日産ジューク 15RXアーバンセレクション(FF/CVT)【試乗記】
街中だけじゃもったいない 2012.01.24 試乗記 日産ジューク 15RXアーバンセレクション(FF/CVT)……243万750円
オーテックジャパンが手がける「ジューク アーバンセレクション」。ローダウンサスを採用した、都市生活者向けモデルを試す。
日本で一番売れているSUV
ある国産SUVの試乗会でエンジニアに話をうかがっていたら、悲しそうな顔で嘆くのだ。
「小学生の息子がいるんですが、学校の授業で好きなクルマの絵を描けという課題で、私が開発に関わったこのモデルを選んでくれなかったんです……」息子さんが描いたのは、「日産ジューク」だったのだという。世界中で売れている端正なルックスの正統派より異端のフォルムを上に置いたのだ。父親としては、さぞや無念だったろう。
しかし、日本のSUVで今一番売れているのは、確かにジュークである。このクルマをSUVと言ってしまっていいのかも難しいところで、日産のホームページのカーラインナップでは「コンパクトカー」と「SUV」の2つのジャンルに登録されている。
ウケている理由は、もちろんこの大胆なデザインにあるのだろう。「デザインの日産」と言われて久しいが、時にこのメーカーはむちゃにも見える冒険をする。先代「マーチ」が登場した時も、当時はコンパクトカーの文法から逸脱した印象が強く、経営危機にあった日産の致命傷になるのではないかと案じた向きも多かった。それが、女性にも「カワイイ」と評され、ベストセラーカーになった。中村史郎率いる日産デザインチームには、異形すれすれの方向に未知のデザイン要素を見いだす嗅覚が発達しているようだ。
それを十分承知した上で言えば、正直なところ僕自身はジュークのフォルムにはなかなか慣れることができなかった。全盛期の朝青龍を思わせる下半身の盛り上がりが怖くもあったし、ほかのクルマとは明らかに違うバランスのせいで見ていると遠近感がおかしくなってしまう。
都市生活者のためのローダウン仕様
いわばマイナスの地点からの試乗だったのだが、乗り始めてすぐに印象が好転していくのを感じた。スポーツカーとSUVのクロスオーバーという触れ込みは聞きあきたフレーズだなあと侮っていたのに、本当にスポーティーだったのだ。エンジンは自然吸気の1.5リッター直4で、生み出されるパワーは114psにすぎない。それでも、アクセルペダルとエンジンが直結しているかのようなダイレクト感が爽快だ。重量が1170kgと思いのほか軽いこともあり、加速は十分でしかも静かだ。
今回試乗したのは、「アーバンセレクション」と銘打ったカスタマイズモデルだ。手がけたのはオーテックジャパンで、都市生活者に向けて開発したそうだ。パワートレインに変更はなく、ガンメタリック塗装のフロントグリルやエキゾーストフィニッシャーなどでドレスアップされている。
最も大きなカスタマイズは、専用サスペンションの採用によるローダウンだ。ベース車の全高1565mmから15mm下げて1550mmにしている。ささいな違いのようだが、これで高さ制限を1550mmとしていることの多い機械式立体駐車場を利用可能となる。繁華街では駐車場の選択肢が限られることも多く、都市住民にとっての利便性は確かに高まっているわけだ。
ローダウンに加えてノーマルより1インチ大きい17インチホイールを採用しているせいか、乗り心地が快適とは言いがたい。街中で道路工事の跡に差し掛かると、結構な振動に襲われる。ただ、それでもボディーの頑丈さはたいしたもので、全身が堅固なカタマリとなって、揺らぐ気配を見せない。
ジュークには190psの1.6リッターターボエンジンを積む「16GT」もあり、十分な余力を残している。それどころか、欧州日産は「GT-R」のエンジンを移植した「Juke-R」なるモンスターを作ってしまった。その気持ちもわからないではないと思わせる素性のいいボディーなのだ。
背高グルマのアドバンテージ
都市で走らせているだけではもったいないので、箱根路に持ち込んだ。ジュークのインストゥルメントパネルの中央には「ノーマル」「スポーツ」「エコ」の3つのスイッチがあり、ドライブモードを切り替えることができる。エンジンレスポンスやCVTの設定を変えられるのだ。市街地ではノーマルモードを選んでいたが、山道ではスポーツモードの出番である。
モード切り替えの効果はてきめんで、はっきりとレスポンスが向上し、エンジンが高回転まできっちり回って力強さを増す。CVTの存在を忘れてしまうくらい、自然なフィールである。コーナーでのロールはほとんど感じないレベルで、なにしろ思った通りのラインで曲がっていくから気分がいい。動きはスポーツカーなのに視点はSUVの高さというのが、タイトなコーナーが続く山道では大きなアドバンテージとなる。
ワインディングロードでの楽しさは、想像をはるかに超えていた。適度なサイズ、ボディー剛性の高さがもたらすキビキビ感があり、それでいて背高グルマである。そのことが新しいスポーティーさを作り出しているのだ。アーバンセレクションなどと気取っているが、都市を飛び出してこそ真価を発揮するクルマだ。
走りは、大いに楽しんだ。でも実のところ、ジュークのデザインにはまだなじめないでいる。アタマじゃわかっても、カラダがついていかないのだ。しかし、自分の偏狭な感覚を基準にして悪口を言うつもりはない。やみくもに変化を拒絶していては、若い人の新しい小説がわからずに捨てぜりふを吐いて芥川賞選考委員を辞した老作家のようなみっともないことになる。このカタチでこの走りというところに未来はあるんだろう。旧世代としては、わからないなりに全力で応援することにしよう。
(文=鈴木真人/写真=峰昌宏)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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