ポルシェ・ボクスターS(MR/7AT)【海外試乗記】
旧型オーナーのため息が聞こえる 2009.02.09 試乗記 ポルシェ・ボクスターS(MR/7AT)「911」「ケイマン」に続き、オープンミドシップの「ボクスター」にも、ポルシェの新世代エンジン+トランスミッション搭載が完了。日本導入を前に、イタリアでその走りの進化を確かめた。
オリジナルポルシェのDNA
ポルシェというブランドを代表するモデルが、今でも「911」である事は疑いない。収益の多くを、SUVである「カイエン」が上げようとも、念願の4ドアモデルである「パナメーラ」がリリースされようとも、そんな新参者が「ポルシェの一員」として認められるのは911というモデルが培ってきた歴史と名声があればこそなのだ。
一方、そんなポルシェのヒストリーは、実はミドシップの2シーターオープンカーからスタートしたことも忘れる事はできない。1948年6月8日。戦火を逃れてオーストリア・グミュントへと疎開したポルシェ設計事務所が開発した「356プロトタイプ1号車」が誕生。パイプフレーム式ボディにVW製エンジンをミドマウントしたこのモデルこそ、“ポルシェ”の名を冠した第1号車だったのだ。
というわけで少々前置きが長くなったが、ようはそんな“オリジナルポルシェ”のDNAを受け継ぎ、現代へと翻訳をしたモデルであるというのが、1996年に初代「ボクスター」が誕生して以来の、ポルシェ社からの一貫したメッセージ。そして、2004年からリリースされている現行2代目ボクスターにも、新開発エンジンの搭載と、ティプトロニックからPDKへのトランスミッション変更というリファインが実施されるときがやってきた。
「カレラGT」にインスパイアされたかのようなレイアウトのヘッドライトを採用、前後バンパーを新デザインのアイテムに変更するとともにテールランプにはLEDを用いて……といったエクステリアのリファインは、兄弟車である「ケイマン」と同様のアプローチ。やはり同様に初採用となったベンチレーション機能付きシートというオプションアイテムは、オープンモデルであるボクスターでは、とくにありがたい新装備といえそうだ。
スポーツカーの常識を超える
イタリア・シシリー島で開催された国際試乗会に用意されたのは、3.4リッターの直噴エンジンを搭載したPDK仕様の、やはりオプションアイテムである電子制御の可変減衰力ダンパー「PASM」付きに限られた。排気量アップを図る代わりに、あえて直噴化が見送られたベースグレードや、MT、PASM無し仕様などにも触れてみたかったが、どうやらそこは、最も変わりしろの大きなモデルを試してほしいという、本社PRチームの親心(?)が働いているようだ。
そんな最新ボクスターで走り出してまず驚かされたのは、新エンジンが生み出す額面以上のパワーアップ感もさる事ながら、もはや極端と思えるほどにハイレベルなサスペンションの動きのしなやかさだった。
PASM付きであれば、従来型でもすでにそのフットワークの快適性には全く文句の付けようのなかったボクスター。が、それと比較をしても走り出した瞬間に感じられる、この新型のサスペンションの動きのスムーズさは、もはや「スポーツカーの常識を超えている」とさえ記してもオーバーではないほどだ。
「ハード走行時の空気圧過多を解消するとともに、快適性向上のためにもタイヤ内圧は下げたかった」との理由から、実際に標準の18インチ仕様では新スペックのタイヤを採用すると共に、後輪内圧を2割近くも下げるという変更を、サスペンションセッティングのリファインと同時に行った新型。そして、たしかにそうした効果は実際にもかなり大きく体感できる。ここまで乗り心地を意識しなくてもいいだろうに、と思えるくらい……。
ケイマンSより出力を抑えてはいるが……
一方で、そうした「脚の動きやすさ」が災いしてか、うねり路面などでは以前よりもボディの動き量が増したように感じられるシーンもあった。端的にいって、新しいボクスターに、より強いスポーツカーらしさを求める人にとっては、このあたりはあまり嬉しくない現象であると思う。もっともこのあたりは、やはりこちらのポジションを用いても快適性が格段に向上している「Sports」のモードを、センターパネル下段にあるPASMスイッチによって選択すれば解決できることではあるのだが。
ところで、そんな最新ボクスターに搭載される心臓は、よりピュアなスポーツカーとして位置づけられる兄弟車のケイマンに対する配慮からか、カムプロフィールの違いによって最高出力値が10ps抑えられた310psに設定されている。が、実際にはどうやらそれはあくまでもカタログ表記上で差をつけることを主眼としたものであるらしく、ほぼ同等の車両重量に10ps増しの心臓を積む「ケイマンS」との動力性能差は感じられなかった。いずれにしても言えるのは、従来型ユニットに比べると、パワー感もレスポンスも悔しいくらいに向上している、ということだ。
911やケイマンの場合と同様、ステアリングシフトスイッチのロジックには大いなる不満が残るものの、PDK制御の賢さ、滑らかさはもはや定評あるところ。というわけで、「新型が出るたびに、旧型オーナーはため息をつく……」という、いかにもポルシェらしいモデルチェンジを完了したのが、この最新ボクスターなのである。
(文=河村康彦/写真=ポルシェ・ジャパン)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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