最終章:「『君たちはもう大丈夫だ』と言いたかったけど……」
2007.03.17 FIAT復活物語最終章:「『君たちはもう大丈夫だ』と言いたかったけど……」
伝説のTIが復活
今年のジュネーブ・ショーでフィアット・グループ3ブランドは、派手なコンセプトカーこそ発表しなかった。だが、いずれも身近で現実的ゆえに魅力あるトピックが多かった。
まずフィアットは、さきにイタリアで発表され本コラムでも紹介した新型ブラーヴォの世界公開を行った。(詳しくはこちら)
イタリア的なエモーショナルなフォルムが功を奏したようで、現地メディアでも「今度のブラーヴォは、ホントにbravo(よい)」と、なかなかの評判だった。
アルファ・ロメオは、従来からブレラに設定されていた200馬力JTDmターボディーゼルをスパイダーにも搭載したほか、ブレラとスパイダー両モデルにセレスピード仕様を追加した。後者は日本市場での販売に弾みをつけるに違いない。
159には、懐かしいTI(トゥリズモ・インテルナツィオナーレ)の名前を復活させた。ブレーキ性能を強化し、特製レザー内装を奢ったバージョンだ。
同時に、すでにメルセデスで行われているような特注内装オーダーシステムを全車に導入し、優雅さとモダーンさを重視した“ヴィンテージ”、レザーを強調した“コレツィオーネ”、スポーティーな“TI”の中から選べるようになった。
ランチアが新ロゴ発表
いっぽう、ちょっとしたサプライズは、ランチアが提供してくれた。
1979年のランチア・デルタ以来使われてきたエンブレムを、28年ぶりにリファインしたのである。ランチア史上6番目のデザインだ。
「世界のディーラーの看板掛け替え、大変だろうな」とか、「なんで創業100年の昨年にやらなかったんだろう」などと思いは巡るが、ブランド復活の“のろし”として評価しよう。
さらにランチアは、今年から各地のイベントで展開するという「ランチア・カフェ」のサンプルを一角に設営し、実際にエスプレッソ・コーヒーを提供した。
他社では真似できない“イタリアらしさ”でお客をシビれさせることを覚えたとは。フィアットのマーケティング・センスは、もう大丈夫である。
さながらライオンの如く
ところで、毎年フィアット・グループ3ブランドは、アール(英語のホール)5といわれる会場に陣取っている。
それに対して前回記したとおり、このショーで復活したアバルトは、なんとまったく別のアール1にスタンドを与えられていた。お隣さんにはミシュランやブリヂストン、カストロールといったブランドがある。
フィアット・ブースの一角ではなく、敢えてゴムや油の匂いのしてきそうなパーツ横丁に陣取るとは、なかなか泣かせる演出である。
と同時に、このフィアットのスタンスは、子を崖から落とす親ライオンのようでもある。
来年アバルトがどう育っているか、注目したいところだ。
ウンともスンとも
ところで毎年ボクは、ショーの休憩場所として、フィアットのスタンドでついついダラダラ長居してしまうのが常である。
もちろん、コンパニオンのお姉さんやお兄さんたちは現地採用だ。しかし、イタリア・ノリというのは、どこからともなく充満するらしい。「アンタたち、ホントにフィアット欲しいの?」などと冗談を交わしながら過ごせる。それは、マイバッハ62のリアシートを試すより何倍も楽しい。
ふとフィアット・スタンドの一角に、「500 WANTS YOU」と題したコーナーを発見した。今年9月に発売される新型500の事前告知として、昨年から展開されているキャンペーンである。
なかを覗くと、なんと「世界の言葉で“500”を聴こう」コーナーがあった。
以前この連載でボクが苦労の末「ごひゃく」と録音・応募した、アレである。(詳しくはこちら)
ボクの声が、花のジュネーブで再現されるとは。感涙にむせびつつ、すかさずディスプレイから「日本語」を選んでクリックした。
ところが肝心の音声がウンともスンとも出ない。他のディスプレイも試したがやっぱりダメだ。
おいおい、まだ一般公開前のプレスデイっつうのに!
クルマの信頼性や品質は向上したものの、意外なところが相変わらずイタリアン。だからフィアットは憎めない。
(文と写真=大矢アキオ-Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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