スズキ・スイフトRS(FF/5MT)【試乗記】
欧風をうたうなら…… 2012.02.07 試乗記 スズキ・スイフトRS(FF/5MT)……145万4250円
ノーマルモデルより引き締まった、欧州仕様と同様の足まわりを持つ特別仕様車「スイフトRS」。“欧州並み”は、日本の道でも魅力的に映るのか?
「RS」とは何の略?
編集部から「次は『スイフトRS』というモデルの試乗を……」と言われ、一瞬、ほう「スイフトスポーツ」が出たばかりだが、RSということはさらにスポーティーなモデルが出たのかと思った。
「レンシュポルト」の略か、それとも普通に「レーシングスポーツ」か、まさか「ロードセーリング」(古っ!)ということはないだろう。いずれにせよ、試乗にも気合が入るな……などと考えながら詳細を尋ねたら、「いやノーマルモデルをベースにヨーロッパ仕様の足を組み込んだ若干スポーティーなモデルです」と言われ、結構ガクッときた。あまり気軽にRSとか使わないでほしい。ホントはすごいキーワードだから。
その数日後に対面。普通の「スイフト」より少しアグレッシブな外観かな……と思わせるが、毎日スイフトのことばかり考えているわけではないのでよくわからなかった。実際には、前後バンパーにほんのりとエアロパーツが付くなど、見た目はノーマルモデルと多少異なる程度。個人的には、スイフトは要素が多すぎずキレイなスタイルなので、スイフトスポーツでさえもノーマルの姿のまま出してほしかったと思っている。なので、RSの中途半端なコスメティックもあまり好きになれない。
手慣れたエンジンセッティング
乗り込んだ瞬間に感じるのはシートの出来のよさ。色はグレーとシルバーのツートーンと営業車のようだし、決して高そうな表皮ではなく、要するに見た目は安っぽいのだけれど、座り心地は快適だ。サイズが大きめで体全体をしっかりとサポートしてくれる。まさか鈴木修会長が「シートなんて座ったら見えないんだから、安い素材を使って、座り心地だけしっかりしろ!」と言ったわけではないだろうが、見た目はバケット形状でカッコいいけれど、座ると全然しっくりこないシートよりずっといい。
そのシートに腰を落ち着けて前を向くと、眼前に広がるのはほぼ黒のダークグレー1色のインパネまわり。味気ない。ただ、エアコンやオーディオのスイッチはどれも大きく、位置も適切で操作しやすい。つまり、室内はどこも見た目はイマイチだが、実用性は高い。スズキらしいではないか。
搭載されるエンジンは、ノーマルモデルと同じ1.2リッター直4DOHCの可変バルブタイミング機構付き。最高出力91ps/6000rpm、最大トルク12.0kgm/4800rpmと、コンパクトカーのなかでも控えめなスペックだ。だが、クルマはスペックではわからないもので、走ってみると非常にパワフル……なんてことはなく、スペックから想像する通りの力強さにすぎなかった。
ただし、このクルマは車重が970kgしかないため、非力と感じることはなく、燃費(10・15モード21.0km/リッター)を稼ぎつつパワー不足を感じさせないためのうまいセッティングをついていると思う。試乗車は5MT仕様だったため、エンジンのおいしいところを探しながら左手を忙しく動かすのは楽しい作業だ。
エアロパーツの前にESPを
ノーマルモデルとの足まわりの違いはこのクルマの最大の特徴で、日本仕様とは減衰力の異なるダンパーが採用されている。昔風に言うと「エンジンよりも速いシャシー」と言うのだろうが、ダンピングの効いた、コシのある乗り心地を味わえる。うどんで言うと讃岐かな?
舗装のよい山道をこのクルマで走ると楽しいのだろう。が、硬すぎるということはないものの、硬いのは確かなので、走るのは街中が9割という人はノーマルを選んだほうがいいかもしれない。ステアリングアシストのチューニングも、この足まわりと釣り合いのとれたセッティングになっていて、重めといえば重めだ。
一点、納得がいかないのは、「足が欧州仕様!」とうたうにもかかわらず、欧州仕様には備わる横滑り防止装置「ESP」が装備されていないこと。日本の消費者の意識だと横滑り防止装置の有無が販売台数に影響することはないのかもしれない。その分、安いほうが喜ばれるのかもしれない。
でもやっぱり法律がないと装備しないという姿勢は尊敬できない。この点をもって、多少走りが楽しかろうが、なんだろうが、筆者はRSを推すわけにいかない。エアロパーツの前に横滑り防止装置を。スイフトを選ぶなら、横滑り防止装置のついたグレードを選ぶべき。ちなみに、横滑り防止装置は日本でも今年10月以降に発売するクルマには義務化されるが、それより前に発売されたクルマについては、2014年9月末まで装備しなくても販売を継続できる。その期限まで待つことなく、なるはやで標準装備にしてほしい。
(文=塩見智/写真=菊池貴之)

塩見 智
-
メルセデス・ベンツGLA200d 4MATICアーバンスターズ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.12.22 メルセデス・ベンツのコンパクトSUV「GLA」に、充実装備の「アーバンスターズ」が登場。現行GLAとしは、恐らくこれが最終型。まさに集大成となるのだろうが、その仕上がりはどれほどのものか? ディーゼル四駆の「GLA200d 4MATIC」で確かめた。
-
フォルクスワーゲンTロックTDI 4MOTION Rライン ブラックスタイル(4WD/7AT)【試乗記】 2025.12.20 冬の九州・宮崎で、アップデートされた最新世代のディーゼルターボエンジン「2.0 TDI」を積む「フォルクスワーゲンTロック」に試乗。混雑する市街地やアップダウンの激しい海沿いのワインディングロード、そして高速道路まで、南国の地を巡った走りの印象と燃費を報告する。
-
フェラーリ・アマルフィ(FR/8AT)【海外試乗記】 2025.12.19 フェラーリが「グランドツアラーを進化させたスポーツカー」とアピールする、新型FRモデル「アマルフィ」。見た目は先代にあたる「ローマ」とよく似ているが、肝心の中身はどうか? ポルトガルでの初乗りの印象を報告する。
-
ホンダN-ONE e:G(FWD)【試乗記】 2025.12.17 「ホンダN-ONE e:」の一充電走行距離(WLTCモード)は295kmとされている。額面どおりに走れないのは当然ながら、電気自動車にとっては過酷な時期である真冬のロングドライブではどれくらいが目安になるのだろうか。「e:G」グレードの仕上がりとともにリポートする。
-
スバル・クロストレック ツーリング ウィルダネスエディション(4WD/CVT)【試乗記】 2025.12.16 これは、“本気仕様”の日本導入を前にした、観測気球なのか? スバルが数量限定・期間限定で販売した「クロストレック ウィルダネスエディション」に試乗。その強烈なアピアランスと、存外にスマートな走りをリポートする。
-
NEW
病院で出会った天使に感謝 今尾直樹の私的10大ニュース2025
2025.12.24デイリーコラム旧車にも新車にも感動した2025年。思いもかけぬことから電気自動車の未来に不安を覚えた2025年。病院で出会った天使に「人生捨てたもんじゃない」と思った2025年。そしてあらためてトヨタのすごさを思い知った2025年。今尾直樹が私的10大ニュースを発表! -
NEW
第97回:僕たちはいつからマツダのコンセプトカーに冷めてしまったのか
2025.12.24カーデザイン曼荼羅2台のコンセプトモデルを通し、いよいよ未来の「魂動デザイン」を見せてくれたマツダ。しかしイマイチ、私たちは以前のようには興奮できないのである。あまりに美しいマツダのショーカーに、私たちが冷めてしまった理由とは? カーデザインの識者と考えた。 -
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(FF)【試乗記】
2025.12.23試乗記ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」に新グレードの「RS」が登場。スポーティーなモデルにのみ与えられてきたホンダ伝統のネーミングだが、果たしてその仕上がりはどうか。FWDモデルの仕上がりをリポートする。 -
同じプラットフォームでも、車種ごとに乗り味が違うのはなぜか?
2025.12.23あの多田哲哉のクルマQ&A同じプラットフォームを使って開発したクルマ同士でも、車種ごとに乗り味や運転感覚が異なるのはなぜか? その違いを決定づける要素について、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
クルマ泥棒を撲滅できるか!? トヨタとKINTOの新セキュリティーシステムにかかる期待と課題
2025.12.22デイリーコラム横行する車両盗難を根絶すべく、新たなセキュリティーシステムを提案するトヨタとKINTO。満を持して発売されたそれらのアイテムは、われわれの愛車を確実に守ってくれるのか? 注目すべき機能と課題についてリポートする。 -
メルセデス・ベンツGLA200d 4MATICアーバンスターズ(4WD/8AT)【試乗記】
2025.12.22試乗記メルセデス・ベンツのコンパクトSUV「GLA」に、充実装備の「アーバンスターズ」が登場。現行GLAとしは、恐らくこれが最終型。まさに集大成となるのだろうが、その仕上がりはどれほどのものか? ディーゼル四駆の「GLA200d 4MATIC」で確かめた。





































