スバル・レガシィ ボクサーディーゼル【海外試乗記】
想像以上のデキ 2008.02.01 試乗記 スバル・レガシィ ボクサーディーゼル開発に3年をかけて、ようやく登場するスバル製「ボクサーディーゼル」。スバルは、乗用車として世界初搭載となる水平対向ディーゼルのプレス試乗会を開催した。
ガソリンユニットとの違い
結論から先に言えば、このボクサーディーゼル、デキ映えは期待以上のものだった。まさか水平対向とディーゼルがこんなに相性が良いだなんて、想像すらしていなかったというのが本音である。
スバルが量産車用として世界で初めて世に問う2リッター水平対向4気筒ディーゼルユニット=ボクサーディーゼルは、当然「レガシィ」をはじめとするスバルの既存のラインナップに搭載できるよう開発されたものである。ヨーロッパでシェア50%を超えたディーゼルエンジンを是が非でも手に入れたかったスバルだが、水平対向専用のエンジンベイには直列4気筒は載らないため、他社に供給を頼むことはできない。やるなら自前で用意するしかなかったのだ。
果たして3年の開発期間を経て姿を現したそれは、既存のガソリンユニットとは、まるで別物の内容を持っていた。
たとえばボア×ストロークはガソリンの「EJ20」の92.0mm×75.0mmから86.0mm×86.0mmへとスクエア化され、燃焼室のコンパクト化を可能にするとともに、ボアピッチを詰めたことによってエンジン全長自体も実に61.3mmも短縮されている。これはブロック自体の補強と合わせてディーゼルエンジンに求められる高剛性化に貢献するものだ。
しかし単にストロークを伸ばすと、水平対向の場合はエンジンの全幅が広がってしまうため、ボクサーディーゼルはピストン高を削りシリンダーヘッドも薄く設計することでギリギリでエンジンルームに収めている。これまで水平対向エンジンはショートストロークにならざるを得ないと思っていたが、実はまだこうした余地は残されていたわけである。
驚きのCO2排出量
コモンレールシステムは噴射圧1800barのデンソー製。ターボチャージャーはIHI製の可変ノズル式で、排ガス後処理装置としては酸化触媒とDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルター)が装着されている。
ここから導き出されたスペックは、最高出力150ps/3600rpm、最大トルク35.7kgm/1800rpmというもの。燃費はEU混合モードで5.6リッター/100km、CO2排出量は148g/kmだ。
まず驚かされたのが、このCO2排出量の少なさである。たとえば定評ある「ホンダ・アコード」の2.2リッターディーゼルはこれが143g/km。レガシィはフルタイム4WDで1km当たり5gは不利というから、つまりエンジン自体はほぼ同等の数値を叩き出していると言える。
ひとつの要因として、こんなことが挙げられる。水平対向エンジンは、向かい合う2つのシリンダー同士が振動を打ち消し合うため、吹け上がりが滑らかというのはよく知られているが、実はこのボクサーディーゼルは、そのメリットを活かしてバランスシャフトを使っていない。こうすれば単純にフリクションロスは低減され、燃費を向上させることになる。冒頭に書いた水平対向とディーゼルの相性の良さとは、たとえばそんな話である。
水平対向だからできること
走りのフィーリングも魅力的だ。印象的なのは低回転域での充実したトルク。アイドリング近辺こそ心細さはあるが、1800rpmで既に最大トルクを発生すると、2500rpm辺りまでその値をキープし、力強く背中を押し出してくれる。
組み合わされる5段MTは、5速100km/hで約1900rpmというギア比なので、つまり100km/hから先での伸びが気持ちよい。しかも、バランスシャフトなどなくても回転上昇はスムーズで、踏んでいけば4500rpm超まで気持ち良く上り詰める。しかも、ただ回るだけでなくそこにスポーティな表情があるのが良い。6気筒ならともかく、4気筒でここまで上質感とキャラクター性をもったディーゼルは、ヨーロッパにだってなかなかない。これも水平対向だからこそ獲得できたものだろう。
このボクサーディーゼル、最初はレガシィに積まれて春にもヨーロッパ市場で販売を開始する。排ガスは現在ユーロ4に対応するのみだが、将来的には6段MTや現在のオープン式に代わるエンジンマネージメント協調型のDPFなどを得てユーロ5にも対応する予定だ。
一方、排ガス規制の問題があるしATの用意もないことから、現状では日本導入は難しそうである。しかし、そのスポーティなキャラクターは「フォレスター」や「インプレッサ」あたりとの組み合わせならば、MTでも十分訴求できる気もする。
いずれにせよ、今年からディーゼル市場が再び盛り上がりを見せはじめたとしたら、状況は急速に変化するはず。ここは大いに期待して待つことにしたい。
(文=島下泰久/写真=富士重工業)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
BMW 220dグランクーペMスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.9.29 「BMW 2シリーズ グランクーペ」がフルモデルチェンジ。新型を端的に表現するならば「正常進化」がふさわしい。絶妙なボディーサイズはそのままに、最新の装備類によって機能面では大幅なステップアップを果たしている。2リッターディーゼルモデルを試す。
-
ビモータKB4RC(6MT)【レビュー】 2025.9.27 イタリアに居を構えるハンドメイドのバイクメーカー、ビモータ。彼らの手になるネイキッドスポーツが「KB4RC」だ。ミドル級の軽量コンパクトな車体に、リッタークラスのエンジンを積んだ一台は、刺激的な走りと独創の美を併せ持つマシンに仕上がっていた。
-
アウディRS e-tron GTパフォーマンス(4WD)【試乗記】 2025.9.26 大幅な改良を受けた「アウディe-tron GT」のなかでも、とくに高い性能を誇る「RS e-tron GTパフォーマンス」に試乗。アウディとポルシェの合作であるハイパフォーマンスな電気自動車は、さらにアグレッシブに、かつ洗練されたモデルに進化していた。
-
ボルボEX30ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2025.9.24 ボルボのフル電動SUV「EX30」のラインナップに、高性能4WDモデル「EX30ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」が追加設定された。「ポルシェ911」に迫るという加速力や、ブラッシュアップされたパワートレインの仕上がりをワインディングロードで確かめた。
-
マクラーレン750Sスパイダー(MR/7AT)/アルトゥーラ(MR/8AT)/GTS(MR/7AT)【試乗記】 2025.9.23 晩夏の軽井沢でマクラーレンの高性能スポーツモデル「750S」「アルトゥーラ」「GTS」に一挙試乗。乗ればキャラクターの違いがわかる、ていねいなつくり分けに感嘆するとともに、変革の時を迎えたブランドの未来に思いをはせた。
-
NEW
第846回:氷上性能にさらなる磨きをかけた横浜ゴムの最新スタッドレスタイヤ「アイスガード8」を試す
2025.10.1エディターから一言横浜ゴムが2025年9月に発売した新型スタッドレスタイヤ「アイスガード8」は、冬用タイヤの新技術コンセプト「冬テック」を用いた氷上性能の向上が注目のポイント。革新的と紹介されるその実力を、ひと足先に冬の北海道で確かめた。 -
NEW
メルセデス・ベンツGLE450d 4MATICスポーツ コア(ISG)(4WD/9AT)【試乗記】
2025.10.1試乗記「メルセデス・ベンツGLE」の3リッターディーゼルモデルに、仕様を吟味して価格を抑えた新グレード「GLE450d 4MATICスポーツ コア」が登場。お値段1379万円の“お値打ち仕様”に納得感はあるか? 実車に触れ、他のグレードと比較して考えた。 -
NEW
第86回:激論! IAAモビリティー(前編) ―メルセデス・ベンツとBMWが示した未来のカーデザインに物申す―
2025.10.1カーデザイン曼荼羅ドイツで開催された、欧州最大規模の自動車ショー「IAAモビリティー2025」。そこで示された未来の自動車のカタチを、壇上を飾るニューモデルやコンセプトカーの数々を、私たちはどう受け止めればいいのか? 有識者と、欧州カーデザインの今とこれからを考えた。 -
NEW
18年の「日産GT-R」はまだひよっこ!? ご長寿のスポーツカーを考える
2025.10.1デイリーコラム2025年夏に最後の一台が工場出荷された「日産GT-R」。モデルライフが18年と聞くと驚くが、実はスポーツカーの世界にはにわかには信じられないほどご長寿のモデルが多数存在している。それらを紹介するとともに、長寿になった理由を検証する。 -
NEW
数字が車名になっているクルマ特集
2025.10.1日刊!名車列伝過去のクルマを振り返ると、しゃれたペットネームではなく、数字を車名に採用しているモデルがたくさんあります。今月は、さまざまなメーカー/ブランドの“数字車名車”を日替わりで紹介します。 -
カタログ燃費と実燃費に差が出てしまうのはなぜか?
2025.9.30あの多田哲哉のクルマQ&Aカタログに記載されているクルマの燃費と、実際に公道を運転した際の燃費とでは、前者のほうが“いい値”になることが多い。このような差は、どうして生じてしまうのか? 元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんに聞いた。