとの連携もバッチリで、特にシフトセレクターを操作しなくてもアクセルペダルの踏み加減だけでシフトアップとシフトダウンをコントロールできる。街なかではお上品な高級エンジン、山道ではちょっとスポーティなエンジンと、守備範囲が広い。
飛ばせば飛ばすほど骨っぽい手応えを伝えてくる足まわりは、かなり思い切ったセッティングだと思った。まず、ステアリングホイールの手応えががっしりしている。実際に操作してみてもあやふやなところがなく、正確なことに好感を持つ。コーナー入り口で、ステアリングホイールを回す量がビシッと決まる感覚は痛快だ。
さすがに一番ラクシュリーなグレードだけあって乗り心地は快適だし、安定感も大したもの、静粛性も抜群だ。だけれど、何より心に残ったのはコーナリングの楽しさだ。前輪に駆動力が伝わらないことから得られる透き通ったステアリングフィール、素直なターンインと出口で後ろからグッと押し出してくれる脱出感覚。不安を感じない程度のしなやかなロールを伴いながらコーナーの連続をクリアしていると、FRのセダンっていいなぁ、という独り言が口をつく。そしてここでもやはり、“上等”という単語が頭に浮かぶ。この“上等”な感覚は、ミニバンでもFFハッチでも経験できない。
いいクルマであることは間違いない
気になったのは、路面の悪いところを突破する時にフロアから伝わる微振動。常に感じるというわけではないのだけれど、たまに出現するその「ブルブル」が少しクルマの印象を安っぽくする。これ以外、シャシーは気持ちよく仕上がっているだけに残念。ここだけ“上等”じゃない。
以前に、新型マークXの開発まとめ役を務めたトヨタ自動車の友原孝之チーフエンジニアにお話しを伺ったことがある。友原さんによると、2004年に「マークII」から「マークX」へ移行したことで、これまでディーラーに来てくれなかった輸入車志向のお客さんが来店するようになったのだという。
ところが、残念ながらなかなかハンコを押してもらうことはできなかった。その理由は、「ステアリングホイールの手応えが曖昧だから」というのが多かったそうだ。「新型マークXではそのあたりに自信が持てるので、輸入車ユーザーにもぜひ試乗してほしい」と友原さんは語っていたけれど、マークXのハンドリングはその言葉が納得できる、レベルの高いものだ。
冒頭にミニバンやハイブリッド車とは違う魅力が必要だと書いたけれど、輸入セダンとも戦わなければいけないのだ。舶来品まで視野に入れるとなると、もうちょっと突出した魅力が必要かもしれない。
たとえばV6エンジンも好エンジンであることは間違いないのだが、やや八方美人的だと言える。ちょっと低速トルクが細いけどスイートスポットにはまると頭が真っ白になるとか、この快音だけですべてを許せるとか、そこまで突出した魅力はない。スタイリングに関しても同じで、フロントマスクと同レベルの個性やアクの強さがリアビューやインテリアにもほしいところ。
てなことを思いながら、試乗車の価格を見て考える。安いとは言えないけれど、ミリ波レーダー式のプリクラッシュセーフティシステムやニーエアバッグ、前後席カーテンエアバッグ、さらには前席アクティブヘッドレストなど、最先端の安全装備が標準で備わる中身からすれば、十分にリーズナブルだと言うことはできる。もしかすると、お値打ち価格ということもマークXの大きな武器なのかもしれない。でも、お買い得が売り物のプレミアムセダンというのもビュッフェ形式の高級レストランみたいで、いかがなものか。ともあれ、いいクルマというだけじゃなかなか認められない現代のセダン作りは、大変だと思いました。
(文=サトータケシ/写真=郡大二郎)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。