マツダ・ロードスターRS(FR/6MT)/RS RHT(FR/6MT)【試乗記】
軽快 VS しっとり 2012.10.21 試乗記 マツダ・ロードスターRS(FR/6MT)/RS RHT(FR/6MT)……263万1500円/300万7000円
外装を中心にマイナーチェンジした「マツダ・ロードスター」。ソフトトップモデルとRHTモデルを比較した。
最後の化粧直し?
モデルライフも押し迫った「マツダ・ロードスター」の、ソフトトップとRHT(ハードトップ)を乗り比べることができた。どちらもコンベンショナルな3ペダル式6段MTを備えた、スポーティーな「RS」。歩行者保護のためのアクティブボンネットが装着された(おそらく)最終モデルである。
箱根の峠道に到着して、「どれどれ」とソフトトップからRHTに乗り換えて走りだしたとたん、「あれ?」と思った。こちらの方がエンジンがいい!
シャーンと小気味よく回る。素直に吹け上がる。不思議な気持ちのまま、シフトを繰り返して坂道を駆け上がった。
実は昨夜、前もってロードスター(ソフトトップ)を借りたとき、「なるほど、トルクのつきが良くなった」と感心したのだ。最新ロードスターの2リッター4気筒はスムーズで、アクセルペダルの操作に律義に対応し、しっかりボディーを前へ押し出す。踏む量だけでなく、踏み込む速度によってもトルクの出方を変える、新しいスロットル制御プログラムが採用された。霊験あらたか。マツダのエンジンは、ホンダユニットのようにカリカリとドライじゃなくて、ちょっとトロンと回るところが「“らしい”んだよなァ」と、夜の大手町で独り納得していた。
だから、RHTのエンジンに接したときは、なんだかダマされた気分。まあ、「個体差」と呼ぶほど大げさな違いではないし、クルマによって若干の違いが生じるのも、大量生産に乗り切れない、ピュアなスポーツカーらしくていいかも……というのは、贔屓(ひいき)の引き倒しか。国内では、販売台数が3桁に届かない月も多いから、メーカーとしては気が気じゃないはずだ。
そんな、会社の業績に貢献しているとは言いがたいロードスターに、最後までキチンと手を加えて、ライフをまっとうさせようとしているマツダの姿勢は立派だ。歩行者との衝突時にボンネットの付け根側を跳ね上げ、硬いエンジンヘッドとの間の空間を広げ、少しでも歩行者へのダメージを減らそうというアクティブボンネット。そのためにエンジンルーム内に追加装備されたアクチュエーターは、同種のデバイス中、最も軽量コンパクトなのだとか。
RHTの方が売れている
RHTで峠を走ると、やはりソフトトップより“曲がり”でのロールが大きい。単体でRHTだけ乗ったなら、「まんまロードスター」との印象を受けるに違いないが、交互に乗り比べると、1120kg(ソフトトップ)と1160kg(RHT)、子供ひとり分の車重の違いが、乗り心地やドライブフィールにハッキリと出る。ソフトトップは軽快で、ミズスマシのようにすばしっこい。相対的に、RHTの方がしっとりとして、大人な感じ。車検証を見ると、前輪荷重は590kg(ソフトトップ)と600kg(RHT)。意外や静的な前後重量配分は、わずかながらRHTの方がいい。
マイチェンを受けたロードスターは、ブレーキを「抜くときの」コントロール性も高めたという。ブレーキブースターを変更、ブレーキを緩める際のストッピングパワーの変化をリニアにした。これは、カーブ直前にかけたブレーキをコーナリング中も残して、荷重を前に移したままにして前輪が曲がる力をより引き出す、いわゆるトレーリングブレーキで有効なはずだが、スイマセン、個人的にはよくわかりませんでした。
さて、2006年8月、ソフトトップより1年遅れで登場したRHTは、ロードスターの裾野(すその)を広げる役割を負っていた。しっかりしたハードトップで、布製の屋根に抵抗感をもつユーザーに対応したわけだ。デビュー当初は、「グラム単位の軽量化を図っていたロードスターなのに」と素直に歓迎できない気持ちもあったが、その後の両者の販売比率は、むしろRHTが主流となっている。エンジニアの人たちの、「軽量」という教条に縛られない柔軟な姿勢が、ロードスターのフェードアウトを防いだといえる。拍手ぅ!
![]() |
![]() |
![]() |
次も期待してます!
久しぶりに「マツダ・ロードスター」に乗って「古いなァ」と……、いや、古いというと語弊がある。最近のクルマと比較して違和感があるのが、高速巡航時のエンジン回転数だ。ギアをトップに入れた100km/h巡航だと、タコメーターの針は2750rpm前後。燃費指向のニューモデルだと、同じ条件で2000rpmを切ることはザラだ。ロードスターの室内に響くエンジン音が、ずいぶんとにぎやかに感じられる。
もっとも、ロードスターのギアが低いことはデビュー当時から言われていたことで、いわば“本気のスポーツカー”を示す要素のひとつといえる。「先代の5段ギア+燃費用ギア」ではなく、5枚のギアでカバーしていた速度域を、「あらためて6枚のギアで切り直した」わけだ。エンジンをフルスケール回して、ロー→セカンド、セカンド→サード、とギアを変えるたびに、エンジン回転数は最大トルクを発生する5000rpm付近に着地して、7000rpmのピークパワーに向かって力強く加速していく。峠で、サーキットで、その恩恵に浴した人も多いことだろう。行き帰りの高速道路では、「ちょっともったいない……」と思いながらも。
気になるカタログ燃費は、11.8km/リッター(RHTは11.2km/リッター。いずれもJC08モード)。これまでなら、「2リッターのスポーツモデルなら妥当なところでしょう」と割り切れたかもしれないが、まわりのクルマの燃費性能が飛躍的に上がってきている昨今、「スポーツ」との妥協点を探りつつ、次のロードスターは相当がんばらないといけないだろう。
……などと、小姑(こじゅうと)のようなことが言えるのも、どうやら“次のロードスター”がちゃんと出そうだ、というニュースが伝わってきたからだ。なんでもアルファ・ロメオにもOEM提供するようで、両者の違いにも興味津津。マツダ車といえば、スタイルが良くて、走らせて楽しい、いわば「東洋のアルファ」……と勝手に断じていたから、案外相性がいいんじゃないか。まあ、「日産パルサー」/「アルファ・ロメオ アルナ」の例もあるし、一寸先は闇な自動車業界だから、楽観は禁物だけれど。4代目になっても、どうか“走り”オタクに偏ることなく、これまでのように間口の広いオープンスポーツでいて下さい。あと、3ペダル式のMTも残して下さい。5段+燃費ギアでもかまいませんので。期待してます!
![]() |
![]() |
(※)ちなみに、マニュアル車の燃費計測は、指定される使用ギアの関係で、オートマチック車より不利になるケースが多いようだ。つまり、カタログ燃費に履かせられる下駄(げた)の高さが低いことになる。その分、実燃費との乖離(かいり)は小さい。2年ほどロードスターをアシにしたときは、「毎日の通勤ときどきスポーツ走行」といった使い方で、燃費は10km/リッター弱だった記憶がある。
(文=青木禎之/写真=高橋信宏)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
NEW
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
NEW
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
NEW
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。 -
第83回:ステランティスの3兄弟を総括する(その1) ―「ジュニア」に託されたアルファ・ロメオ再興の夢―
2025.9.3カーデザイン曼荼羅ステランティスが起死回生を期して発表した、コンパクトSUV 3兄弟。なかでもクルマ好きの注目を集めているのが「アルファ・ロメオ・ジュニア」だ。そのデザインは、名門アルファの再興という重責に応えられるものなのか? 有識者と考えてみた。