ボルボC30/S40/V50 2.0e パワーシフト(FF/6AT)【試乗記】
走ってもリーズナブル 2009.05.11 試乗記 ボルボC30/S40/V50 2.0e パワーシフト(FF/6AT)……279.0万円/289.0万円/299.0万円
ボルボの新しいエントリーグレード「2.0e パワーシフト」は、燃費がジマン。500kmを超えるエコラン競走に参加してわかった、その実力は?
論より証拠
ツインクラッチ式のシーケンシャルトランスミッションをもつクルマと聞けば、スポーティなモデルを連想するのではないだろうか? しかし、ボルボの新しいC30/S40/V50の「2.0e パワーシフト」は、そんな先入観に反し、ごく普通の滑らかに変速する実用車的なチューンとなっている。
“普通”とはいうものの、その基本的なメカニズムゆえに、スポーティな運転も可能ではある。一方で、いまや世界的な努力目標であるエコロジーにもこのトランスミッションは貢献する。スポーティネスと経済性は、一見相反する要素のようであるが、効率という点において目指すところは一致するのだ。
今回ボルボは、これらパワーシフト搭載モデルを使って、メディア対抗の燃費競走を企画してくれた。競走とはいっても、そこは厳密に管理されたギリギリの攻防ではなく、いい意味でお遊び的な運営によるもの。今度のボルボのパワーシフトは、今までのトルコン式ATとはひと味もふた味も違う。だから大雑把なルールのなかでも、ということは普段使いに近い状況でも、こんなに良好な燃費を記録できるんだ、ということを一般に広く知らしめるのも狙いなのだ。
用意された車種はC30/S40/V50の3台で、各チームの乗車人数は、運転手、カメラマンに編集者を加えた3名。トータル511kmにおよぶコースは以下5つのステージに分けられ、ステージごとにテスト車をローテーションしつつエコラン競技が行われた。
1、都内から茨城県の日立北まで高速道路で160km(15.3km/リッター)
2、海沿いをひたちなか市まで一般道で45km(13.0km/リッター)
3、北関東自動車道で佐野SAまで高速道路で130km(18.0km/リッター)
4、50号、北関東道、関越道で東松山まで106km(17.4km/リッター)
5、関越道所沢から、ほぼ一般道で戻り70km(11.7km/リッター)
(カッコ内は満タン法による『webCG』チームの燃費値)
その間、写真撮影であるとかミスコースであるとか、チーム次第で距離が変わってくるなど完璧に公平な条件とはいい難いが、そこはご愛嬌。我々『webCG』チームはまずS40で出発、次に3台続けてV50、最後にC30という車順で試乗した。なお、競技そのものの順位は5チーム中の3位だった。
兄弟でも差が出る
結果は結果として、そのデータを解析してみよう。数字というものは、集計するだけでなくどう読むかで活かせるものなのだから。
当日走ったモデルごとに燃費を集計すると、C30の総平均が15.98km/リッター、同じくS40は15.35km/リッター、V50は3台の総平均で15.29km/リッター。どれもカタログ上の燃費は同じことになっているが、実際は車重が軽い方が有利、という当然の結果が出た。だからというわけでもなかろうが、C30での走行区間の長いチームが上位に入る傾向にあった。
我々がC30を手にしたのは最終ステージで、所沢インターから都心まで、一般道がメイン。国道256号線は上りで比較的空いていたとはいえ、ちょうど夕方の混雑時。信号の数も多くストップ&ゴーの連続で、我々の記録は11.7km/リッターと振るわなかった。
給油後、次のステージへ移る際に前のチームがミスコース。30分以上ロスしたあとでクルマを引き継いだというのもあるが……。
こうやって区間毎に見るとまた興味深い。各車の走行条件を全て細かに把握しているわけではないが、そのなかでも極端に差が出た区間を振り返ると、やはり写真撮影などに時間を費やした区間が目につく。信号待ちを含むUターンの連続で走行シーンを撮ったりしていては、燃費にいいわけがない。こうした観点からみると、飛ばす飛ばさぬ以前に、タイム的に短時間で到着するといい結果に結びついていることが多い。
いっぽう高速道路では、ゆっくりめに流し、トラックなどの大きなクルマの後についてスリップストリームを利用する、空気抵抗を減らすための工夫は有効だったようだ。
アドバンテージは、リッター2km
ともあれ、5台の総走行距離2555kmで、総消費量は165.56リッター、総平均燃費は15.4km/リッターという結果になった。これが2リッターの“オートマチックドライブ車”の燃費として上々なことは明白だ。私見ではあるが、これと同じ競走をもし旧型のトルコン式ATでやっていたならば、おそらく12〜13km台がいいところだろう。今度のパワーシフトによる向上ぶんはザックリ、少なくみてもリッターあたり2kmはカタイといえる。ちなみに、主催者が2.4リッターの直列5気筒に5段ATを組み合わせる「C30 2.4i SE R-DESIGN」で同じコースを試走したところ、そのトータル燃費は9.62km/リッターだったという。
トルクコンバーターを介さない、スリップロスが少ない構造は、燃費にイイ結果が出ることを証明できたわけだ。さらに、このトランスミッションの長所として、車種やドライビングによる燃費の差が比較的少ない点も挙げられよう。
パワーシフトATは言い方を変えれば、駆動系の伝達効率はMTとほぼ同じ。そしてクラッチペダルの無いAT車であるから、ドライブ感覚としては普通のトルコン式ATと同じ。さらに加速時にエンジンが無用に回転を上げないので騒音という観点からも静かなクルマである。
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そんな経済的な三兄弟でオススメの順序を付けるなら、一番はC30だ。軽快な走りに(4人でよければ)快適な空間、何といってもユニークなスタイリングが魅力。次点はS40で、セダンなりの落ち着き感と、このサイズ感がいい。横幅はS60やS80と比べても十分に広いのに、全長が短めゆえに取りまわしがいい。あまり数が出回らないボルボだけに独自性も得られる。
ただ、実際には圧倒的にワゴンのV50が売れているそうだ。昔のFRボルボや「850」などのFFボルボと比べても、空間の面では見劣りしないし、上のV70が大きくなり過ぎたせいか、いまやもっとも使いやすいボルボのワゴンである。でも個人的には普通過ぎるようにも感じられる。これをベースに、車高を上げた「XC50」とか、ハイルーフ仕様やモノスペース的なワゴンの登場を期待するのは欲張り過ぎだろうか? もちろん、それらのトランスミッションは、パワーシフトを望みたい。
(文=笹目二朗/写真=荒川正幸)

笹目 二朗
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