フォルクスワーゲン・ゴルフ【海外試乗記】
歴史の扉は開くのか? 2008.10.30 試乗記 フォルクスワーゲン・ゴルフ世界の小型車のベンチマーク、「ゴルフ」の6世代目がデビュー。そのデザインや走り、変わったものと変わらぬもの。北の地アイスランドからのリポートをお届けする。
居心地の良い空間
わずか5年という短い周期でゴルフが新世代へと移行したのは、コスト高になり過ぎていた現行モデルを早く引っ込めて、台あたりの収益性をより高めたいからだと言われている。おそらく、それも理由の一つだろう。車体の基本骨格、いわゆるプラットフォームを継続使用しているのも、そう考えれば納得である。
しかし、だからといって新型ゴルフは、コストダウン主眼のビッグマイナーチェンジのような存在というわけではない。実際に見て、触れて、そして走らせてみれば、新しいゴルフが間違いなく長足の進化を果たしているということに気付くはずだ。
全長4199mm×全幅1779mm×全高1479mmというボディサイズは、現行型よりわずかに短く、幅広いが、プロポーションはほぼ一緒。しかし外観のテイストはガラリと変わった。シンプルな横バータイプのグリルを戴くフロントマスクをはじめ、全体に直線的でシンプル、水平基調とされ、上級志向で押し出し感を強めていた現行モデルに比べると、清廉で理知的ないかにもゴルフらしい雰囲気に仕上がっている。
室内のスペース自体は、ほぼ不変だ。しかし運転席に座っての印象は結構違っている。ダッシュボード上面とフロントウィンドウ下端高さとのズレを繋ぐ土手のようなディテールなど、現行型の煩雑な造形がスッキリまとめられ、景色が非常にクリアになっているのだ。全体の見映えや手の触れる部分の質感向上ぶりとあわせて、とても居心地の良い空間をつくり出しているのである。
しかしなにより印象的なのは、その走りだ。「あまり変わり映えはしないのでは……」という先入観は、嬉しい方向に裏切られた。
安心して飛ばせる
まずステアリングフィールが良い。現行ゴルフのそれは電動パワーステアリングとしては異例に違和感の少ない秀逸なものだが、新型はそこにさらにしっとりとした操舵感という“味”を加えている。
そして音。特殊な音響減衰フィルムを挟み込んだウィンドウなどによって、現行ゴルフの弱点である室内騒音がたしかに減じられているのだ。
乗り心地も素晴らしい。今回の試乗車は電子制御式減衰力可変ダンパーのDCCを装着していたが、その効果は絶大で、細かな段差やうねりをきれいにいなす、ひとクラス上の乗車感を獲得している。ノーマルサスペンションの仕上がりも気になるが、先に試した同じシャシーを用いる「シロッコ」での経験からすれば、方向性は近いはず。つまり、こちらも著しい進化を期待していいだろう。
しなやかな足まわりはフットワークの洗練にも繋がっている。これまでの高いスタビリティはそのままに、限界に至るまでの過渡領域でコントロール性が大いに高まっており、より自信をもって、安心して飛ばせるアシに仕上がっているのだ。
ガソリン仕様のパワートレインは、1.4リッターシングルチャージャーTSI(122ps)+7段DSGと、1.4リッターツインチャージャーTSI(160ps)+7段DSGのふたつを試すことができた。後者はゴルフヴァリアントなどですでに導入済みだが、エンジン内部までに相当な改良を施すことで、現行の170ps仕様に対して、一層の効率アップを実現している。7段DSGとの組み合わせで実現した燃費はEU混合モードで6.0リッター/100km(16.7km/リッター)と、なんと122psTSIと変わらない。
小型車の未来への架け橋
動力性能はもちろん160ps仕様に分があるが、7段DSGの恩恵もあって、実用域では122psでも不足を感じないのは現行モデルと同様だ。しかし、本当に惹かれたのは2.0TDI。コモンレール化された最新のディーゼルはトルクフルかつ滑らかで、走りがとても楽しい。なお、このTDIを含めて排ガスは全車EURO5対応である。
新型ゴルフ、たしかにプラットフォームは先代から継続使用しているが、試乗した後には、ここにきてやっと、その持てる力をフルに引き出せるようになったのかなという印象を抱いた。実は、開発コストの低減だけでなく、生産行程の効率化こそがコストダウンの一番の要因であり、決して安普請とされたわけではない。むしろ、その分はしっかり各部のクオリティアップに費やされている。
もちろんゴルフたるもの、小型車の未来を指し示すようなものであってほしかったという思いもある。しかしおそらくそれは、ヨーロッパで1台あたりの平均CO2排出量を120g以下とすることが義務づけられる2012年を迎えるまでには、なんらかの明示があるはずだ。新型ゴルフは、そこに向けての架け橋として、今後も新しいパワートレインの投入など様々な提案をしていくことになるだろう。つまり、これまでの集大成であると同時に、次の時代をリードする存在としての地歩を固めていくモデルでもあるということだ。
またもゴルフは新しい歴史の扉を開くことになるのか。注目の日本導入は来年夏頃の予定である。
(文=島下泰久/写真=フォルクスワーゲン・グループ・ジャパン)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。

































