BMW X6 M (4WD/6AT)【試乗記】
プレミアムSUVの頂点 2009.12.02 試乗記 BMW X6 M (4WD/6AT)……1524万1000円
「BMW X6」に新しく追加された「Mモデル」。555psのド級パワーを誇る、ハイパフォーマンスSUVの走りを試す。
Mの存在感
ファンならずとも、BMWの“Mモデル”には何か特別な思いを抱いているに違いない。「M3」をはじめ、「M5」や「M6」、つい最近までは「Z4 M」もあったが、リアに輝くMのバッジがまぶしいったらありゃしない! これら、究極のBMWを手がけるのがBMW M社であることは、いまさらいうまでもないが、そんなBMW M社がMモデルのラインナップをSUVセグメントにも拡大、生まれてきたのが「X5 M」と今回試乗した「X6 M」の2台である。
そのどちらにも、“Mツインパワーターボエンジン”と呼ばれる専用チューンの4.4リッターV8ツインターボが搭載されることに加え、押し出しの強いエアロパーツや、専用デザインの20インチアルミホイールなどのおかげで、標準モデルをはるかに上回る存在感を漂わせているのが特徴だ。
実際、実物を目の当たりにすると、メルボルンレッドのX6 Mは、近寄りがたいオーラに包まれていた。フロントエプロンに大きく口を開けたエアインテークやディフューザー形状のリアバンパーなど、少し大げさなくらいの専用装備が、クーペのようなルーフラインとあいまって、X6のダイナミックなイメージをさらに加速している。好き嫌いはともかく、X5 MよりもこのX6 Mのほうが、Mモデルらしい仕上がりだと思う。
極上モノです
カスタムメイドプログラム「BMWインディビジュアル」を手がけるBMW M社だけに、インテリアの演出も見事だ。ダッシュボードやシート、ドアトリムに加えて、ルーフライニングまでをもブラックで統一したキャビンは、上質なメリノレザーのシートや、レザーで覆われたダッシュボード、アクセントとなるアルミのインテリアトリムなどによって、派手なエクステリアとは対照的に、スポーティで落ち着いた雰囲気に仕立て上げられている。お世辞抜きに、惚れ惚れするほどの美しさだ。
しかし、極上なのは見た目だけではない。その走りも、極上の仕上がりを見せていたのだ。4.4リッターV8ツインターボは、X6 xDrive50i用と排気量こそ同じだが、最高出力は148ps上まわる555ps、最大トルクは8.1kgmアップの69.3kgmを誇り、2380kgもの巨体を実に軽々と前に押し出す。
低速でブーンという低音が耳に残るエンジンは、1000rpmそこそこでもスムーズで余裕があり、1500rpmを超えたころからは、サウンドもフィーリングも軽くなり、それにあわせてますますトルクも太くなる印象だ。とくに急ぐ場面でなければ2000rpm以下で事足りるほどの実力である。
けれども、Mツインパワーターボエンジンは、「もっと回せ!」とばかりにドライバーを誘惑してくる。誘いにのって右足に力をこめると、次の瞬間、のけぞるような圧倒的な加速に襲われた。それでいて、吹け上がりはスムーズで、上品さを失わないのが、X6 Mの“大人のスポーツ”たるところだろう。これほどの動力性能を誇りながら、車載の燃費計を見ると、街なかで5km/リッター台、高速中心の区間で7〜8km/リッターを示すのも、考えようによっては見事なものだ。
手放しで喜べるか?
エンジン性能と同じくらい目を見張るのが、X6 Mの走り。一般道を比較的低い速度で走っていると、20インチのランフラットタイヤが多少ゴツゴツとした感触をキャビンに伝えてくるが、スピードが上がるにつれてスムーズさを増し、見た目とは裏腹に快適な乗り心地を示すようになる。
高速道路では、SUV離れしたフラットな挙動に驚かされた。それは、プレミアムSUVカテゴリーで1、2を争うレベルだ。ワインディングロードやサーキットを攻めるチャンスはなかったが、ちょっとしたコーナーならロールもなく駆け抜ける落ち着きようにも、恐れ入った。
アイポイントが高いのと、ときおり太く大きなタイヤが舗装の荒れを伝えてくるのをのぞけば、SUVであることを忘れてしまうX6 M。その上質なつくりとスポーティな走りは、まさにプレミアムSUVの頂点と呼ぶにふさわしい内容だ。
ただ、いまの時代、X6 Mを手放しで喜べるかというと、少なくとも私には難しい。重くて大きなSUVをスポーティに走らせるためにパワーアップを図り、ただでさえ厳しい燃費がさらに低下するという悪循環。ひと昔前なら、それが許されたかもしれないが、もはや楽しいだけでは喜べないし、どんなに高級なクルマであっても、世間の目はこれからますます厳しくなる一方だ。
たとえば、ディーゼルやハイブリッドで、とびきりスポーティなMモデルをつくるといった新しい発想が、とくにSUVセグメントでは必要ではないのだろうか。長年、人が羨むクルマを送り出してきたBMW Mだからこそ、次の時代にも輝く存在であり続けてほしいと願う。
(文=生方聡/写真=峰昌宏)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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