ホンダCR-V 20G(FF/CVT)【試乗記】
ココロもカラダもひろびろ 2012.02.15 試乗記 ホンダCR-V 20G(FF/CVT)……283万円
4代目に進化したホンダのSUV「CR-V」に試乗。その乗り心地や使い勝手を、ベーシックな2リッターモデルでチェックした。
ガイシャの風情が味わえる
「トヨタRAV4」と並ぶ国産ライトクロカンの草分けが、4代目に移行した。「ホンダCR-V」である。
ヒットした初代モデルは国内メインだったが、3代目からは米国市場を強く意識するクルマになった。乗る人が減って、内需だけでは合わなくなっちゃったのだから仕方ない、と言えば後ろ向きで、そういうクルマはガイシャのつもりで乗り、外車テイストを積極的に味わうのが前向きだと思う。グローバルスタンダード化された日本車の新しい楽しみ方だ。
新型「CR-V」は、猫背のテールゲートがまずアメリカンだ。顔を大きく見せる3本ラインのフロントグリルは、“押し出し”がものを言う中国市場で受けそうだ。
運転席に乗って驚いたのは、高いアイポイントである。このクラスのライトクロカンとしては最もビッグフットな高さを感じさせる。
ボディーサイズは先代とほとんど変わらない。1820mmの全幅は同寸、全長と全高はむしろ3cm小さくなっているのに、室内寸法は75mm広がり、225mmも延びた。ミニバンの広さを狙ったといううたい文句にウソはなく、定員5名の車内は大変ルーミーだ。それやこれやで、“ガタイ”のよさはライトクロカンというよりもグランドクロカンである。
しかし、品ぞろえはコンパクトになった。2リッターのFF(248万円)と2.4リッターの4WD(275万円)の2グレードのみ。試乗したのはパワーユニットが新しくなった2リッターモデルである。
意外に軽い身のこなし
2リッターモデルの新エンジンは、ストリームやステップワゴンにも使われている150psのi-VTECだ。変速機も旧型の5段ATからトルクコンバーター付きのCVTに換わった。このパワーユニットが車重1460kgのライトクロカンに果たしていかがなものかといえば、まったくもって十分である。
この日、たまたま同時に走らせたのが「スバル・インプレッサS206」だったのだが、もちろん絶対的な速さでは歯が立たないとはいえ、走りだしや加速し始めの軽快“感”はCR-Vのほうが勝っていた。造りは大きくても、走りは意外や軽やかなのが新型CR-Vのいいところである。
もうひとつ、新型2リッターモデルのアピールポイントは燃費で、同排気量SUVクラストップの燃費をうたう。今回、渋滞路から高速道路、ワインディングロードまでひととおり走った約300kmの区間で、9.7km/リッター(満タン法)を記録した。こういうクルマがざっとリッター10km走れば、まずまずだろうか。
最近のホンダ車はどれも乗り心地がいいが、このクルマも例外ではない。サスペンションが柔らかいわけではないが、ワイシャツの一番上のボタンを外したようなゆったりした乗り心地だ。アメリカンといえばアメリカンだが、そこは日本製だから、ユルさがほどよい。ハーレータイプのホンダのバイクみたいなものである。
すみずみまで親切
運転席の見晴らしのよさは先述したが、ドライビングポジションの調整シロが大きいのも特徴だ。座面のハイトアジャスターは高低の幅が異例に大きい。ステアリングは、1本のレバーをリリースすると、チルト角とリーチの両方が調節可能だ。このクラスでステアリングシャフトの伸縮機構を持つクルマは珍しい。
ライトクロカンふうセダンとして高い居住性を誇る一方、荷車としても優秀だ。荷室容量は、5名乗車の平常時でも589リッター。ガソリン満タン10回分、なんて言ってもピンとこないが、論より証拠、テールゲートを開ければギャッとタマげるほど荷室は深く、広い。低床プラットフォームのたまもので、開口部の地上高66cmはクラス随一の低さだという。
荷室の側壁にあるレバーを引くと、バネの力で後席ヘッドレストがカクンと折れ、そのまま背もたれ全体も勝手に前に倒れて、たちまちフラットな最大荷室(1146リッター)が生まれる。座布団5枚くらいあげたい秀逸な仕掛けだ。見ていても楽しい。面倒くさかったり、操作力が重かったりすると、どんなにけっこうなシートアレンジも結局、使われない。
そういえば昔、ドイツ製ステーションワゴンのクソ重い後席背もたれレバーを引っ張って、ツメをはがしかけたことがあった。その点これは、使いたくなるシート/荷室アレンジだ。
新型CR-Vはそんな親切を随所に感じさせる背高5ドアハッチバックである。わずかな経験でも使いやすさを実感できた。ボディーのキャラクターは、ライトクロカン派のなかでも、荷物の積載能力に重きを置きたい人向きだ。4WDがほしいとなると、2.4リッターを選ばざるを得ないのが欠点だ。2リッターエンジンでチカラは十分、かつ燃費もいいのだから、4WDもそろえてほしい。
(文=下野康史/写真=峰昌宏)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
NEW
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】
2025.10.17試乗記「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。 -
NEW
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する
2025.10.17デイリーコラム改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。 -
アウディQ5 TDIクワトロ150kWアドバンスト(4WD/7AT)【試乗記】
2025.10.16試乗記今やアウディの基幹車種の一台となっているミドルサイズSUV「Q5」が、新型にフルモデルチェンジ。新たな車台と新たなハイブリッドシステムを得た3代目は、過去のモデルからいかなる進化を遂げているのか? 4WDのディーゼルエンジン搭載車で確かめた。 -
第932回:参加者9000人! レトロ自転車イベントが教えてくれるもの
2025.10.16マッキナ あらモーダ!イタリア・シエナで9000人もの愛好家が集うレトロ自転車の走行会「Eroica(エロイカ)」が開催された。未舗装路も走るこの過酷なイベントが、人々を引きつけてやまない理由とは? 最新のモデルにはないレトロな自転車の魅力とは? 大矢アキオがリポートする。 -
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか?
2025.10.16デイリーコラム季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。 -
BMW M2(後編)
2025.10.16谷口信輝の新車試乗もはや素人には手が出せないのではないかと思うほど、スペックが先鋭化された「M2」。その走りは、世のクルマ好きに受け入れられるだろうか? BMW自慢の高性能モデルの走りについて、谷口信輝が熱く語る。