レクサスLS460 version SZ(FR/8AT)【試乗記】
走りとおもてなしは両立するか? 2009.12.15 試乗記 レクサスLS460 version SZ(FR/8AT)……1066万2750円
予想よりも輸入車からの乗り換えが少ないのが国内でのレクサスLSシリーズの悩み。そこで選択肢の幅を広げるために、“走り仕様”を追加した。
「へー」から「ほー」へ
レクサスLSのマイナーチェンジにあたって“走り仕様”が追加されると聞いて、「へー」と思った。正確に書くと「へー」の中には少し「えー!?」も混じっている。だってLSといったら、レクサスブランドのフラッグシップ、つまり「キング・オブ・おもてなし」だ。そこにベンツの「AMG」やビーエムの「M」、あるいはアウディにおける「RS」みたいなラインが加わることは、なかなかすんなり飲み込めない。RSはちょっと気質が違うけれど、AMGやMはドライバーを挑発するクルマで、ある意味、「乗れるもんなら乗ってみぃ」と軽くケンカを売っている。そういう好戦的な姿勢って、「おもてなし」と矛盾しませんか?
てなことを思いながら、「レクサスLS460 version SZ」に乗り込む。乗り込んで「わっ」と驚くのは、スピードメーターのデカさ。半円のスピードメーターは、昔のタクシーぐらい面積が広い。しかも速度計は280km/hまで刻まれていて、ヤル気が伝わってくる。マジメな話、輸入車と比較するためにレクサス販売店を訪れた人の中には、スピードメーターが180km/hまでしかないのを見ただけで帰っちゃうケースもあるのだという。ということでメーターは280km/hまであるけれど、もちろんスピードリミッターは180km/hで作動する。
走り出してすぐ、ノーマル仕様に比べると路面からの情報がダイレクトに伝わることがわかる。言葉で表現すると「コツコツを感じる」となるけれど、だからといって乗り心地が悪いわけではない。クルマがギュッと固められたような硬質感は、少なくともステアリングホイールを握る立場としては好ましい。特別にチューンした電子制御エアサスとスタビライザー、それに新開発の減衰力可変式ショックアブソーバーを組み合わせた「version SZ」専用サスペンションは、なかなかうまいセッティングだ。ペースを上げるにつれ、「へー」という懐疑的な気持ちが、「ほー」という驚きに変わっていく。
「IS F」の経験を生かして
何に感心したといえば、まずブレーキに感心した。カチッとしたブレーキの踏み応え、そしてブレーキペダルを踏み込む力に応じてリニアに立ち上がる減速感など、ブレーキを踏むのが楽しくなる。減速が楽しいと思えるクルマは、かなり少ない。フロントブレーキにはブレンボと共同開発した6ポッドのキャリパーが奢られており、どうやらこいつがいい仕事をしているようだ。ちなみにノーマル仕様は4ポッド。以前に試乗会でお話しをうかがったチーフエンジニアの渡辺秀樹氏によれば、ブレーキ性能という面ではブレンボのノウハウを生かし、レクサス側は“泣き”や振動を抑える技術を提供したとのこと。ブレーキペダルを踏んでみても確かに両者の“いいとこ取り”をした印象で、いいコラボだったと思います。
低速コーナーから高速コーナーまで、身のこなしがすっきりしているのも好印象。特に「ノーマル」「スポーツ」「コンフォート」の3つのモードが用意される電子制御エアサスで「スポーツ」を選ぶとムダな上下動が減り、爽快感が一層強調される。このスッキリ感には、おそらく専用デザインのBBS製19インチ鍛造アルミホイールも貢献しているはずだ。1輪あたり3kgの軽量化を実現したのだという。また、前出の渡辺チーフエンジニアによればステアリングギア比を可変とするVGRSを少しいじり、ギア比にして数%、ハンドル回転にしてコンマ1回転ぐらい速めているそうだ。そのあたりも爽やかさにつながっているのだろう。
385psを発生する4.6リッターのV8エンジン自体には手が入っていないから速さは変わらない……、はずなのに速く走っているように感じるのは8段ATに専用セッティングが施されているからだろう。「レクサスIS F」のATに用いた技術を応用したとのことで、Dレンジで「パワーモード」を選択すると、シフトプログラムがガラッと切り替わってタコメーターの針が高い位置を保つようになる。
さらに「M」ポジションを選ぶと、シフトセレクターやパドルシフトの操作で各ギアを自在に往き来できるようになる。そう、「version SZ」にはLSとしては初めてのパドルシフトが備わるのだ。パドルシフトは右がシフトアップで左がダウン、パドル引いた時のカチッとしたクリック感が気持ちいい。そして、たとえばシフトダウン時の「バフン!!」という巧みなブリッピングなどに「レクサスIS F」の影響が感じられる。……と、いいことばかりのようですが、細かく見ると気になる点もいくつかある。
激辛ではなくピリ辛
たとえばマニュアルシフトをする時に非常に気になるのが、タコメーターがあり得ないぐらい小さいことだ。前述したようにスピードメーターは巨大で、タコメーターは隅に追いやられている。タコメーターが目立つ位置にくるというスポーティモデルの“文法”を外したのには、特別な理由があるのだろうか。V8の4.6リッターのトルクにはもちろん不満などないから、フツーに運転する分にはタコメーターなんか小さくても構わない。でも、 パドルまで備えてシフト操作でドライバーを昂揚させようとしているのだから、スポーティに演出してほしかった。それが“走り”を好むドライバーへのおもてなしでしょう。
それから、洗濯板状の路面をちょっとペースを上げて突破するような場面で、フロアが「ほにゃらら」と振動する感じも感心しない。ここはビシッと、悪路を成敗するぐらいの強さがほしい。ドイツ製プレミアムのお客さんはスピードメーターが何km/hまで刻まれているかも見ているだろうけれど、こういった場面での強さや信頼感もしっかり見ているはずだ。
といった細かいところに課題は残しつつも、レクサスならではの“スポーティサルーン観”みたいなものははっきりと伝わってきた。それは淡麗というか、乗り味をすっきり辛口な方向に持って行くことだと理解した。ドイツ製プレミアムが筋肉を付けてパフォーマンスを上げようとするのに対して、「レクサスLS version SZ」は要らない脂肪を削ぎ落とすことで目的を果たそうとしている印象。だれでもすぐに理解できる超ホットな激辛ではなく、じっくり味わってからじわーっと後味がくるピリ辛だ。なるほど、この種の辛さなら、たしかに“おもてなし”と両立する。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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