マツダ・デミオ 13-SKYACTIV(FF/CVT)【試乗記】
小さな大型新人 2011.07.21 試乗記 マツダ・デミオ 13-SKYACTIV(FF/CVT)……150万円
「マツダ・デミオ」ファミリーに、30.0km/リッターの燃費をうたう新グレード「13-SKYACTIV」が登場。肝心の走りや乗り心地を、峠道でチェックしてみた。
あの手この手で3割増し
燃費に特化した仕様なのだから、走りはまあ、それなりだろう――失礼ながら、「デミオ 13-SKYACTIV(スカイアクティブ)」の試乗会に参加するにあたって、そういう気持ちがまったくなかったと言えばウソになる。しかし、その読みは大きく外れた。もちろんいい方向に、だ。ZOOM-ZOOMのマツダだけあって、その走りはかなりイキが良かった。しかも従来のデミオと比べて、いちだんと上質なフィーリングさえ備わっていた。単なる車種追加ではくくることができない、大型新人の登場だ。
走り出す前にもう一度確認しておくと、「スカイアクティブ」とは車両の性能を総合的に高める、マツダの次世代技術の総称である。このコンセプトは今後、エンジンだけでなく、トランスミッション、ボディ、シャシーなど、クルマのさまざまな構成要素に浸透していく予定だが、今回のデミオには、まずは「スカイアクティブG 1.3」と呼ばれる1.3リッターのガソリンエンジンだけが投入された。10・15モード燃費で30.0km/リッター(JC08モードで25.0km/リッター)というクラストップの低燃費が話題になっている。
この卓越した燃費性能を実現したキモは、14.0という非常に高い圧縮比にある。ガソリンエンジンでは圧縮比を高めていくと、理論的には燃費を向上させることができる。しかしその一方でノッキングが発生しやすくなり、出力低下を招きやすい欠点もある。そこで多孔式のインジェクターや、頭頂部にくぼみ(キャビティ)を設けた耐ノック性向上ピストンを使って安定した燃焼を目指し、同時に排出ガスの一部を冷却して燃焼室に戻すクールドEGRの採用によって、トルクの低下を防いでいる。
30.0km/リッターという燃費は、「デミオ 13C-V」(23km/リッター)と比べると実に30%の改善に当たる。その内訳は、エンジンまわりで24%、トランスミッション(CVT)で2%、空力の改善やLEDストップランプの採用など車体まわりで4%稼いでいるとのことだ。アイドリングストップのi-stopももちろん搭載されており、なんとこれだけで16%程度の改善が見込めるというのだからすごいものだ。
「理想の運転」教えます
デミオの低燃費ぶりをアピールしたいなら、試乗会はすいた郊外か高速道路をベースに実施した方がいいに決まっている。しかし今回の舞台は箱根。それも10分も走ればきつい上り坂とワインディングロードが始まる、いかにも自動車メディアが好きそうな「飛ばしてください」と言わんばかりのロケーションである。マツダも思い切ったことをするものだな思いつつ、それならば、とスロットルペダルを踏み込んだ。
このエンジン、まずは低速でのトルクの太さが印象的だ。Dレンジで40km/h走行時の回転数はわずか1000rpm程度。試乗会場を出て、箱根とはいえ比較的平坦な道を走っているかぎり、タコメーターの針は1000〜1500rpmの間を行ったり来たりしているにすぎない。それで十分に周囲の交通の流れに乗れる。数分もすると、スタート時にゼロリセットしておいた燃費計の数値も安定し、さっそく23.1km/リッターという優れた数字を示した。
一方で、スピードメーターの右脇にある「i-DM」(インテリジェント・ドライブ・マスター)の表示は、さっきから「やさしい運転」であることを示す緑のランプが点灯している。これはマツダのテストドライバーの中でも特に運転がうまい「Sクラス」と呼ばれる人たちの操作を基礎データとした、運転のコーチング機能で、ドライバーに車両の無駄な動き(スロットル操作だけでなく、ステアリングやブレーキ操作も含む)を気付かせることによって、燃費の改善をうながすだけでなく、Sクラスドライバー譲りの滑らかでメリハリのある運転操作を伝授しようとするものだ。
つまり、ただ「ふんわりアクセル」だけを推奨するのではなく、チャキチャキとテンポのいい運転をしても、それが度を越したものでなければホメてくれるのである(この場合、「しなやか運転」を意味する青ランプが点灯する)。気持ちよく走ることを「善」とするマツダらしい装備だ。
もっとも、「そんなの、余計なおせっかいだ」と思う人もいるだろうし、筆者自身も最初はそう思って身構えていた。しかし、青ランプがポッとついて、「ん? 今のハンドルさばき、イイんじゃない? ついでにブレーキングもグッド!」とデミオに言われれば、それはそれで悪い気はしないもんである。そうやって走っていたら、箱根だというのに燃費計は最終的に23.7km/リッターを示した。そこでいよいよ急な上り坂にさしかかった。
オトナになった乗り心地
スロットルペダルを深く踏み込むとタコメーターの針は5000rpm近くまで跳ね上がり、デミオはいざ加速し始めた。CVTにありがちな速度の乗りの悪さはそれほど感じない。ごく自然にスピードが増していく。気持ちよさもある。およそエコカーらしくない力強さである。また、それまで静かだったエンジンは、4000rpmあたりから音を響かせて存在感を主張し始めるが、耳障りな音質ではないので、引き続き「静かだなあ」という印象が続いている。ここらへんでドライバーは、マツダの「スカイアクティブとは気持ちよく走れて、しかも従来より上質感が高い技術なのだ」というメッセージに、素直にうなずくことになるだろう。
そして乗り心地やハンドリングからも、従来のデミオとは違う、一段と洗練されたメッセージを受け取るはずである。足まわりはしなやかでありながら、小型車らしからぬフラット感が演出されたセッティングが施されている。どしっと落ち着いた乗り心地が印象的だ。姿勢や挙動を安定させるためにサスペンションを固めるのではなく、むしろ動かす方向である。しかしその動きがジワーッと漸進的なので、より上級なクルマのようなオトナっぽい動きに感じられるのだろう。聞けば、ダンパーのオリフィス径を従来より広げて、微小域から滑らかに動くように設定しなおしたそうだ。
ハンドリングも、ターンインからピッと旋回Gが立ち上がる過敏なものではなくなった。ステアリングの応答性はこれまでより甘く感じられるが、そこから発生するヨーやロールといった力のつながりがリニアな、より自然なものへ改められている。そうはいってもクルマの重量は軽いから、フットワークは十分に軽やかだ。タイヤ(テスト車はヨコハマ・アスペックの175/65R14サイズを装着)も、低転がり抵抗タイプにしては接地感が高く、時折強く吹きつける雨の中でも(台風が接近していたのだ)、グリップに不安はなかった。ドライバーだけでなく、他の乗員もこれまでよりずっと心地良さを感じるに違いない、ZOOM-ZOOMのオトナっぽい解釈に改まった感じである。
高級車やスポーツカーが、その国の自動車文化の顔ならば、小型車はさしずめ足腰みたいなもの。環境性能ばかりアピールする小型車が多い中で、こうして走りの良さもきっちり作り込んだクルマがあってこそ多様性が維持され、文化がはぐくまれ、クルマがもっと面白くなるのではないかと思う。マツダはエコカーの戦略で後手にまわった感が否めなかったが、いざ打ってきた石はなかなかのものだった。近いうちに、自慢の燃費性能をじっくり試してみたいものだ。
(文=竹下元太郎/写真=市健治)
拡大
|
拡大
|
拡大
|
拡大
|

竹下 元太郎
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。



































