フィアット・パンダ100HP(FF/6MT)【試乗記】
悩みどころ 2008.01.23 試乗記 フィアット・パンダ100HP(FF/6MT)……207万円
「フィアット・パンダ」の限定スポーティモデル「100HP」。1.4リッターエンジンを搭載し、車名の通り100psを発生するイタリアンハッチに試乗した。
待望のFFマニュアルモデル
以前、「パンダ4×4」の試乗記に、「個人的には、前輪駆動でいいからマニュアルギアボックスで、スカイドーム付き/ルーフレール無し(これなら立体駐車場もOK!)モデルがあったら“買い”なんだけどなぁ」と書いた私にとって、この「パンダ100HP」はまさに待望のモデルである。
コンパクトカー王国の日本とはいえ、洒落た雰囲気のクルマを探すなら、ラテンのインポートブランドは外せない。「フィアット・パンダ」もそんな一台なのだが、日本に送り込まれてくるのはいわゆる2ペダルMT仕様ばかり(パンダ4×4はコンベンショナルな5MT)。圧倒的にオートマチック比率の高い市場だから、ATを用意してくれるだけでもありがたいと思うべきなのだろう。でも、私のように「マニュアルで乗りたい!」と思う“現役マニュアルドライバー”が、少数ながら存在するのはたしかだ。
そんな少数派にとって、このパンダ100HPは思わず食指が動いてしまいそうな愉しげなクルマだ。軽快なFFモデルに6段MTが組み合わされるだけでもうれしいのに、エンジンは60psの1.2リッターから、文字どおり100psの1.4リッターに格上げされるのだから、期待せずにはいられない。
実車を目の前にすると、さらに期待は高まる。試乗車が“ルンバレッド”と呼ばれる鮮やかな赤だったせいもあって、ブラックの大型フロントグリルやディフューザー風のリアバンパー、サイドスカート一体型のフェンダーアーチなどが、精悍なエクステリアを際だたせる。ルーフレールが取り払われ、全高が1520mmに抑えられたのも、スポーティな雰囲気づくりに貢献している。惜しいのは、屋根にルーフレールの取り付け穴が残るのと、スカイドームの設定がないことくらいだ。
楽しめる加速感
室内は、専用のスポーツシートやレザーステアリングがドライバーの気持ちを高めてくれる。ダッシュボードのデザインは他のモデルと大差はないが、質感はそこそこでも、巧みにレイアウトされたエアベントやスイッチ類などを見たら、「さすがイタリア車!」と頷いてしまった。
さっそくエンジンを始動して街中へ。インパネから突き出たシフトレバーは握りやすい位置にあり、少し重たいクラッチも慣れれば苦にならない。低い回転でクラッチをつないでやると、発進はやや頼りないけれど、2000rpmを超えたあたりからはトルクが厚みを増し、不満のない加速を見せてくれる。
センタークラスターの「SPORT」スイッチはパンダ100HPならではの装備だ。スイッチの操作で走行モード、具体的にはスロットル特性とパワーステアリングのアシスト量を切り替えることができる。SPORTモードをONにすると明らかにエンジンのレスポンスがアップ。この際、パワーステアリングのアシストが少なくなり、ステアリングのダイレクト感が増すのも見逃せない。
100psエンジンが本領を発揮するのは4000rpmの手前から。ややガサついたエンジン音がさらにボリュームを増すのとあわせて盛り上がりを見せ、レッドゾーンが始まる6500rpmまでとても活発な印象だ。1020kgの車両重量に対して100psのパワーだから、実際の加速は高が知れるが、“加速感”は存分に楽しむことができた。
乗り心地に難あり
ベーシックモデルが155/80R13のタイヤを履くのに対し、このパンダ100HPは195/45R15へ2インチアップ、サスペンションも硬い設定になるおかげで、その動きはきびきびとしているが、これと引き換えに失ったものは大きい。
乗り心地は明らかに硬く、街乗りではひょこひょこと落ち着かない動きに見舞われる。路面の凹凸も伝えがちで、お世辞にも快適とはいえないのだ。スピードが上がれば多少マシになるとはいえ、フラットさとはほど遠く、乗るたびにこれに耐えなければならないのかと考えるとブルーになる。
高々100psのエンジンには過剰に感じた足まわりのスポーティさ。そのくらいわかりやすい味付けにしないと売りにくいという事情もわからなくはないが、試乗して二の足を踏む人は案外多いのではないか? かといって限定車でもないかぎり、FFのマニュアルモデルが望めないパンダの現状を考えると、マニュアルを諦めるか、乗り心地を我慢するか? 私には辛い選択だが、「少しくらいハードな乗り心地でもへっちゃら」という強者には“あばたもえくぼ”なのかもしれない。
(文=生方聡/写真=荒川正幸)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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