プジョー308CC グリフ(FF/4AT)【試乗記】
オープンカーというよりも…… 2009.08.14 試乗記 プジョー308CC グリフ(FF/4AT)……455.0万円
プジョーの4人乗りオープン「308CC」。実用的でオシャレなクーペ・カブリオレに試乗して一番心に残ったのは、屋根が開くところではなく……。
フランス車らしさとは?
都心の渋滞から高速道路、そして山道まで、「プジョー308CC」を走らせて、しみじみ「フランス車だなぁ」と思った。もちろん、20秒(Gショックのストップウォッチ機能で計ったら、実際はあと2〜3秒余分にかかった)で開閉する電動格納ハードトップを備えたCC(クーペ・カブリオレ)である。けれど、より深く心に刺さったのはオープンカーという側面よりも、フランス車らしさだった。
という話を『webCG』スタッフに振ったところ、「フランス車っぽいってどういうことですか」というカウンター攻撃を食らってギクリ。「フランス車っぽい」という表現を自分はよく使うけれど、確かにその定義は曖昧だ。腕組みして、プジョー308CCのフランス車っぽい部分について考える。
真っ先に浮かんだのはリアのデザインが面白いということだ。最近だったらシトロエンの「C4ピカソ」とか「C6」、ちょっと前ならルノーの「メガーヌ」や「アヴァンタイム」、もっと昔なら「プジョー505」や「シトロエンCX」。昔からフランス車は、お尻の形を大事にしてきたように思う。一方、アウトバーンで先行車に自分の存在をアピールするために、ドイツ車は顔にポイントを置く。
プジョー308CCも、どちらかといえば顔よりもお尻に特徴がある。屋根を閉じた状態だと、ラウンドしたリアウィンドウとなだらかに落ちるトランク、ふたつの曲面の関係が面白い。屋根を開けると、立体的でパンと張ったステキなお尻の形が強調される。そして308CCは、見た目だけでなく走らせた時の手触りもフランス車っぽかった。
熱くならないファン・トゥ・ドライブ
街なかだとサイズの合っていない靴を履いているかのようにドタッとした乗り心地だし、首都高速の段差のような鋭角的な突起も苦手。乗り越えた瞬間、「ドスン!」という予想以上のショックに襲われる。けれども、ひとたび速度を上げると性格ががらっと変わる。
もしそこがコーナーの多い道だったら、ちょっと車体を傾かせながら、けれども4本のタイヤは路面をピターっと捉えたまま、308CCは涼しい顔で駆け抜ける。その楽しさは、頭の中が真っ白になったり体の芯がカーッと熱くなるようなファン・トゥ・ドライブとは真逆。体の力がスーッと抜けて、リラックスできるタイプの快感だ。
もしその道が真っ直ぐだったら、どこまでもどこまでも走っていけそうな気分になる。4本のタイヤが路面と闘い、力でねじふせるゲルマンっぽさと対極にある乗り心地がそう思わせる。路面の言い分(つまり凸凹)をきちんと尊重し、それにあわせて4つのサスペンションが太極拳のポーズのようにウニャウニャと伸びたり縮んだり、最終的には凸凹をうやむやにするフランス流交渉術。
1590kgの車重に140psだからそんなに速くはなくて、それもフランス車的だ。これはまったく個人的な感想だけれど、ドイツ車に乗っていると効率的なビジネスのために高速で突っ走っているような錯覚に陥る。いっぽう、非力なエンジンで急がずに彼方を目指すフランス車に乗っていると、自動車旅行とかグランドツーリングをしている気分になる。けれどもこの「プジョー308CC」に、ひとつだけフランス車らしからぬ点を発見した。
上出来のエンジンが最大の欠点を隠す
それは、1.6リッターの直噴ターボが「プーン」と軽やかに回ることだ。フランス車のエンジンといえば、とにかく必要なパワーとトルクが出ていれば官能性なんか関係ないというのが通り相場だった。だいたいどのエンジンも、フランスが実はヨーロッパ最大の農業国であることを思い出させてくれる土臭いタイプ。でもこの直噴ターボはちょっと違う。
前述したように140psだから速くはない。速くはないのだけれど小気味よく、速く走っている気にさせる。特に4000rpmから上でタコメーターの針が軽くなったかのように盤面を駆け上っていくさまは、フランス車っぽくない。そうだ! このエンジンの開発にはBMWが関係していたことを思い出して納得する。
ツインクラッチ式MT等、トランスミッションの革新が進むいま、さすがに4ATの古くささは否めない。特に市街地では、変速の遅さ、ショックの大きさを実感。ただし、このエンジンはトルキーなので、ひとたび交通が流れる場所に行けばそれほど変速を頻繁に行わずに走る。このエンジンはフィーリングがいいだけでなく、このクルマ最大の欠点をフォローする役割も担っている。
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ライバルは、あのクルマか
と、ここまで書いたのに「プジョー308CC」の「C(カブリオレ)」部分にはまったくふれていないわけです。正直、屋根を開けてもフロントウィンドウに頭上を覆われているように感じて、あまり開放感はない。オープンカーを期待するよりも、「屋根も開く」ぐらいの認識のほうが間違いがない。「太陽がいっぱい」を堪能したい人には、別の選択肢がある。
とはいえ、「308CC」のもうひとつの「C(クーペ)」部分に関して言えば、耐候性、デザイン性、快適性、その他もろもろ、文句がない。したがって「308CC」のライバルはオープンカーというよりも、「フォルクスワーゲン・シロッコ」などのお洒落クーペなのかもしれない。447万円の「シロッコ2.0TSI」だったら、価格もほぼ一緒だ。
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(文=サトータケシ/写真=郡大二郎)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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