ルノー・トゥインゴ(FF/5AT)【試乗記】
一点だけ、曇りアリ 2008.10.08 試乗記 ルノー・トゥインゴ(FF/5AT)……198.0万円
1993年以来、14年の長きにわたって製造された「ルノー・トゥインゴ」がフルモデルチェンジ。お洒落なだけでなく実力も備えたフレンチコンパクトであるけれど、「一点の曇りナシ」というわけにはいかなかった……。
のび太からスネ夫へ
以前にちらっと写真で見た新型「ルノー・トゥインゴ」は、先代とはまったく別のクルマに思えた。先代が丸メガネの「のび太」だとすれば、新型はイヂワル顔の「スネ夫」。本気で中古を探すくらい先代トゥインゴが好きだったので、写真を見ながら「俺の好きだったトゥインゴは終わったんだ」と、ちょっと寂しくなった。
けれども、試乗会会場で間近に見て、乗って、走ってみると、トゥインゴは終わっちゃいなかった。新型もしっかりとトゥインゴらしさを継承しているのだ。まずは先代と同じように円をモチーフとした意匠の中に配置されたドアノブをカチャッと上に上げてドアを開ける。
シートのサイズはそれほど大きくない、というかむしろ小さめ。それなのにお尻から腰、そして背中にかけてをほっこりと包み込む、不思議な掛け心地は健在だ。これはトゥインゴらしさというよりも、ルノーらしさと言うべきか。
のび太からスネ夫に変わった外観と同じくらい、インテリアもイメチェンを図った。先代の内装は、色も形もFrancfrancでも売っている雑貨小物みたいにポップで楽しいものだったけれど、新型はちゃんと(?)自動車っぽくなっている。少しドライバー側に角度が付いたセンターメーターや、ステアリングホイールの奥に配置されたタコメーターなどでちょこっと遊びつつ、ブラック&グレーをベースにした配色で無難にまとめている。
正直、乗り込んだ瞬間に陽気な気分になった先代のインテリアを懐かしく思い出したわけですが、いろいろと試してみると「おっ、いいじゃん」という方向にコロッと傾いた。
ある時はリムジン、ある時は荷役車
まずは後席。シートをスライドさせたり、バックレストのリクライニングを調整することで、この小さなボディから想像できないほど広々として快適な後席スペースが生まれるのはトゥインゴの伝統通り。
220mmものスライド量がある後席を一番後ろに動かし、25度から35度の間で5段階にリクライニングできるバックレストを好みの角度にセットすると、身長180cmの自分でも足を組んでリラックスできる。
レバーを操作して後席をハネ上げると、今度はだだっ広い荷室が出現する。ちなみに後席のスライドやハネ上げは左右それぞれ独立して行うことができる。だから後席で足が組める4名乗車のリムジン(!)、3名乗車のちょっと荷物が積める実用車、2名乗車の荷役車と、いろいろな形で活躍する。
新型車の発表会や試乗会に行くと必ず「多様なライフスタイルに対応しました」みたいなフレーズが出てくる。こんなに小さなサイズであるけれど、トゥインゴもまた1台で様々なライフスタイルに対応するクルマだ。
と、ここまで書いたのに、まだ1mも走っていないことに気付いた。ま、それだけ解説のしがいがあるユーティリティということでお許しください。
イグニッションキーをひねると、先代(の後期モデル)からキャリーオーバーする1.2リッターの直列4気筒SOHCユニットがポロロンと可愛く目覚めた。特に静かでもスイートでもないかわりに、トルクは充分といういかにも実用車然としたエンジンフィールは先代と同じだった。
いっぽう、ほわっと軽くてスイートな、メレンゲみたいな乗り心地には心を奪われる。シャシーは先代「ルノー・クリオ」(日本でのルーテシア)をベースに、重心を下げるなどの改良を施したものだという。乗り心地といいハンドリングといい、素性がいいという印象を受ける。
味わい深い乗り心地とコーナリング
街中での乗り心地もまずまずだけれど、真価を発揮するのは60〜70km/h以上。東京で乗るなら、空いた首都高速ぐらいの速度域から上が得意分野だ。
これくらいのスピードで道路のうねりや凸凹を突破すると、4本の脚が一所懸命に伸びたり縮んだりしていることがドライバーに伝わってくる。サスペンションが忙しく働きつつボディはフラットな姿勢を保つという、ルノー独特の“グルーブ感”を堪能する。
パワーステアリングはかなり軽い設定で、低いスピードで走っているといわゆる“遊び”をかなり感じるセッティング。だから少し安っぽいというか、少なくとも走り出してしばらくはハンドリングには期待を抱くことができない。
ところがどっこい、速度を上げてコーナーに進入すると、ステアリングホイールの手応えがしっとり確実なものに激変。かなりロールしつつも、4本のタイヤは粘っこく路面をとらえて放さないから、自信を持ってコーナリングできる。このベターっとコーナーをクリアする感じは、カツンカツンと曲がるスポーツカーとは違う意味で楽しめる。自分も含めたフランス車好きは、こういう独特の感触に病みつきになってしまう。
と、いいことだらけのような新型トゥインゴではあるけれど、ひとつ気になる点がある。
「帯に短し、たすきに長し」のトランスミッション
愉快な相棒になってくれそうなトゥインゴにあって、残念なのは「クイックシフト5」という名称のトランスミッションだ。これは2ペダルのロボタイズドMTで、MTの構造を採りつつ、クラッチ操作と変速が電子制御されるというもの。
セレクターレバーを操作することで、A(オートマチックモード)とM(マニュアルモード)を選ぶことができる。Aを選ぶと、たとえば加速したいときにアクセルを踏んでも反応が鈍くてイライラ。しばらく反応がなくて、感覚的には1.5秒くらい経ってからシフトダウンして加速する感じ。ちょっと昔のクルマみたいだ。
交差点など、アクセルをそーっと踏んでスピードをコントロールするような場面でギアの選択を迷う優柔不断な動きをみせることも気になる。はっきり決めなさい!
Mモードを選ぶと状況はかなり改善して、シフトダウンでは不満を感じない。シフトアップも、シフトする瞬間にアクセルペダルを戻すというコツをつかめばスムーズだ。けれど、これはATにしか乗ったことのない人にはややハードルが高い裏技。いっぽう、MTに慣れ親しんだ人だったら、そんな手間をかけるならいっそのことフツーの5MTでいいじゃないかと考えるだろう。
だから「クイックシフト5」は、ビギナーやAT免許のドライバーが乗りこなすにはクセがあるし、フランス車好きや運転好きにはちょっとモノ足りない。思い浮かぶのは「帯に短し、たすきに長し」という言葉だ。ハードコアなフランス車好きは、5MTを備える「トゥインゴGT」を選べばいいって話なのかもしれませんが、“常連さん”だけに客層を絞るのももったいない。このクルマは“一見さん”を含めた幅広い層の支持が得られると思うのだ。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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