第66回:カーナビ実用テスト(最終回):信じて走れば、渋滞知らず!
2008.04.19 エディターから一言第66回:カーナビ実用テスト(最終回):信じて走れば、渋滞知らず!
前2回のテストリポートは、カロッツェリア・サイバーナビ AVIC-XH099の新機能説明だけになってしまったが、いよいよ走り出してのインプレッションである。今回は基本性能に加えて、本題でもあるスマートループの実力を試してみた。同時に、予想外に好印象だった音楽再生機能も紹介しよう。
見直した基本性能
カーナビは地図の見やすさが要である。サイバーナビシリーズの地図表示はいつ見ても落ち着くのだが、これは自分だけの印象ではないと思う。他のカーナビと比べるとその理由がよくわかる。
他社のものは、縮尺を変えるだけでまったく別の地図にデザインごと切り替わってしまうような印象を受けるものが多いが、カロッツェリアは、どの縮尺で見ても同じトーンが保たれるのである。しかも、どれもが紙地図のテイストを有している。これらは使う側に非常に安心感を与えるものなので、今さらではあるが評価するにあたり重要項目なので冒頭にとりあげた。
もうひとつのサイバーナビの美点は、自車マークの反応がすこぶるよいことである。他社のナビのすべてがそうだというわけではないが、実際のクルマの動きに対してナビの自車マークが遅れて反応しているように思えることがよくある。
たとえば、クルマは交差点を曲がりきっているのに、ナビの自車マークはまだ交差点の手前にあるというケースだ。まさか軌跡のズレを生じさせないためにクルマの動きを確めているわけでもないだろうが、この遅れはけっこう気になる。
その点、サイバーナビはリアルタイムとはいかないもののその差はごく小さい。舵を切れば自車マークもスッと動いてまことに気分のいいものである。この優れた追随性があるから、曲がるべき地点で「右です」といったジャスト案内をするのが可能なのだろう。このあたりは以前から感心していた部分だが、久々に体験すると改めてその高性能ぶりに驚かされる。
走って試したスマートループ
さて、ここからは気になる新機能について。
これまでのサイバーナビとまったく異なるのが渋滞情報の表示だ。今回の実用テストでは、携帯電話をBluetoothでつないで、積極的にスマートループを活用しようというのが最大の目的。
スマートループ機能の中で最もわかりやすいのが、VICS提供範囲外でも渋滞情報が取得できることだ。走り出して、いくらもしないうちに表示された。
左上の写真を見ていただこう。実線と点線の渋滞表示が見えるが、実線はVICSが提供した情報で、点線のほうがスマートループ独自の「特別情報」である。これは同じスマートループ仲間が最短7分前にサーバーに上げた情報で、VICSだけでは知り得ない情報なのである。VICS情報は路上に設置された交通量感知センサーによって渋滞度合いを測るが(一般道の場合)、スマートループは実際走行したクルマの走行データを利用するので、幅広い情報提供が可能なのだ。
走行データとは、すなわち車速である。車速情報をもとに、その道はスムーズなのか混雑しているのか、渋滞なのかをサーバ側で判断してデータを送信している。
ではVICSとスマートループの表示はどちらが優先されるのかというと、原則最新のほうである。写真でも左下に取得時間が表示されているが、9時5分のFM-VICS(Fで表示)の情報が一番新しいから、この渋滞表示はVICSから得たもの、ということになる。しかし点線で示されたスマートループによる渋滞情報が表示されているのは、VICSの提供範囲外の情報だから残されているのである。
なんともややこしい仕組みだが、使う側はすべてを理解する必要はない。早い話、自分が渋滞に遭わなければなんでもよいわけだ。
サイバーナビの渋滞回避性能が優れているかどうか。これまでの走行テストでは、信頼度がかなり高いと言っていい。それはルート探索をさせればよくわかる。H099のルート探索はスマートループ情報に基づいた最短ルートを案内するので、刻一刻と変わる渋滞をナビのほうで自動的に回避してくれるのだ。時々、思わぬルートを案内することがある。えー、うそだろうと、それに逆らって別のルートを進んでいくと、その先で渋滞に遭遇することが、ままあるのだ。言われるとおりに進んでいればよかったと思ったのは、一度や二度ではない。
とはいっても100%とも言い切れない。渋滞情報はいくらフレッシュといっても、7分前のものでしかないからだ。今後はこのライムラグをいかに縮められるかが課題だろう。
望外の驚き、音がいい
新型になってすべてが改善されたかというと、そうともいえない部分もある。
一つはルート探索させた時に表示される目的地までの所要時間が、ずいぶんと多めに表示するようになったことだ。
数年前のサイバーナビでは60kmくらい先に目的地を置いた時でさえ、ほぼ正確な時間を示して心底驚いたものだが、近年のサイバーは安全を見越してか非常にペシミスティックになり、以前と同じルートでも多くサバを読んでしまうのだ。道中、時間が短縮されていくのを見るのは悪い気持ちがしないが、できれば最初から正確なほうがいい。かつてはそれができていたのに、最新機でできないのは合点がいかない。スマートループや渋滞予測データ、改良を重ねたアルゴリズムで先を読む機能は大幅に進化しているのだから、正確な所要時間でそのメリットを存分に感じさせてほしいものだ。
ただし、改善を要求すれば応えてくれるのもパイオニアの良心。以前から走行すると必ずズレる箇所があり、意見を言い続けたことがあった。具体的には、首都高速内回り・芝公園のアプローチ道路で必ず道を外していたのだが、H099ではまったくズレることがなくなった。地図データに誤りがあったのが原因ということだが、そういう箇所は全国にいくつもあるだろう。もし読者の中で発見した方がいらっしゃれば、ぜひ『webCG』までお知らせいただきたい。当方で確認できれば、改善要求を出すつもりである。
ナビ機能ではないが、うれしい驚きがあったので最後に報告しておこう。
ミュージックサーバー(MSV)の音のクオリティが予想以上によかったのである。かつてのMSVはMP3だったが、先代モデルから音質のよいATRAC3に変更されたので、自前のオーディオシステムにつないで試してみたわけである。聴き慣れたオーディオ環境で試すことで、機器の実力がよくわかる。
つなぎ方は簡単。ヘッドユニットのAUX端子にMSVの出力をつなぐだけ。そうすることで純粋にプレーヤーとしての評価ができる。ATRAC3はMP3より高音質といっても音楽データを圧縮していることに変わりはないが、出てくる音はそうとは感じさせないクリアさなのだ。低域や高域成分も通常聴きには不満はない。もちろん聴き込めばCDより“感動成分”が足りないとは感じるが、及第点ははるかに超えている。これまでナビのオーディオ機能は敬遠してきたが、質の高いオーディオシステムとつなげばここまで満足できる音が楽しめるなんて!
さまざまな機能をハイレベルで実現するカロッツェリアH099には脱帽するしかない。
(終わり)
(文=尾沢英彦(『カーナビの達人』編集長))

尾澤 英彦
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