マツダ・デミオEV(FF/1AT)【試乗記】
市販しなけりゃもったいない 2012.11.06 試乗記 マツダ・デミオEV(FF/1AT)……387万7000円
マツダの売れっ子コンパクトカー「デミオ」にEVバージョンが登場。その走りにはどんな特徴があるのか? 一般道と高速道路で試した。
満を持してのEVバージョン
ハイブリッドカーと並ぶエコカーの本命と見られてきた電気自動車(EV)の勢いに、最近、陰りが見えつつあるようだ。
当初は好調な売れ行きを示していた「日産リーフ」は、2012年度については、世界販売目標をクリアできない恐れが出てきた。最大のマーケットである北米での販売が低迷しているようだ。一方日本では、長所のひとつであるCO2排出量の少なさに関して、実はハイブリッドカーと変わらないという主張がある。原子力発電所が止まり、太陽光・風力発電はこれからという中で、火力発電への依存率が急速に高まっているからだ。
そんな中、マツダから「デミオEV」が発表されたというニュースを見て、「どうして?」と思った人も多いだろう。マツダといえば、高効率の内燃機関を主役とした「スカイアクティブ・テクノロジー」で独自の地位を築きつつあるからだ。そこで導入の理由を開発担当者に聞いたら、ちょっと心温まる答えが返ってきた。
現在、EVに最も熱い視線を送るのは、地方自治体や企業だ。移動コストの節約になるし、環境イメージのアピールにもなる。それはマツダが本拠を置く広島県でも同じだ。しかし同県は、これまでEVを積極的に導入しておらず、導入にあたり地元産のEVを使いたいという気持ちから、マツダに開発を要望したのだ。涙が出るような郷土愛である。
マツダは1970年代から、「ファミリア」や「ボンゴ」のEV仕様を数台レベルで製作していて、EVと無縁ではない。しかも環境性能向上のためには、電気エネルギーの活用が不可欠であり、EVの開発が必要であるという結論に至ったそうだ。
「Zoom-Zoomな走り」が自慢!?
デミオのEVというと、茨城県つくば市で実証実験を行っている車両を思い出した人がいるかもしれない。しかしあちらは、伊藤忠商事や東京アールアンドデーなどがデミオを改造したもので、マツダ製ではない。
今回のデミオEVは、安川電機と共同開発したモーターや「テスラ・ロードスター」にも使われるパナソニック製リチウムイオン電池など、サプライヤーが関与しているパーツがあるものの、全体設計はマツダ自身が行った。
すでに2012年10月から中国地方の自治体や企業向けに6年間のリース販売を開始しており、合計100台を供給予定。取材時点で20台あまりがデリバリーされていた。価格は357万7000円で、補助金を適用すると262万7000円になるという。
EVとしての基本性能は、満充電での航続距離がJC08モードで200km、充電時間は200Vで約8時間、急速充電では80%まで40分と、リーフと大差ない。スマートフォンで充電やエアコンのタイマー予約が行えたり、AC100Vコンセントが用意(オプション)されたりという点も、EVやハイブリッドカーでおなじみだ。
ではデミオEVならではの特徴は何かと尋ねると、なんと「Zoom-Zoomな走り」だという。自治体や企業向けの車両に「Zoom-Zoom」が必要なのか、不思議な感じもしたけれど、「マツダですから」と言われて納得した。
フロントに搭載して前輪を駆動するモーターは、巻線を2段階切り替え式とすることで、発進の力強さと高速域での伸びを両立した。バッテリーは厚さ25mmの薄型として、15mm高めた床下のホイールベース間に装着することで、低重心を実現するとともに、前後重量配分をガソリン車の65:35から60:40に適正化した。軽量化にも配慮しており、車両重量は190kgアップの1180kgにとどめている。
ここまで走りに言及する電気自動車も珍しいと、試乗前の説明を聞きながら思ったけれど、実際に乗るとたしかに、運転して楽しいEVだった。
ロータリーのような、MT車のような……
ボディーは、バッテリーの設置に伴い全高が15mm高くなった以外、電動車であることを意識させない。素晴らしいのは室内や荷室もベースモデルと共通であること。ガソリン車と同じスペースが確保されているのだ。
メーターは左側のタコメーターがパワーメーターに、右側の「i-DM」表示画面がマルチインフォメーションディスプレイに変更されたものの、デザインは同じ。“イグニッションスイッチ”をひねってセレクターレバーでDレンジを選び、アクセルペダルを踏むという発進操作もガソリン車と何ら変わりない。
でもその後の走りはもちろん違う。街中での加速は静かで強力。この点は他のEVも共通だが、違うのは高速道路に乗ってからも、巻線切り替えのおかげで伸びがまったく鈍らないこと。ロータリーエンジンみたいだ。しかも外国製EVによく見られるように回生が強く効くから、アクセル操作で速度を調節するという、MT車のようなドライビングフィールが堪能できる。
セレクターレバーにはDレンジの他、加速を控えめに、回生を強めにする“Eレンジ”もあり、レバー横にはさらに回生を効かせるチャージスイッチまである。Dレンジ+チャージとEレンジの回生レベルは同じだ。MTライクな走りが味わえるのはEレンジ+チャージのときで、下り坂なら走行可能距離が伸びるという喜びもある。おかげで試乗の大半をこのモードで過ごしてしまった。
街中限定で試したハンドリングは、ノーズの動きはそんなにクイックではないものの、コーナーに入ってからの“低重心感”はけっこう快感。しかも乗り心地は、重量増がプラスに作用して、ガソリン車のデミオより落ち着いている。
すべての内燃機関自動車をEVで置き換えられるとは僕も思っていない。でも自治体や企業のように、一定の地域内で走行し、多くの人間でシェアする使い方には適していると考えている。だからデミオEVの供給方法には納得がいくけれど、ここまで「Zoom-Zoom」なのに一般ユーザーに売らないのはちょっともったいない気もした。
(文=森口将之/写真=峰昌宏)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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