アウディS3スポーツバック(4WD/6AT)【試乗記】
1台あれば、なんでもできる 2009.03.09 試乗記 アウディS3スポーツバック(4WD/6AT)……559.0万円
予想は覆された! 2009年2月2日より日本に導入されたアウディA3シリーズの最高性能版「S3スポーツバック」は、ド級のパフォーマンスだけでなく、プレミアムカーとしての資質も備えていたのだ。
ドイツ車、その値段の方程式
むむむ……。試乗の前日に「アウディS3スポーツバック」の資料を読みながら、真っ先に考えたのはお値段のこと。
「いやー、ナンボなんでも515万円は高すぎやしないでしょうか」
ガソリン直噴+ターボのTFSIユニットが256psを発生しようが、デュアルクラッチ式のSトロニックが電光石火のシフトを決めようが、クルマに興味のない人には同じクルマに見える「アウディA3スポーツバック 1.4T」(125ps)は299万円で買えるのだ。
自分はお金にセコいタイプなので、この2台の最高出力1psあたりのお値段を計算してみました。すると、「アウディA3 スポーツバック1.4TFSI」(299万円/125ps)は1psあたり2万3920円、いっぽう「アウディS3 スポーツバック」(515万円/256ps)は2万117円。ん? S3のほうがお買い得? もちろんクルマの値段は馬力だけで決まるわけではないから、これは一種の“数字遊び”だ。でもちょっと面白いので、もうしばらくお付き合いください。
同じように1psあたりで計算すると、「BMW320i」(434万円/156ps)は2万7820円、「BMW M3セダン」(976万円/420ps)は2万3238円。ベンツはどうかというと、「メルセデス・ベンツC200コンプレッサー」(440万円/184ps)が2万3913円で、超ド級の「メルセデス・ベンツC63 AMG」(1044万円/457ps)は2万2844円。
面白いのは、大体どのクルマも1psあたりのお値段が2万円台半ばから後半に収まっているという事実。ということはつまり、値段と馬力が比例するということになる。たくさん払えば払うほど速いクルマが手に入るということで、このあたりの感覚はアウトバーンのお国柄ゆえか。乱暴に書くと、100万円余分に支払うと50ps弱がプラスされることになる。吉野家の“特盛り”みたい。
てな数字を眺めていると、1psあたり2万117円の「アウディS3スポーツバック」が安いとは言わないまでも、そういう値付けもアリかと思う。ちなみに「レクサスIS F」(766万円/423ps)は1万8108円/psだから、この計算方法でいくと超お買い得である。
懐かしい音を響かせながら
格子状のラジエターグリルや、シルバーに輝くドアミラーなど、じっくり観察すればノーマルとは違う部分が見つかるけれど、「アウディS3スポーツバック」の外観は控え目だ。ルックスでこれ見よがしに高性能をアピールしないあたり、お利口さんに見える。ベースとなる「A3スポーツバック」のデザインが完成しているので、あえてごちゃごちゃ飾り立てる必要はないという判断かもしれない。
インテリアも「超高性能スポーツ」というより「お洒落プレミアム」。基本的にはブラックとシルバーの2色で統一しているのに汗臭くならないあたりは、インテリアデザインのレベルが高いのだろう。
エンジンをスタートするとクールなムードが一変、2本だしのマフラーからの少しくぐもった「ボボボボボ」という排気音が耳に届く。音量が大きいわけではないけれど、音質がちょっと懐かしい感じ。お洒落なバーで昔のハードロックを聴いているような、ってどんなたとえかわかりませんけれど、とにかく不思議な空間になる。
SトロニックをDレンジに入れて加速すると、「ボボボボボ」から濁点が外れて、「フォフォフォーン」とヌケのよい音に変わる。音質は変わるけれど、ちょっと懐かしい音質であることは変わらない。エグゾーストノートについてはちょっと演出がすぎるような気もするけれど、乗る人を喜ばせようという気持ちは伝わってくる。
面白いのは、巡航時やアクセルをじんわり踏んだ時には非常に静かになることだ。ヤル気の人にはスポーティに、静々と走りたい人にはお上品に、という、裏表のあるタイプとお見受けした。そしてこの裏表のある性質は、乗り心地やハンドリングでも同じだった。
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「アウディ マグネティックライド」はオススメ
まず、乗り心地はどんな場面でも抜群だ。ガッチリしたボディと自由自在に伸び縮みするサスペンションの組み合わせは、東男と京女のように理想的なカップリング。試乗車のサスペンションには、オプションの「アウディ マグネティックライド」が備わり、「ノーマル」と「スポーツ」をスイッチで切り替え可能だ。「ノーマル」では路面からのショックが丸くなり、コーナリングでは適度に傾く。いっぽう「スポーツ」では、クルマの姿勢変化が小さくなり、そのぶんやや鋭角的な衝撃が車内に伝わる。
ただし、「ノーマル」のセッティングでも一般的に言えば十分スポーティで、しなやかにロールさせながらコーナーをクリアするという、大人のコーナリングが堪能できる。したがって、「スポーツ」はひとりで高速をぶっ飛ばしたり山道を攻めるような場面専用で、あとは「ノーマル」が受け持つというイメージか。「アウディ マグネティックライド」は20万円のオプションだけど、このクルマの「ジキルとハイド」的性格をより明確にする装備なので、オススメです。
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サスペンションを「ノーマル」モードにしてアクセルをおとなしく踏む限り、「アウディS3スポーツバック」は静かで乗り心地がいい、優秀な執事みたいなクルマだ。自慢のデュアルクラッチ式トランスミッション「Sトロニック」は気配を消して、黙々と変速を繰り返す。
ところがひとたびアクセルを踏み込むと、乾いた快音とともにエンジンがシャープに回転を上げる。エンジンパワーの盛り上がりは自然で、レスポンスも良好。高性能ターボというよりも大排気量自然吸気エンジンの趣だ。そしてハルデックスカプリングを用いたクワトロシステムが、エンジンのパワーを一粒たりとも無駄にすることなく路面に叩きつける。「アウディS3スポーツバック」はセンが太くて濃厚でありながら、洗練された加速を見せる。
白鳥のようなコーナリング
ワインディングロードに足を踏み入れれば、懐の深いコーナリングを堪能できる。このクルマのコーナリングフォームは、いわゆる「シャープ」だとか「痛快」というものとはちょっと違う。硬い足でカッツンカッツン曲がるのとは違って、ある程度ロールしながらぺたーっとコーナーをクリアするフィーリング。優雅に泳ぐ白鳥が水面下では足をバタバタしているように、涼しげなコーナリングの影ではサスペンションが忙しく働いている気配が感じられる。
そしてブッ飛ばすような場面では、「Sトロニック」が神業のような素早いシフトを行う。ステアリングホイールの根元から生えたパドルでパタパタ操作してもいいし、シフトセレクターをコンコンと押したり引いたりしてもいい。エンジンにしろトランスミッションにしろサスペンションにしろ、高性能をコンパクトなボディにギュッと凝縮した感がある。そしてパフォーマンスが凝縮して濃厚になりつつも、クルマ全体の匂いがサラッとしているのがいかにもアウディらしい。
お葬式にも行けるぐらい控え目なカッコ、一張羅を着て乗っても嬉しいインテリア、取引先を乗せても安心な乗り心地、山道での無敵の速さ、さらにはタイヤを換えればスキー超特急。優秀な実用車的な性格と高性能スポーティカーのパフォーマンスが「2 in 1」したこのクルマには、“万能車”という呼び方がぴったりだ。もし実用車とスポーツカーの2台を買うとなれば、515万円ぐらいは軽く吹っ飛ぶわけですから。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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