ホンダ・インサイト G(FF/CVT)【試乗記】
ホンダファンへのアピール 2009.04.08 試乗記 ホンダ・インサイト G(FF/CVT)……217万500円
ハイブリッドカーの人気は、クルマ好きのあいだでさえも今やスポーツカーのそれを上回る。「プリウス」vs「インサイト」の競争は、80年代における「セリカ」vs「プレリュード」といったところか? 追う立場のホンダは、独自のクルマ造りで巨人トヨタの牙城に挑む。
わかりやすさも魅力のひとつ
近ごろ珍しい大ヒットとなった、ホンダの新型バイブリッド乗用車「インサイト」。2009年2月6日の発売からわずか1カ月で、計画の3倍以上にもなる1万8000台が売れたのだから、最近の経済状況の中では快挙と言うしかない。
好評の理由は、まず値段にありそうだ。ハイブリッドの普通車として初めて200万円を切ったことが、新聞などマスコミでも大きく取り上げられた。トヨタ・プリウスの普及を横目に見ながら、「もう少し安ければ、ハイブリッドを買いたい」と思っていた人たちにとって、これは絶大な魅力に違いない。
でも、それだけが理由かというと、そうでもなさそうだ。いくら安いといっても「189万円から」であって、実際には200万円を超えるグレードの方がたくさん売れている。そこでほかのポイントを探すと、やはり世の中には根強いホンダ・ファンが多いことを忘れてはいけない。そんな人たちにとって、ハイブリッド専用デザインのクルマというのは嬉しいはず。初代インサイトも専用ボディだったが、2シーターだったし、当時はまだハイブリッドが手始めで選びにくかったのは事実だろう。
こんなに環境対策が重要になると、ハイブリッドなど次世代車に乗っているだけで「賢い人」に見える。その点ではシビックハイブリッドは、わかりにくいのが難点だった。新型インサイトは、時代の先端を突っ走る燃料電池車「FCXクラリティ」を連想させたりするあたりも、ホンダファンにとっては大きなアピールになるだろう。もちろん5ナンバーサイズであることも、取り回しの良さや駐車スペースなどの点で魅力に数えられる。
電動アシスト付きガソリン車(?)
もうひとつのポイントは、乗った感じがどこまでも「普通」であること。ここが現時点でのホンダ方式の特徴で、インサイトの場合、走行のほとんど全部を1.3リッターの88psガソリンエンジンが受け持って、14psのモーターはどこまでも縁の下の力持ちに徹している。静止から発進するにも、アクセルを踏むと同時にエンジンがブ〜ッと働いて、これまで長いこと親しんできたガソリン車と同じ感覚で行ける。予備知識がないまま乗ったら、信号待ちで自動的にアイドリングが停まったときに、初めてハイブリッドだとわかるかもしれない。
ここがプリウスと根本的に違う。プリウスの場合、発進は全面的にモーターが受け持つから、まるで電車みたいにス〜ッと出るし、走行中に加速しても、あまりアクセルを踏んでいないのに、見えない力で押し出される感触が濃い。もちろん搭載するモーターの出力もインサイトよりずっと大きく、そこに独特の近未来感が漂う。
でも、だからこそ違和感を拭いきれない人が少なくないのも事実で、そういうドライバーにとって、インサイトの「普通」感は嬉しい。うんと意地悪く言えば、ハイブリッドというより「電動アシスト付きガソリン車」という感じがする。そういえばコーナリングも、これまで慣れてきた感覚に非常に近い。プリウスは電子制御でドライバーの意思など関係なく、徹底的に安定したまま駆け抜けるのが特技だが、インサイトだと、ドライバーが主人公としてクルマを操っている実感がある。
頭上にご注意を
注目の燃費(レギュラーガソリン)は、カタログ上の数字ではプリウスの方が格段に良いし、実用面でもインサイトは追い付かない。でも、そんなに驚くほどの差ではなく、その時ごとの道路状況やドライバーの癖によるバラつきの方が大きそうだ。これまで何回かテストした経験では、普段の実用で最低でも18〜23km/リッターはマークした。
いずれにしても、普通のエンジンで出せる限界を超えている。それをスタンドで給油する時の量だけでなく、走りながら確認できるのも楽しい。インサイトのメーターの中に仕込まれたオンボードコンピューターでも、カーナビの画面から選べる車両情報モードでも、今どれぐらいの燃費で走っているか、これまでの平均はどれぐらいかなど、いろいろ表示させることができる。その経過が良いと、木の葉のマークが増えてクルマがドライバーを褒めてくれたりもする。つまり一種のゲーム感覚で付き合えるわけだ。
そんなインサイトにも、気になる点は少しある。まず、実用的なセダンとしては、後席の広々感が薄い。膝もそうだが、天井までの距離が最低限で、座高90cmを超える大柄の乗客にはキツいかも。髪が微妙に天井に触れるのは、想像以上にイラ立つものだ。これは、前席の真上を最も高くし、そこから滑らかに下降線を辿るスタイリング(空気抵抗を減らしやすい)のためだ。リアドア自体はCピラーに深く食い込んでいるので、乗り降りに際して頭の邪魔になるものはないが、鴨居が低いのは要注意。
それにしても、おもしろい時代になったものだ。ハイブリッドが是か非かという論議など昔のこと。今はどんなハイブリッドを選ぶかがテーマになった。そうしたなか、ホンダファンのツボを刺激する走りっぷりを、リーズナブルな価格で実現したインサイトは、なるほど購入層にとって強い説得力を持っている。走らせると、このクルマを選ぶことがもっとも手堅い選択肢のように思えてくるのは本当だ。
(文=熊倉重春/写真=荒川正幸)

熊倉 重春
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