ホンダ・レジェンド I(4WD/5AT)【試乗記】
青春を忘れられないオトナ達へ 2008.10.29 試乗記 ホンダ・レジェンド I(4WD/5AT)……749万円
トヨタ、ニッサンが優勢の高級セダン市場にあって、ホンダすなわち「レジェンド」の占める割合は低い。しかし、その数の違いがクルマの性能を見極める指標になるかというと、話は別だ。
いざとなれば喧嘩上等
あまり売れてないどころか、最近ほとんど生産休止状態だった「ホンダ・レジェンド」。このクラスでは法人需要が多く、トヨタとニッサンが圧倒的に支配しているから、おそらく今後も多くは売れないだろうが、数は問題ではない。これは夢見る青年集団ホンダの、技術の粋を凝縮したショールームなのだから。
2008年9月の初めに登場した新型レジェンドは、前後の見た目が少し変わったが、中身の性格は以前のまま。深く厚みのある天童木工製のパネルで縁取られたダッシュボードなど、上品な雰囲気にひたりながら走りだした途端、シャキッと硬質な走行感覚で驚かせるのがこのクルマの真骨頂だ。骨の髄まで走ることの大好きな開発陣が、「高級セダン作ります」と上司を騙して、思い切りスポーツセダンにこだわってしまったに違いない。
だからといって、峠で軽々しく暴れるような火の玉を想像しては、レジェンドの正体を見誤る。どこまでも高級セダンとしての佇まいを崩さず、常にどこでも、何事もなかったかのように涼しい顔で、しかも猛速で駆け抜けてしまえるところに本当の値打ちがあるからだ。
見た目まったく紳士なのに、いざとなれば喧嘩上等といったところか。その肝となるのが、自慢の「SH-AWD」(スーパーハンドリング・オールホイールドライブ)。最近とうとうBMWまで「X6」で採用したように、これからの高性能車では前後だけでなく左右のトルク配分(またはトルク移動)が技術的なトレンドになる気配が濃い。
とにかくよく曲がる
左右トルク配分機構を簡単に言うと、曲がりきれそうにないコーナーでも、外側の後輪だけ増速してやることにより、自然にクルマを内側に向けてやる装置のことだ。新型レジェンドでは、それが従来は2速からの作動だったのが1速から働くようになったが、普通の路面で乗るかぎり、その存在を明確に感じ取れることは皆無に近い。そもそも1速でそんな機能を発揮させるといえば、凍結路面で静止からステアリングを切ったまま急発進する時ぐらいだからだ。
それ以外では、SH-AWD機構はあくまで縁の下の力持ちに徹している。注意深く観察すれば、ヘアピンからの立ち上がりで全開にした瞬間など、本来なら強めのアンダーステアになるはずなのに、なぜかスルッと簡単に行けてしまうことによって、その存在を想像できるにすぎない。
ただし雪道だと、その御利益が身にしみる。曲がりきれずアクセルを戻したくなる場面でも、適当に踏むだけで事実上ニュートラルに近く、感覚としては軽くオーバーに転じたかと慌てるほど曲がってくれてしまうからだ。
正面の計器盤に埋め込まれたSH-AWDインジケーターを見ていると(実際には、コーナーでは切り込んだステアリングホイールに隠れて見えにくい)、前後左右の各輪に今どれぐらいパワーが配分されているか、4本の棒グラフが伸び縮みして教えてくれる。逆に言えば、それがなければわからない。むしろ感じさせないことこそが、メカニズムとしての完成度の証拠と言えるだろう。
ちょっぴりヤンチャ
ともあれ、そんな駆動制御のおかげで、VSA(横滑り抑制装置)などの介入を最小限に抑えたまま、エンジンの性能もフルに使い切れる。J35AからJ37Aへと型式名が変わったことからもわかるように、フロントに縦置きのV6シングルカム24バルブは排気量が3471ccから3664ccに拡大され、最高出力は300ps/6200rpmから309ps/6300rpmに、最大トルクは36kgm/5000rpmから37.7kgm/5000rpmに引き上げられた。
もともと余裕ある性能だから変更の差は実感できないが、どこから踏んでも気持ちよく応えてくれるあたり、言うに言われぬホンダのDNAを思わせるものはある。最近は変速機の段数の数字がファッションになっているが、これなら5段ATでも不足は感じない。
ステアリング部のパドルによるマニュアル操作(Sレンジを選ぶとオンになる)は、まあ退屈しのぎのための余興と見ておこう。学習機能を持つDレンジで充分だし、パドルがステアリングといっしょに回転するタイプなので、直進状態以外では操作しにくいのが欠点だ。
あと一つ疑問に思うのは、サスペンションの設定。コーナリングそのものは機敏だが、だからといって、基本的に少し固めすぎだろう。特に舗装の荒れた路面や段差などでは、高級ビッグセダンとは思えないほどドシンという上下動が絶えない。ここをススッとフラットに押しつぶして行ければ、さらに全体の雰囲気に似つかわしい走行感覚になるのに、とても惜しいと思う。これは最近のドイツ系高性能セダンにも見られる現象だが、これがスポーティというのは、やや素朴すぎるのではないだろうか。
そんな新型ホンダ・レジェンド、555〜665万円と高価(今回ここに登場する「I」は、さらにサンルーフやナイトビジョンなどオプションも付けて合計749万円)だが、セイシュンってやつを忘れられないYoung at Heartにとって、ある意味これ以上の相棒はないかもしれない。
(文=熊倉重春/写真=小河原認)

熊倉 重春
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