ポルシェ911カレラS(RR/7AT)/カレラカブリオレ(RR/7AT)【海外試乗記】
衝撃のマイナーチェンジ 2008.07.04 試乗記 ポルシェ911カレラS(RR/7AT)/カレラカブリオレ(RR/7AT)デビューから4年を経てマイナーチェンをうけた「911カレラ」。新エンジンとデュアル・クラッチ・トランスミッションの採用で大きく進化した次世代911を試す。
完全な新設計
エンジンの直噴化に加え、「PDK(ポルシェ・ドッペルクップルング)」と呼称されるデュアル・クラッチ・トランスミッション(DCT)の新採用……と、ここまでは事前に入手していた情報通り。現行の997型911がデビュー4年後にして行った“ビッグマイナーチェンジ”のメニューは、この2つに象徴される「はずだった」のだ。
ところが、試乗会前日にドイツのバイザッハ研究所で行われた技術説明会で、その詳細を聞かされ驚いた。「湿式ツインクラッチを用いたZF社製の7段ユニット」というPDKの仕様は予想した通りだが、これまでの3.6/3.8リッターユニットをベースにそのヘッド部分を直噴化、というエンジン部分に関する予想については、その根本部分で軌道修正を余儀なくされた。
というのも、排気量が3.6リッターと3.8リッターの2本建てというのは従来と同様だが、“エンジン本体”は完全なる新設計! 「もしかしたら、ビスくらいには従来型との共用品があるかも知れないけれど、その他はすべてオールニュー」というのが、開発を担当したエンジニアその人のコメントなのである。
なにしろ2タイプのこの新ユニットは、そのそれぞれが従来型と異なるボア×ストローク値を採る(従って、総排気量も以前とは微妙に異なる)。さらに、その組み立てまでもがツッフェンハウゼンの工場に新設されるラインで行われるという。
従来の「911」や「ボクスター/ケイマン」用とは全く別の新ラインで組み立てられるエンジンは、その工程に必要とされる作業時間が1割ほど短縮されているとのこと。これはすなわち、この新しい心臓が様々な合理化によって、これまで以上の利益をポルシェ社にもたらさんことをも示唆している。
潤沢な資金を元に活発な設備投資を行い、さらなる利益を生み出す仕組みを創造する――今回の新エンジンに関する様々な内容は、このメーカーがそんなサイクルの真っ只中にあることを示してもいるわけだ。
拡大
|
拡大
|
拡大
|
ポルシェ独自のデュアル・クラッチ・トランスミッション
今回のマイチェンでは、LED式デイランニングライトや同じくLED式のリアコンビネーションランプの新採用といった“化粧直し”もあるが、詳細については各専門誌に任せ(?)早速走り出すことにしよう。
試乗会に用意されたのは、「カレラ/カレラSクーペ」と同じくカブリオレの各モデル。4WDシリーズはわずかに遅れてのリリースとなり、「GT2」や「GT3」、ターボといった“ハードコア”系モデルは、まだマイナーチェンジ自体が報告されていない。
前述のように、マイナーチェンジメニューの“大ネタ”のひとつが「PDK」にあるので、大半のテスト車両が「PDK」装備車で、一部MTという状態だった。
まずは3.6リッターカブリオレのPDKモデルで走り出す。エンジンフィール以前に感心させられたのは、PDKの微低速での「マナーの良さ」だった。
同じ2ペダルMTのフォルクスワーゲンの“DSG”や「日産GT-R」の“デュアル・クラッチ・トランスミッション”、「三菱ランサーエボリューション」の“TC-SST”など、この種のトランスミッションがこれまで最も苦手としていたのがこの領域。
わずかにアクセルペダルを踏み込んだだけなのに飛び出し気味にスタートしたり、渋滞の最中、ギクシャクした動きが不快だったりと、“微妙な動き”を滑らかにこなしにくいのがウィークポイントだったのだ。
ところがPDKはこのあたりを、トルコンAT車と較べてもハンディキャップなしにこなしているのだ。
実は、オプション設定の“スポーツクロノパッケージプラス”をチョイスすると、多少のシフトショックは覚悟の上で「究極的に素早いシフト」が手に入れられるといった選択肢もあるものの、常用シーンでは従来の“ティプトロニックS”に全く見劣りしないスムーズな走りを実現させてくれるのは望外ですらあった。
MTモデルもあるけれど
一方で、PDKは、MTと殆ど同等という1〜6速のギアの上に、100km/h時に1750rpmという“クルージングギア”としての第7速目を用意。緩加速状態であればすでに70km/h付近でそこにシフトされるから「燃費は確実にMT以上」という理屈もある。
実は、そんなPDKの担当エンジニア氏から「もはやMTにメリットはない」というちょっと衝撃的な言葉も聞くことに。新型にもMTの設定があるのはそこに機能面でのメリットがあるからではなく、「それでも欲しい人がいるから」と、単にそれだけの理由であるというのだ……。
ところで、そんな最新の911に積まれる2種類のエンジンを比べれば、より強力なのは当然3.8リッターユニットのほう。だが、今回のテストドライブでより大きな感動を受けたのは、実は3.6リッターモデルのほうであった。
PDK仕様車同士の比較で、0→100km/h加速タイムはカレラの4.9秒に対してカレラSは4.7秒とわずかの差。ただし、これが0→200km/h加速になると17.2秒に対し15.7秒となり、やはり「両車の差」は厳然と存在していることがわかる。
けれども、体感上で言うとむしろ5500rpm付近からパワーがググンと伸びる感じの3.6リッターユニットのほうが、むしろスポーツカーらしいエモーションに富んでいると、感じられたのだ。従来型との差で言うと、「200km/h超からの加速が圧倒的に速い」のが新型3.6リッターという印象だ。
ちなみに、こうして「完全ニュー」を謳う新型の両エンジンだが、そのサウンドは従来型に対してそう大きくは変わっていない感触。が、あえていえばここでも従来は明確だった3.6と3.8リッターユニット間の差が、随分と縮まったように思えた。
こうして、パワーパックを一新という“衝撃のマイナーチェンジ”が実施されたのが最新の911カレラ/カレラSシリーズ。これだから、ポルシェにはどこまでいっても「一体いつ買えばいいのか?」という悩みが尽きないのだ。
(文=河村康彦/写真=ポルシェジャパン)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】 2026.6.2 かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.6.1 「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。
-
トヨタRAV4 GRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】 2026.5.30 新型「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッド車ではEV走行換算距離が約150kmにまで到達。もちろん電池容量の拡大によるところも大きいが、何よりも最新のハイブリッドシステムによる効率向上が効いている。「GRスポーツ」をドライブした印象をリポートする。
-
キャデラック・リリックV(4WD)【試乗記】 2026.5.29 キャデラック初の電気自動車(BEV)「リリック」に、最高出力646PSのハイパフォーマンスモデル「リリックV」が登場。“ブランド史上最速”をうたう豪速SUVだが、実際に乗ってみると、高い動力性能がもたらすゆとりや心地よさにも魅力を感じる一台となっていた。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD)【試乗記】 2026.5.28 前衛を身上とするフランスのラグジュアリーブランド、DSオートモビルから、新たなハイエンドモデル「DS N°8(ナンバーエイト)」が登場。当代屈指の性能を誇る電気自動車であり、かの地では大統領専用車にも選ばれる一台の、独創の魅力に触れた。
-
NEW
第290回:商用バンで砂漠を行く親子が向かうのは天国か地獄か 『シラート』
2026.6.4読んでますカー、観てますカー失踪した娘を探して親子はモロッコの砂漠へ。砂漠で開催されていたレイブパーティーが最高潮に達した頃、軍隊がやってきて中止させられる。親子が乗るFFの商用バンは次のパーティー会場にたどり着けるのか……。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(前編)
2026.6.4あの多田哲哉の自動車放談ひさびさに日本市場に戻ってきた、ホンダを代表するSUV「CR-V」。最新世代の仕上がりを、トヨタの車両開発者だった多田哲哉さんはどう評価する? まずは、ワインディングロードを走らせた第一印象から。 -
NEW
第964回:フィアットグッズのコレクターから学ぶ人生訓
2026.6.4マッキナ あらモーダ!イタリア在住の大矢アキオが、トリノで著名なフィアットグッズのコレクターを取材。若き日の苦労を経て大成した人物が語る、人生で大切なものとは? フィアットやイタリアの歴史を物語る、貴重なコレクションの数々とともに紹介する。 -
NEW
気づけばすでに4モデル スバルのBEV戦略と水平対向エンジンの未来を考える
2026.6.4デイリーコラム「ソルテラ」に続き、「トレイルシーカー」「アンチャーテッド」「ゲッタウェイ」と、いつの間にか4モデルが顔をそろえたスバルのBEV。伝統的な水平対向エンジンやシンメトリカルAWDはこの先どうなるのか? スバルの未来戦略を探る。 -
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。





























