日産ティアナ250XV(FF/CVT)/350XV(FF/CVT)【試乗速報】
アジアに向けて、「OMOTENASHI」 2008.06.20 試乗記 日産ティアナ250XV(FF/CVT)/350XV(FF/CVT)……335万4750円/425万7750円
“モダンリビング”路線の嚆矢である「ティアナ」がフルモデルチェンジされ、2代目となった。路線継続を謳いつつも、新たなテーマとして付け加えられたのが「OMOTENASHI(おもてなし)」である。アジア市場を狙う戦略車は、どう変わったのか。
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微妙な軌道修正か
「シルフィ」や「ティーダ」へと波及していった“モダンリビング”路線は、新しい「ティアナ」にも受け継がれているらしい。ただ、新しいテーマも加わった。MODERNに加えてアピールポイントとなっているのが、RELAXとOMOTENASHI(おもてなし)である。モダンでスタイリッシュな生活というのは、見栄えはいいが、いささか疲れる。心地よさを求めてほどほどの快適空間を目指すという、微妙な軌道修正を仕掛けたということだろうか。
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さて、ここで問題です。
Q1 先代ティアナは日本で累計10万7000台を販売したが、中国市場では何台売れたか?
a 約1万6000台
b 約3万6000台
c 約6万6000台
d 約16万6000台
Q2 新型ティアナのワールドプレミアは、どのモーターショーが舞台となったか?
a ジュネーブ
b デトロイト
c 東京
d 北京
Q3 アピールポイントのひとつである「OMOTENASHI」に当てはまらないのはどれか?
a 助手席オットマン
b スタイリッシュガラスルーフ
c BOSE社サウンドシステム
d エクストロニックCVT
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Q4 次のうち、すべてのグレードで標準装備となっているものはどれか?
a VDC
b SRSカーテンエアバッグシステム
c バックビューモニター
d インテリジェントキー
高級感は中華風味?
「CAR検」ティアナ・バージョンとして出題してみた。正解は、すべて「d」である。Q1とQ2から見て取れるのは、このモデルは必ずしも日本人ユーザーに向けては作られていないということ。40か国で販売されるグローバルモデルなのだ。今となっては、日本ではメインストリームではなくなったセダンという車型の宿命ともいえる。ティアナの場合、販売の中心となるのはアジアであり、中でも中国が圧倒的だ。高級感あるセダンが人気という特徴を持つマーケットに向けて、入念に戦略が練られているのだ。
だからといって日本を軽視したということではなく、たとえば全幅を1800mm以内に収めたところなどは、こだわった点だという。一見して、やはり大きくなったな、と感じる。モデルチェンジでサイズが拡大するのは決まり事のようになってしまっているが、ずいぶんご立派になった。これも高級感を求める中国を意識してのことかもしれないが、ギリギリ踏みとどまったというところだ。「クラウン」だって1800mmを死守しているのだから、ここは妥協してほしくないポイントである。
ガタイが大きくなった分、ボティの見切りをよくし、最小回転半径もわずかに小さくした、との説明があった。でも、撮影のためにクルマを動かしてみると、ものすごく扱いやすい、とは残念ながら思えなかった。試乗会が行われたのは河口湖近くで、狭く曲がりくねった山林の道を通らねばならない。悪いことに、何度も土砂を運搬するダンプとすれ違うハメになったが、これはそれほどストレスなくこなすことができた。ということは、運転している中での取り回しについては悪くなかったと言えるのだろう。
OMOTENASHIポイントは、プラスアルファ程度に考えればいいだろう。特にオットマンは、先代のときも感じたのだが、さして快適な装備とは思えなかった。足の置き場が見当たらずに困惑する。ガラスルーフは、後席にいる限りは気分がいいと言える。ただし、引き換えに30kgほどの重量物が天井に付け加わることを忘れてはいけない。
おもてなしは、CVT、シートにも
Q3にあるように、エクストロニックCVTはRELAXに分類されているわけだが、これだって立派なおもてなし装備だとも考えられる。スムーズさは比類のないもので、上質感、高級感を醸し出している。アクセルペダルを床まで踏めば、十分な加速をもたらしてくれる。従来のCVTとどれだけ違うのかは直接比較したわけではないのでなんとも言えないが、CVTの技術が熟成されてきたことは確かなようだ。2.5リッターと3.5リッターのモデルを乗り比べてみて、印象が良かったのははっきりと2.5リッターである。CVTとのマッチングはこちらに分があるようだったし、なにより軽快感が気分を高揚させる。なぜか、ボディも一回り小さく感じられ、クルマとの一体感を持つことができた。
特筆すべきは、新たに採用された3層構造のシートである。低反発ウレタンの効用で、運転席に座った瞬間に沈み込む感覚が心地よい。そして、少し沈んだところで緩やかに静止し、絶妙な浮遊感がある。サイドには堅い素材が使われているのでホールド性には問題がなく、包み込まれている気分は悪くない。長時間の運転には向いていそうだ。リアシートはさらに柔らかな感触で、下手なソファよりもくつろげる。ショールームで試しに座ってみる人には、即効性のあるアピールになるのではないか。耐久性については少し心配になるが、こればかりは判断がつかない。
Q4の選択肢の「a」、つまりVDCは不正解。350XV以外では、標準装備ではないのだ。予防安全だって大事なおもてなしなんじゃないかと思うのだが、優先順位は高くないのだろうか。レクサスだっておもてなしをテーマにしていたわけで、これは日本車が誇るべき文化に発展させることができる要素なのかもしれない。だとすれば、おもてなしという思想はもっと深まっていく可能性を秘めているのだ。MOTTAINAIに続いてOMOTENASHIを国際語に! というぐらいの気概を持つならば、まだまだ突き詰めていく課題はあるだろう。
セダンとしての基本的な出来は悪くないのだ。広くアジアに向けて、手本を示すためには、さらに理想を高く持ってほしい。
(文=別冊単行本編集室・鈴木真人/写真=峰昌宏)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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