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第94回:祝! 「アルト」30周年&1000万台達成 スズキのものづくりを学びに「スズキ歴史館」へ(中編)

2009.06.10 エディターから一言 田沼 哲
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第94回:祝! 「アルト」30周年&1000万台達成スズキのものづくりを学びに「スズキ歴史館」へ(中編)

スズキ初の小型乗用車

ワ:これまで軽ばかりだったのに、急に立派になりましたね。
た:1965年に発売された、スズキ初の小型乗用車である「フロンテ800」だよ。
ワ:60年代じゃ私は生まれてないから当然なのかもしれないけど、初めて見ました。
た:なんか引っかかるなあ、その言い方。まあいいけど、50年代生まれの俺でも実車はほとんど見た記憶がないよ。なにしろこれはおよそ3年半の間に2717台しか作られてないんだから。

ワ:なんでそんなに少ないんですか?
た:ひとことで言うなら、あまり売る気がなかったから。そもそもこれは60年代初頭、貿易自由化対策として既存の自動車メーカーの合併・統合を進め、新規参入を阻もうとした通産省(現・経産省)に対し、独立独歩を旨とするスズキがその技術力をアピールするために開発されたモデルなんだよ。
ワ:はあ。
た:もしこの通産省の構想が実現したら、スズキは実績のある二輪と軽しか作れなくなってしまうことを意味していたんだ。
ワ:ふ〜ん。
た:結果的には廃案となって事無きを得たんだけど、そうした経緯で生まれただけに、フロンテ800はハナから大量生産は考えておらず、ほとんど手作りに近かったらしいよ。

ワ:で、どんなクルマだったんでしょう?
た:エンジンはもちろん2ストロークなんだけど水冷3気筒で、駆動方式は作り慣れたFF。じつはこれにもお手本があって、ドイツの「DKW」の小型車にそっくりだった。
ワ:DKW? BMWじゃなくて?
た:うん。DKWは現在のアウディのルーツにあたあるメーカー。戦前から2ストロークエンジンによるFF車を作ってて、初期のサーブとか、旧東独のトラバントやヴァルトブルクなど、みなDKWを参考にしていたんだよ。
ワ:へえ、そうなんだ。

※「フロンテ800」については、エッセイ「これっきりですカー」で詳しく紹介しています。
『ハンドメイドの大衆車』スズキ・フロンテ800(1965〜69)

1963年の東京モーターショーでデビュー、約2年後にようやく発売されたスズキ初の小型乗用車である「フロンテ800」(1965年)。スタイリングは当時売れっ子だったイタリア人デザイナーの「ミケロッティ」風だが、スズキのオリジナルという。サイドウィンドウにカーブドガラスをいち早く採用していた。
1963年の東京モーターショーでデビュー、約2年後にようやく発売されたスズキ初の小型乗用車である「フロンテ800」(1965年)。スタイリングは当時売れっ子だったイタリア人デザイナーの「ミケロッティ」風だが、スズキのオリジナルという。サイドウィンドウにカーブドガラスをいち早く採用していた。 拡大
「フロンテ800」のカタログより。大きなリアウィンドウ、2つ並んだ円形テールランプなど、リアビューもイタリアン。
「フロンテ800」のカタログより。大きなリアウィンドウ、2つ並んだ円形テールランプなど、リアビューもイタリアン。 拡大
同じくカタログより。エンジンは2ストロークだが、スズキ初の水冷で、同じくスズキ初の3気筒。785ccから最高出力41ps/4000rpm、最大トルク8.1kgm/3500rpmを発生、前輪を駆動した。
同じくカタログより。エンジンは2ストロークだが、スズキ初の水冷で、同じくスズキ初の3気筒。785ccから最高出力41ps/4000rpm、最大トルク8.1kgm/3500rpmを発生、前輪を駆動した。 拡大
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我が家に「フロンテ360」(1967年)がやってきた!という設定の1/1スケールのジオラマ。「フロンテ360」はそれまでのFFから一転してRRを採用、スタイリングも「コークボトルライン」と謳った曲線基調に変身していた。
我が家に「フロンテ360」(1967年)がやってきた!という設定の1/1スケールのジオラマ。「フロンテ360」はそれまでのFFから一転してRRを採用、スタイリングも「コークボトルライン」と謳った曲線基調に変身していた。 拡大
周囲にはブロック塀もあり、穴から中を覗きこむと……。
周囲にはブロック塀もあり、穴から中を覗きこむと……。 拡大
「フロンテ360」が納車されて幸せいっぱい、記念撮影に臨もうという家族の姿が現れる。ちなみにフロンテの右奥に見える2人は見学者。なんと家族と共演できるという、凝った仕掛けなのである。
「フロンテ360」が納車されて幸せいっぱい、記念撮影に臨もうという家族の姿が現れる。ちなみにフロンテの右奥に見える2人は見学者。なんと家族と共演できるという、凝った仕掛けなのである。 拡大

ファミリーカーからパーソナルカーへ

ワ:ずいぶん凝ったディスプレイですね。
た:1967年に登場した「フロンテ360」が納車された、ある一家の庭先をイメージしたそうだよ。
ワ:年代でいくと、これは「スズライト・フロンテ」の後継モデルになるんですか?
た:そう。エンジンは、「フロンテ800」に次いで2ストローク3気筒エンジン(ただしこちらは空冷)を導入したんだけど、不思議なことに駆動方式は作り慣れたFFからRR(リアエンジン・リアドライブ)に宗旨替えしていたんだ。
ワ:それって珍しいこと?
た:珍しいね。誰も手を出さなかった頃にFFを導入していたのに、世の小型車の趨勢がRRからFFに転換しつつある時代になってRRを出してきたんだから。
ワ:あまのじゃくなんだ。
た:でも、これはスズキの軽乗用車としては初のヒット作となったんだ。それまで軽乗用車市場では58年に出た「スバル360」がずっとトップセラーだったんだけど、67年春にホンダから初の軽乗用車である「N360」が発売されるや否や大ヒットし、たちまち首位が入れ替わった。その3カ月後に出たこの「フロンテ360」も当たって、スズキは軽乗用車市場でホンダに次ぐ2位の座を確保したんだよ。

ワ:市場の図式を一気に塗り替えちゃったんですね。その要因はなんでしょう?
た:高性能だね。それまでの軽の最高出力は20ps前後だったんだけど、N360は31psでフロンテは25ps。とくにフロンテは、バランスのよさでは4ストローク6気筒に匹敵すると言われた2ストローク3気筒エンジンのスムーズさでは定評があった。乗り味もスポーティだったし。
ワ:わかりやすい理由ですね。
た:うん。この2車の登場をきっかけに、軽はつつましやかなファミリーカーから、若者向けのパーソナルカーへとシフトし、性能と豪華さを競い合うようになっていったんだよ。

ワ:同じフロンテでも、こっちの赤いのはボディにあれこれ描き込まれてますね。
た:それは68年に追加された、エンジンを36ps、つまりリッターあたり100psまでチューンした高性能版の「フロンテ360SS」。デビューキャンペーンとして、なんとスターリング・モスがハンドルを握ってイタリアの「アウトストラーダ・デルソーレ(太陽の道)」をデモランしたんだけど、これはそのモスが乗ったクルマそのものなんだって。

「フロンテ360」の空冷2ストローク3気筒エンジンを、標準の25psから36ps/7000rpmまでハイチューンした「フロンテ360SS」(1968年)。ただしパワーバンドは3500〜7000rpmと狭く、マニア向けだった。これはデビューに際して、スターリング・モスがミラノ〜ローマ〜ナポリ間をデモランした車両そのもの。
「フロンテ360」の空冷2ストローク3気筒エンジンを、標準の25psから36ps/7000rpmまでハイチューンした「フロンテ360SS」(1968年)。ただしパワーバンドは3500〜7000rpmと狭く、マニア向けだった。これはデビューに際して、スターリング・モスがミラノ〜ローマ〜ナポリ間をデモランした車両そのもの。 拡大
イタリアには2台の「フロンテ360SS」が持ち込まれ、赤はモス、黄色はマン島TTで優勝した唯一の日本人であるスズキのワークスライダー、伊藤光夫がドライブした。
イタリアには2台の「フロンテ360SS」が持ち込まれ、赤はモス、黄色はマン島TTで優勝した唯一の日本人であるスズキのワークスライダー、伊藤光夫がドライブした。 拡大

ワ:スターリング・モスって誰ですか?
た:50年代から60年代にかけて、F1やスポーツカーレースで大活躍したイギリス人の名ドライバー。不運にもF1王者にはなれなかったため、人呼んで「無冠の帝王」。
ワ:ミラノ〜ローマ〜ナポリ間750kmを6時間6分、平均速度122.44km/hで走破か。これって速いんですか?
た:相当速いと思うよ。なんたってエンジンが360ccしかないんだから。しかし、そのちっぽけなマシンを6時間以上全開でドライブするなんて、さすがモスだね。

軽ヨンク「ジムニー」登場

ワ:へえ、最初の「ジムニー」ってこんなだったんですか。
た:そうだよ。なにか気になる?
ワ:小さいのに、ずいぶん本格的だったんだなあと思って。
た:ああ。ヘビーデューティなルックスにふさわしく、走りも本格派だったんだ。軽いから泥濘地でも車体が沈み込んでしまうようなことがなく、悪路の走破性に関しては、ずっとパワフルなジープやランクルより時として勝っていたんだよ。

ワ:軽の四駆はこれが最初なんですか?
た:うん。でもこれを開発したのは、スズキではなくて、1950〜60年代半ばまで軽トラックを製造していた「ホープ自動車」という小メーカーなんだ。そこで少量生産されていた「ホープスターON型」の製造権をスズキが買い取って、70年に商品化したのがこの「ジムニー(LJ10)」。
ワ:そんな裏話があったとは。
た:東京支店勤務時代の鈴木修会長兼社長が、「こんなものは売れない」という社内の反対の声を押しきって進めたんだってさ。結果はヒットしてロングセラー商品に。
ワ:さすが、目の付け所が違いますね。

た:ジムニーよりひと足早く69年にデビューしたのが「キャリイバン(LV40)」。これはそのキャリイバンをベースに翌70年に大阪で開かれた万博用に作られた電気自動車を復元したんだって。
ワ:おもしろ〜い、これ。前も後ろも同じようなカタチで、どっちに走り出すかわからない感じ。
た:電車みたいだよね。でも、これを手がけたのはジウジアーロなんだ。それも彼が独立して設立したイタルデザインの最初期の作品で、まだスタジオがなかったからガレージでスケッチを描いたそうだよ。
ワ:それで個性的なんですね。
た:そうなんだけど、リアウィンドウの傾斜がキツイぶん、荷物が積めないんだよ。それであまり評判はよくなかった。やっぱり商用車はカッコより実用第一だから。

ワ:今気づいたんだけど、この「キャリイバン」とあっちにある「フロンテクーペ」、顔つきが似てませんか?
た:いいところに気づいた。そのとおり似てる。なぜなら「フロンテクーペ」も、ジウジアーロのアイディアをベースに、スズキがアレンジして生まれたものだから。
ワ:やっぱり! でもカッコイイですね。フェンダーミラーがやけに目立つけど。

た:見慣れてるから気にならなかったけど、言われてみりゃたしかにそうだな。でも、これは速いんだよ。おそらく360cc時代の軽でいちばん速かったマイクロスポーツだね。
ワ:じゃあ人気があったんですか?
た:もちろん。今でもマニアには愛されていて、オーナーズクラブもあるよ。(後編につづく)

(文と写真=田沼 哲、webCGワタナベ)

1970年に登場した「ジムニー」(LJ10)。小粒ながらジープと同じ16インチタイヤを履き、ジープの半分近い600kgという軽い車重と相まって悪路の走破性は高かった。エンジンはキャリイ用の359cc空冷2ストローク2気筒(25ps)、価格は48万2000円だった。
1970年に登場した「ジムニー」(LJ10)。小粒ながらジープと同じ16インチタイヤを履き、ジープの半分近い600kgという軽い車重と相まって悪路の走破性は高かった。エンジンはキャリイ用の359cc空冷2ストローク2気筒(25ps)、価格は48万2000円だった。 拡大
ジウジアーロがスタイリングを手がけた「キャリイバン(L40V)」(1970年)。これは大阪万博の会場施設パトロール用に湯浅電池(現GS YUASA)と共同開発した電気自動車を復元したもの。
ジウジアーロがスタイリングを手がけた「キャリイバン(L40V)」(1970年)。これは大阪万博の会場施設パトロール用に湯浅電池(現GS YUASA)と共同開発した電気自動車を復元したもの。 拡大
フロントと同じような「キャリイバン」のリアビュー。「ヨーロッパ調のスタイリング」と謳ったスタイリッシュなフォルムが特徴だったが、残念ながら市場の評判は芳しくなかった。同じ顔つきのトラックもあった。
フロントと同じような「キャリイバン」のリアビュー。「ヨーロッパ調のスタイリング」と謳ったスタイリッシュなフォルムが特徴だったが、残念ながら市場の評判は芳しくなかった。同じ顔つきのトラックもあった。 拡大
360cc軽最速を誇った「フロンテクーペ」(1971年)。水冷化され、空冷時代より扱いやすくなった2ストローク3気筒(37ps)エンジンを搭載。初期型は2シーターで、フロントフェンダーやボンネットをFRP製とするなど、マニアックな仕様だった。
360cc軽最速を誇った「フロンテクーペ」(1971年)。水冷化され、空冷時代より扱いやすくなった2ストローク3気筒(37ps)エンジンを搭載。初期型は2シーターで、フロントフェンダーやボンネットをFRP製とするなど、マニアックな仕様だった。 拡大
田沼 哲

田沼 哲

NAVI(エンスー新聞)でもお馴染みの自動車風俗ライター(エッチな風俗ではない)。 クルマのみならず、昭和30~40年代の映画、音楽にも詳しい。

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