ポルシェ911ターボ(4WD/7AT)/911ターボカブリオレ(4WD/7AT)【海外試乗記】
限界はどこにある? 2009.10.28 試乗記 ポルシェ911ターボ(4WD/7AT)/911ターボカブリオレ(4WD/7AT)直噴エンジンとPDKを手に入れた新型「911ターボ」に、ポルトガルで試乗。そのダイナミックな走りを支える様々な技術に、リポーターは改めて感心したという。
エンジンマウントで速くなる
跳ねたり、飛んだり、滑ったり……いざ自分で走ってみれば、かくも激しい挙動を御するのに大忙しとなるご存知ニュルブルクリンクのオールドコース。サーキットというよりは、「ワインディングロードにガードレールが付いただけ」と表現したほうがはるかに適切な、全長およそ21kmのコースを、直噴エンジンとPDKを手に入れた最新の911ターボは、LSDをオプション装着した従来型の7分49秒よりも、およそ10秒速いラップで周回するという。
「計測時の気温なども異なるのであくまで参考のデータだが……」との断り付きで、そんなコメントをくれたシャシー開発担当のエンジニア氏は、そのタイム差のおおよその内訳も示してくれた。それによると、「4秒がタイヤぶんで2秒がエンジンぶん、そして同じく2秒がオプションのダイナミックエンジンマウントぶんで、やはりオプションのトルクベクタリングとPDKがそれぞれ1秒ぶんずつ」とのこと。タイヤとエンジンは納得としても、運転状況に応じ硬度を変えることで快適性確保とロール・イナーシャの減少を両立させるという、エンジンマウントのアクティブ制御がかくも効くとはちょっと驚きだ。
そう、先日開催のフランクフルトショーでデビューをした最新の911ターボは、「35年におよぶ911ターボ史上で、初めての全面刷新」が伝えられるエンジンと、すでに「911カレラ」や「ボクスター/ケイマン」で実績を持つデュアルクラッチ式トランスミッション「PDK」の新設定がメインのニュース。しかし、実は今回はそれ以外にも走りのポテンシャルに密接に関係する、様々なテクノロジーが用意されたことも見逃せない。
当然ながら、国際試乗会に用意をされたテスト車の多くは、そんな興味深いアイテムを装着している。そしてそれらを実際に体感させるべく、イベントのメイン舞台として用意されたのは、ポルトガルはリスボン近郊のエストリルサーキットコースだった。
重量増をとことん嫌う
すでにサーキットへと乗りつけるまでの区間で、にわかにはターボ付きのエンジンとは思えないほどの低回転域のフレキシビリティを確認させてくれた新しい心臓。3.6から3.8リッターへ排気量を増すのと同時に、クランクケースを2ピースから1ピース構造へと変更するなどの完全新設計が与えられたユニットは、アクセルペダルを深く踏み込むと、その本領である炸裂するパンチ力を存分に味わわせてくれる。
そもそも、1950-5000rpmという低回転からの広いゾーンで66.3kgmという怒涛の大トルクを発するこの新しい心臓。しかしそれは、オプション設定の「スポーツクロノパッケージ・ターボ」を装着しスポーツモードを選択すると、標準仕様では0.8barの最大ブースト圧に0.2barが上乗せされて、実に71.4kgmものトルクを最大10秒間にわたって、2100-4000rpmの範囲で発生し続けるという。最高出力の500psは従来型の20ps増し。そうしたピークパワー時の吸気温度を下げることで効率のアップを狙ったエクスパンションインテークマニホールドを「GT2」に続いて採用したが、あちらに対して過給圧が控えめなのは、「こちらは直噴化による燃焼室温度の低下が期待できるので、その分を点火時期を早めるために使った方が得策だから」という理由による。
実際、そうしたトルク特性の持ち主ゆえに、タイトなコーナー立ち上がりでは右側がアップ/左側がダウンと、ようやく“世界標準”に則ったデザインを与えられたオプションのステアリングパドルで、気持ちよりも1段高いギアを選択しても、十分に力強い駆動力が得られる。ちなみに、アクセルペダルを積極的に踏み加えていくと、いったんは顔を覗かせそうになったアンダーステアが姿を消し、わずかにリアを膨らませ気味にしたファイティングポーズを得ることができる。まさに、スタビリティコントロールシステム「PSM」の機能を巧みに応用した、前述のオプションアイテム「ポルシェ・トルク・ベクタリング(PTV)」の効果を実感できるシーン。内側後輪に軽くブレーキをかけ、リア左右輪のトルク配分を適宜変化させることで、旋回モーメントを補完しているのである。
より大きなヨーコントロール効果が狙えそうな「BMW X6」や「アウディS4」「三菱ランサー・エボリューションX」などが採用するメカニカルなシステムもあるが、重量増が大きいため、ポルシェとしては興味が無いそうだ。とにかく、重量の増加はとことん嫌うのが、昨今のポルシェの開発の基本姿勢でもある。
呆れるほどにタフ
かくして、よりダイナミックな加速力と、より自在なハンドリング性能を手に入れた最新の911ターボで、かつてはF1レースも開催された国際サーキットでの走りを十二分に味わった。毎度のことながら改めて感心させられたのが、ポルシェ各車が備えるその呆れるばかりのタフネスぶり。なにしろ、今回サーキットに持ち込んだのは、その午前中および前日を250km以上にわたって一般道走行して来たモデルそのもの。しかも、数時間に及ぶサーキットセッション中でメンテナンスはといえば、1度の給油のみで、あまつさえ、そんな試乗を連日繰り返しているというのだ。
いつの時代も911シリーズの頂点に立ってきたのが「ターボ」というモデル。しかし、数年に一度のリファインの度に、こうして大きなステップアップが図られるのを知ると、「一体その限界はどこにあるのか?」とちょっと空恐ろしくなるほどだ。
(文=河村康彦/写真=ポルシェジャパン)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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